024「世話人頭マイルスの考察(2)」
クロが去った後、俺も実際にポテトフライを食べてみた。
衝撃的だった。
じゃがいもがこんなに美味しいだなんて⋯⋯。
それは周囲の子供達も世話人も同様で、皆がアナが作ったポテトフライの美味しさに呆然としていた。⋯⋯が、それは最初の一瞬だけでその後は皆競うようにポテトフライを口にした。
それにしても、アナのあの変化は何なのだろう?
正直あれは今まで見てきたアナスタシアではない。まるで別人だ。
「やっぱクロが言うように本当に彼女はあの『預言の聖女』⋯⋯なのだろうか」
次の日——俺はクロと一緒に孤児院長室でアナスタシアから『じゃがいも料理の商品化』の話を聞いた。
ちなみに、アナはクロに言われた通り1日で『商品化に関する資料』を作ってきていたのだが、それはとても9歳の子が、しかも孤児院で育った子が書いたとは思えないような質の高い資料だった。
それどころか、彼女はその資料の説明の前に俺たちに『ポテトフライを販売したい理由』を説明し始めたのだが、その内容が「子供達を孤児院から自立させるため」だったのだ。
もはや意味がわからなかった。
9歳の子供が言い出した商売の動機が、まさか他の子達の将来のことを考えての行動だっただなんて⋯⋯。
その後、クロは「子供達の孤児院からの自立のためというのであれば、君が子供達に文字の読み書きと計算、接客を教えろ」と無茶振りを言う。
ただ、クロもさすがに無理は言わずに「1年」と猶予をつけ、それまではポテトフライの販売は一旦保留にしようと話を進めようとしたのだが、
「もしも私が子供達に1ヶ月以内に文字の読み書きや計算を習得させることができたら事業を認めてくれますか」
アナスタシアからまさかの無茶振りを超える提案をしてきた。
1ヶ月⋯⋯さすがにそれを聞いたクロも驚きの表情をしていたが、すぐに「いいだろう。もし本当にできるのなら1ヶ月後にポテトフライの販売を許可しよう」と言って了承した。
そんな了承したクロの表情は何やらアナを試しているようにも見えた。もしかするとクロはアナスタシアが『預言の聖女』であるとかなり確信した上で彼女と接しているのかもしれない。
少なくとも俺にはそう見えた。
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その後、俺たちは食堂に行くとクロが「今日から皆に文字の読み書きとお金の計算を勉強してもらう。教えるのはアナスタシアだ。皆、励むように」と淡々と皆に伝えた。子供達も世話人も皆ポカーンとしている。
そんな中、アナスタシアもクロと同じテンションで特に皆の反応など気にせず、「子ども先生アナスタシアです。アナスタシア先生とお呼びください。では以後お見知りおきを⋯⋯」などと挨拶をした。
てか、クロとアナスタシアってなんか似てね?
その後、アナが皆に勉強について話をするがここでまた俺は驚くこととなる。
彼女はまずこれからの勉強の仕方を「1文字1文字声を出しながら紙に繰り返し書いていってもらいます」と告げた。「それに何の意味があるのか」と疑問に思ったが、それは子供達も同じだったようで彼女に質問をする。⋯⋯すると、彼女から驚くべき答えが返ってきた。
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「人は何かを覚えるとき声を出しながら書く⋯⋯つまり視覚・聴覚といった『五感』、そして『書く動作』といった『運動神経』をフルに使うことが『長期記憶』の定着に一番効果的なのです」
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長期記憶? なんだそれは!
アナスタシアは、人が物を覚えるとき声を出しながら同時に手を動かすなどしたほうが覚えやすいと⋯⋯《《さも当たり前》》のように言った。
何だ? 何なのだ、この子は!?
この彼女の当たり前という感覚で語られる《《ソレ》》は一体何なのだ⋯⋯!
彼女の口から出てくる『常識として語られる知識』など俺の中には一つも無いのだが?!
「⋯⋯意味がわからない」
俺は彼女が皆に向かって語る聞いたことのない知識を聞きながら⋯⋯ふと考える。
孤児院長であり『フィアライト侯爵家の次期当主』である俺の親友『クロフォード・フィアライト』は、アナスタシアが『預言の聖女』だったとした場合、彼女をどうするつもりなのだろう⋯⋯?
頭脳明晰で、先読みを常とする彼の真意は俺にはわからないが、でもフィアライト侯爵家の『懐刀』として代々仕えてきた『レッドフォード伯爵家』の人間である俺『マイルス・レッドフォード』は、そんな次期当主であり親友であるクロをこれからも最大限サポートしていく⋯⋯それだけは絶対に変わらない。
「先読みをするクロについていくのは大変だよ、まったく⋯⋯」
俺はいつもの愚痴をこぼす。
「クロがアナスタシアを『預言の聖女』としてどう扱うのか⋯⋯。もしかすると今後はそれ前提でクロとは話をしたほうがいいのかもしれんな」
もし、アナスタシアが『預言の聖女』だとしたら水面下で物事がいろいろと動き出すかもしれない⋯⋯。俺はそんな漠然とした不安を感じながらアナの話を聞いていた。




