021「孤児院長の考察(2)」
その後、彼女はさらに『じゃがいもの毒性』について話をしだした。
彼女は「じゃがいもの毒性は芽と緑に変色したじゃがいもだけ」だと言う。しかしそんなの今まで聞いたことがない話だったので私は訝しげに彼女を睨んだ。
しかし、彼女が説明するその様は『イセカイ』を言い換えたときと同じく《《さも当たり前》》感満載だった。
その時私は思った。これは『預言の刻印板』にある『異とする世界の叡智』なのではないかと。
今のアナスタシアには、この世界とは別の異なる世界⋯⋯『異世界の叡智』があるのではないかと。
そんなことを考えている横で、アナスタシアは「じゃがいも料理を商品化について」の話を始めた。
最初は「何を馬鹿なことを⋯⋯」と一蹴しようとしたがそこで私は考えた。
「一度、彼女の好きにさせてみよう」⋯⋯と。
だが、ここですぐに全面的に協力するような態度はかえって彼女に怪しまれると判断した私は、表面上は『渋々認める』という体裁を取った。
「今はとにかく彼女に警戒されるのだけは避けねば⋯⋯」
私は改めて彼女との距離感を気をつけるよう自分に言い聞かせるのであった。
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その後、昼食時間を使って「じゃがいも料理の試食会をやる」という話になった。
いくら彼女が『預言の聖女』である可能性が高いとはいえ、これまで食べたことのない⋯⋯それどころかこれまで人間の体には毒であると言われてきた『じゃがいも』を食べるのは少々⋯⋯いやかなり不安だった。
だが彼女が『預言の聖女』であるという『紛れもない確信』を1つでも欲しかった私は、体調を崩すかもれないという恐怖に何とか蓋をして『不退転の覚悟』で試食会に臨んだ。
そんな意を決して臨んだ試食会——初めてじゃがいも料理を口にした瞬間、さっきまでの覚悟が何だったのかというほど、そのじゃがいも料理はまともだった。
いや、まともどころの話ではない。ビックリするほど美味しかったのだ!
そのじゃがいも料理は縦に10センチほどの棒状のもので、それを手で摘んで食べるという極めてシンプルな料理だった。ちなみに料理名は『ポテトフライ』というらしい。
その後も私の手は止まらず⋯⋯いやむしろ止める気など微塵も起きないほど、この『ポテトフライ』のあまりの美味しさに取り憑かれた。
じゃがいもは、これまで『家畜の餌』という扱いで、しかも『じゃがいもには毒がある』というのが常識だったので誰も食べようとはしなかった。当たり前だ。
しかし、そんなじゃがいも料理がまさかここまで美味しいとは⋯⋯。
「それにしても、ただ油で揚げて塩をかけるだけでここまで美味しいとは⋯⋯」
調理方法は油で揚げて塩をかけるだけ。子供達でも作れるシンプルさ。しかもじゃがいもは簡単に育てることができるため大量生産してもそこまで金はかからない⋯⋯。
パッと思いついただけでもこれだけの有用性があるのだ。この『ポテトフライ』のポテンシャルは計り知れない。
「アナスタシアの持つ『異世界の叡智』⋯⋯これほどとは」
彼女の持つ『異世界の叡智』の土台となる世界はおそらくここよりもはるかに進んだ高度な文明なのだろう。なにせ1つの料理だけでこれだけのインパクトなのだから。
「彼女の持つ『異世界の叡智』⋯⋯その価値は計り知れない」
しかし『預言の聖女』の本質はそこではない。
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【預言の刻印板】
第一節
『世界が堕落し人々が希望を失いし時、神々の遣いである聖女がこことは異とする世界から現れ、その叡智と神の御力をもって再び安寧と豊穣をもたらすであろう』
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「聖女の本質は『神の御力』、これに他ならない。しかし⋯⋯」
そう、今のアナスタシアには『異世界の叡智』らしきものは確認できても『神の御力』は確認できていない。
「アナスタシアのあの叡智はこの世界のものではないことは確実⋯⋯であれば『預言の聖女』であることもほぼ間違いないだろう。あとは『神の御力』の発現⋯⋯か」
今はまだ彼女に『神の御力』は発現していないしあるのかどうかさえわからない。しかし、私はアナスタシアが『預言の聖女』であると確信している。
「今から準備しておく必要があるかもしれんな⋯⋯」
私はアナスタシアが『神の御力』をいずれ発現するであろうことを見据え、今のうちから動き出すのであった。




