012「直談判」
「君はなぜじゃがいもが食用だとわかったのだ?」
「っ?!」
ええっ?! な、なんで! なんで孤児院長がその話を知ってるのぉぉ!
「な、なな、なんでそのことを知ってるんですか⋯⋯?」
「いやなに、さっき君らが畑にいた時のやり取りをマイルスが《《たまたま》》耳にしていたみたいでな。それで聞いたのだ」
ぐぬぬ⋯⋯マイルスさんめぇ、余計なことを。
「ホ、ホホホホ⋯⋯。さ、さあて、何のことでございましょう?」
「なぜ、ごまかし方が貴族の令嬢みたいになってる? そもそも、なぜ《《そんなごまかし方も》》君は知っているんだ?」
「うぐぅ⋯⋯っ!?」
墓穴掘ったぁー! めっちゃ掘ったぁー!!
も、もうダメぽ。これ以上はごまかしきれ⋯⋯い、いやいやいや、ちょっと待て! 仮に白状するとしても孤児院長になんて説明すればいいんだ?「えっとぉ〜、異世界からアナスタシアの体に転生しました〜てへっ!」なんて言うのか? そもそもそんなこと言って信じてもらえるか?
むしろ下手したら「この悪魔め!」なんて言われて悪魔憑き扱いで殺されないかぁぁっ?!
ど、どどど、どうしよう〜〜〜! うわぁ、孤児院長めっちゃ見てるぅぅ!
しかも言葉に詰まってだいぶ時間経ってるから明らかに疑わしい態度でしかない俺ぇぇぇ!!!!
しかし、そうはいっても答えが出ない俺は「もういいや。悪魔憑き扱いされてもいいから素直に話そう⋯⋯」と半ば諦めかけた、その時だった。
「ふむ、そうか。もしかしたらこういう知識も病気が治ったおかげで得た知識なのかもしれんな」
「⋯⋯え?」
何もかも告白しようと決意したその時——孤児院長が何やら勝手に解釈をし始めた。
「となると、病気のおかげで得た知識は《《もっと他にも》》あるのか?」
「さ、さあ、どうでしょう⋯⋯」
「そうか。まーその辺はまた《《おいおい》》聞いていくとしよう」
「⋯⋯」
お、おおお、おおおお⋯⋯! な、何だかわからんがここにきて孤児院長が俺にとって使い勝手の良い勘違いをしてくれたぁぁ!!!!
俺は孤児院長の勘違い解釈に「ラッキー!」と叫んで小躍りでもしたい気分だったが、この喜びが顔に出ないよう必死で感情を押し殺すことに努めた。
「いや、なかなかに興味深い。まるで神々が遺したといわれる『刻印板』のような話だ」
「刻印板⋯⋯ですか?」
「ああ。この国が建国した時から存在する『刻印板』⋯⋯いわゆる『石板』のようなものなのだが、そこには『こことは異とする世界から現れ、その叡智と神の御力をもって』という記述があるんだ」
「こことは異とする世界⋯⋯ですか?」
「ああ。それが君の『病気が治って起きたこと』と何となく似ているなと思ってな。⋯⋯コホン。いや気にしないでくれ。ただのおとぎ話だ」
孤児院長が「今のは聞かなかったことにしてくれ」と言いながら咳払いをし少し顔を赤らめ恥ずかしそうな仕草を見せる。まるで「そんなおとぎ話を別に信じているわけじゃないぞ!」という副音声が聞こえてくるように。
そして、そんな孤児院長の滅多に見せないリアクションを見せられたら、そりゃね⋯⋯⋯⋯いじわるもしたくなるだろJK!
「え? それって『こことは違う《《異世界》》から現れた人の叡智』ってことですか? え? 孤児院長ってそんなおとぎ話本気で信じているんですかぁ?」
俺はここぞとばかりに孤児院長にドヤ顔でちょっと煽ってみた。すると、
「っ!!!!」
「⋯⋯え?」
てっきり俺の言葉に孤児院長が苦虫を潰したような嫌な顔をすると思ったのに、実際は孤児院長は目を見開いて固まるという予想だにしないリアクションを見せた。
え? 何、そのリアクション?
しかもその後、孤児院長がニチャァとすんごく嫌なニヤけ顔を見せた。
え? 何? なんか俺、失言した?!
「こ、孤児院長! あ、あの、私、なんか変なこと言いましたか⋯⋯?」
「ん? フフフ⋯⋯いーやそんなことない、そんなことはないぞぉ。問題無いから君は何も気にしなくてよい。フフフ⋯⋯」
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾ⋯⋯(鳥肌全開)。
絶対なんかあるぅぅ!!!!
「う、嘘だぁぁ! 絶対何か隠してるぅぅ!!!!」
「大丈夫⋯⋯大丈夫だよ、アナスタシア。フフ、フフフ⋯⋯」
「そのほくそ笑みが怪しいって言ってるんですぅぅ!!!!」
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その後、孤児院長を問い詰めたが結局「フフフ」とただただほくそ笑みが続くだけでまともに話しをしてくれなかった。
「そんなことよりもアナスタシア。君の話をまとめるとその病気のおかげで得た知識では『じゃがいもは食用』だというのか?」
「え? あ、はい」
さっきの話をうまくスルーされたが、しかし今はそれよりも『じゃがいも』についての話が重要だと俺は頭を切り替え、孤児院長にプレゼンを始めた。
「じゃがいもは煮て良し、焼いて良し、揚げて良しの万能食材です!⋯⋯⋯⋯と病気のおかげで得た私の知識が囁いています」
ちゃんと『病気のおかげ』という設定は忘れず強調。
「なんだ、ゴーストとは?」
「いえ、お気になさらず」
言いたかっただけです。
「しかし、じゃがいもは毒があると聞いたぞ? そんな毒性のある植物⋯⋯本当に食べられるのか?」
「それは、じゃがいもの芽の部分だけです! あと、緑がかったじゃがいももダメです!」
「ほう、そうなのか?」
「はい」
孤児院長の話を聞く限り、どうやらこの世界ではやはりじゃがいもは食用とはなっていないらしい。
「そこで、なんですが⋯⋯」
「なんだ?」
俺はじゃがいもを発見したときから、孤児院長に直談判したかったことを意を決して伝える。
「じゃがいも料理を商品化して販売したいです!」
「じゃがいも料理の⋯⋯商品化?」
「はい! じゃがいもを使った料理はいろいろありますが、その中でも簡単で誰もが作れてめちゃめちゃ美味しい料理があるんです!」
「簡単で誰もが作れる? しかも美味しいだと?」
「はい! あ、でもその料理は塩と油を使うのですがここで用意できますか?」
「どっちもそこまで高くないから問題ない」
「え? 塩とか高くないんですか?」
「まー他の国だと高いかもしれんが、ここハルシュタイン聖王国は海が近いから塩は安価に手に入る。あと油の原料のオリーブオイルも豊富に採れるから油も問題ないぞ」
「おお、海が近いんですか! それは素晴らしいですね!」
海が近いってのは色々な面で立地的にかなり良いのでは?
それに、じゃがいもが食用じゃない世界ならもしかすると海産物も食用と扱われていない食材があるのかも⋯⋯いや、絶対にある! うわぁ可能性めっちゃ広がるぅ〜!!
おっと、少し話が脱線したな。現実に戻ろう。
「コホン。えっと、どうでしょう。じゃがいも料理の商品化⋯⋯」
「⋯⋯ふむ。そうだな」
そういって、孤児院長が考える素振りを見せる。
「⋯⋯アナスタシア。それは本当に誰でも簡単に作れるものなのか?」
「は、はい。何だったら今からでも作れます!」
「何っ!? い、今からでもすぐに作れるのか!」
「ええ、できますよ」
「⋯⋯なんと」
孤児院長が俺の言葉に素直に驚く。
「そうか。では頼めるか?」
「わかりました」
「私は普段孤児院では食事を摂らないが、今回は君のそのじゃがいも料理を昼食時間を使って試食させてもらおう」
「わかりました。ではぜひ味わってください。それでもしちゃんと美味しかったら商品化をお願いします」
「いいだろう」
ということで、急遽お昼時間に『じゃがいも料理試食会』が決定した。




