002「前世ニートな俺がTS転生果たすまで(2)」
ところで、俺は20歳になった頃『TS転生もの』のラノベにハマった。
最初『TS』というものが何なのかよくわからなかったが、いろいろと作品を読んでいくと次第にその世界観や独特なキャラクター性にドップリと嵌っていった。
ちなみに『TS』というのは『トランスセクシュアル(Transsexual)』の略語で、意味は『肉体的異性化』または『性転換全般』を指す。
つまり『中身は男。体は女』または『中身は女。体は男』というやつだ。
俺の場合、さらにそこに『異世界転生』が入ってくるので、ジャンル的には『TS転生もの』となる(正式名称がソレかどうかは定かではない)。
そんな『TS転生もの』にハマったきっかけは『WEBラノベ』で、いわゆる『な◯う』や『カク◯ム』といった、プロまたはプロではない素人の物書きたちが自由に小説を投稿するWEBコンテンツだ。
程なくして『TS転生もの』にハマった俺は、この頃から毎夜の祈りを捧げるようになっていく(プロローグ第1話参照)。
生きることに疲れ、もはや今世に生きる価値を見出せなかった俺は、毎夜の祈りだけでなく『異世界に行ったときに役立つ知識』などをネットで学習していた。すべては異世界転生のために。
ちなみに、異世界転生の定番(定番とは?)である『トラック転生』には手を出さなかった。理由は単純『引きこもりニート』だから。そもそも外に出ないのだから。
また、近年の作品に多い『ブラック過労死転生』も俺には無理だった。理由は言わずもがな『ニート』だから。そもそも働いていないのだから。
なので、今思えば『トラック転生』も『ブラック過労死転生』もできない俺がよくもまあ異世界にめでたく転生できたものだと改めて感じる。
ちなみに俺が転生したのは30歳の誕生日で、毎夜の祈りを捧げた直後だった。一瞬目の前が暗転したあと、再び目を開けたらもうそこは——異世界だった。
え? 何で目を開けてすぐに異世界に転生したのがわかったのかって?
そりゃあ、目を開けたとき最初に飛び込んできたのが、
「アナスタシア!」
と、耳をピョコピョコさせた黒と白のストライプの髪色をした犬耳少年だったからさ。
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「アナスタシア⋯⋯。よかった、死んだのかと思ったよ」
目の前には俺に覆い被さりながら今にも泣き出しそうな顔をした男の子がいた。
さて、このことからもわかるように俺は本当に異世界に転生してしまったらしい⋯⋯しかも『女』として。
だって、『アナスタシア』なんて名前の男⋯⋯いないだろ?
ただ、一応「念には念を」ということで、俺はゴソゴソと自分の股間に手を入れ《《確認》》。すると、そこにいるはずの《《息子》》はもういなかった。
おおおお⋯⋯間違いない、まごうことなき『女性』だ!
ありがとう。そしてさようなら⋯⋯My Son!
ちなみに俺がゴソゴソいきなり股間をまさぐったもんだから、目の前の犬耳少年が「お、おまえ、何やってんの⋯⋯?」と訝しげな表情と視線を向けられたのは言うまでもない。
とりあえず、俺は一旦ベッドから出ようと立とうとした⋯⋯すると、
ガクン!
「えっ!?」
足にまったく力が入らず地面に倒れそうになった。
ガシッ!
「何やってんだ、バカ! お前さっきまで『魔素核喪失症』で死ぬとこだったんだぞ!」
「え? マナコア⋯⋯何?」
「とにかく今はそのままベッドで寝てろ! すぐに孤児院長と医者先生呼んでくるから!」
「あ、ちょっ⋯⋯!」
そういって、犬耳少年はさっさと部屋を出ていった。
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その後、犬耳少年が孤児院長という人と医者っぽい人を連れてやってきた。
ていうか、え? 孤児院長? だいぶ若いんだけど?
年齢はだいたい20歳前後だろうか⋯⋯肩ほどまであるその髪は透き通るようなライトブルーで瞳も同じ色をしている。また身長も170後半くらいだろうか、スッとした体型で佇むその様はまごうことなきイケメンである。
なるほど。これが『異世界クオリティ』というやつか。
ちなみに医者の人はまぁ⋯⋯普通の白髪のじーさんって感じだ。
それにしても俺が転生した『アナスタシア』って子は『孤児院』で暮らしているのか。
つまり両親がいないか、捨てられた⋯⋯といったところだろうか。
いや、捨てられたってことはないだろ。だってこんな可愛い子を捨てる親なんているわけないじゃん。 てことは、両親が病気か事故で亡くなったから孤児になったとかだろうな⋯⋯などと考えていると、
「ま、まさか、そんな⋯⋯!」
白髪の医者じーさんが俺を見てボー然と立ち尽くしていた⋯⋯と思った瞬間、一気に俺のところへと駆け寄りすぐに触診を始めた。
いきなり来たもんだからかなり驚いたが「ちょっ?! いきなりどこ触ってんのよー!」などと言わなかった俺はエライと思う。俺は空気を読む男なのだ。⋯⋯今は女だけど。
周囲の話だと、どうやら俺がアナスタシアに転生する前彼女は病気によって死んだらしい。実際その時に医者が心臓や脈を診て死亡を確認したとのことだった。
それから皆は一度部屋を出たらしいのだが、犬耳少年が「忘れ物をした」といってアナスタシアの部屋に戻ったタイミングが、俺がアナスタシアに転生して目を覚ましたタイミングだったっぽい。
そうして犬耳少年が急いでみんなを呼び戻して今に至った、とのことだった。
「さっき彼女が息を引き取ったのは全員で確認したはず⋯⋯」
「ええ。ですが現実に彼女は生きています。これは奇跡ですっ!!」
と、医者が興奮気味に孤児院長に話しかける。
「不治の病である『魔素核喪失症』に罹り一度息を引き取ったあと生き返る、か。たしかに奇跡の何物でも無いな」
孤児院長はそういって何やら難しい顔で考え始める。
ちなみにこの『魔素核喪失症』という病気は『不治の病』らしく、アナスタシアのように命を落とさなかったのはほんの数例しかないらしい。そのためかなりの奇跡レベルの出来事だったようだ。
ふ〜ん、な〜るほど〜。ということは俺の異世界転生はこれまで読んだ『異世界転生もの』と同じく、『チート能力』が備わっている可能性が高いと見た(ニヤリ)。
よっしゃ! みんながいなくなったあとすぐにでも能力確認という名の《《儀式》》を行おうではないか、などと思っていると、
「ん? ちょっとお待ちください⋯⋯」
触診が終わろうとした時、医者が突然何かに気づいた様子でちょうど俺の鳩尾あたりで手を止める。そして、
「⋯⋯鑑定」
ポウッ。
医者のじーさんが「鑑定」と呟いた瞬間、その手が突然青白く光った。
「えっ!?」
俺はそれを見てつい声に出してしまう。すると、
「今、君の魔素核を《《魔法》》で診てもらっているから静かにしなさい」
と、孤児院長になぜか怒られた。しかもすんごい剣幕で。
な、なんだよぉ! そんな怖い顔することないじゃないかぁぁぁ!
そんな孤児院長の理不尽な恫喝にビビっ⋯⋯納得いかないでいると、
「どんどん小さくなり消失しかけた魔素核は今は完全に元の大きさに戻っています。ですが⋯⋯」
「ですが⋯⋯なんだ?」
「彼女の魔素核の機能が⋯⋯完全に停止しています」
「何っ?!」
「22:00」に投稿します。