010「じゃがいもの可能性」
「あ、そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど⋯⋯」
と俺は皆に声を掛ける。
「じゃがいもって家畜の餌になるってリッツから聞いたんだけどこれって儲かるの?」
「え?」
「儲かる?」
俺の質問にヴィラとシエラが妙な反応をした。
「な、何?」
「ア、アナスタシアから『儲かる』なんて言葉が出るなんて⋯⋯」
「ハハハ、本当だよねー」
ああ、そっちね。
「俺そういえば聞いたことあるけど⋯⋯たしか1キロ大銅貨1枚くらいだったと思う」
「1キロ⋯⋯」
おお、重さの単位も『地球準拠』なんだ。アナスタシアの記憶でも一年は365日で季節は『春夏秋冬』があって1日も24時間みたいだから⋯⋯おそらくこの世界の構成は『地球準拠』であることはほぼ間違いないだろう。
しかし異世界あるあるとはいえ、これって何か『地球準拠』である理由でもあるのだろうか?
なーんて考えてもわからないし、わかったところで俺にとっては「へーそうなんだ」程度でさほど重要ではない。なので現実に戻ろう。ていうか、
「いや1キロ大銅貨1枚って安過ぎないっ!?」
たしかいつも食べてる黒パンが1枚大銅貨5枚だったはず。黒パンよりもだいぶ安いじゃん!
「まーな。でも家畜の餌だからな〜」
「そもそも食用じゃないし子供でも作れるからってことで孤児院で始まったらしいよ」
と、ラッセルとシエラが言う。
「何もしないよりは少しでも⋯⋯ってことか」
ちなみに、大銅貨は100枚で銀貨1枚になる⋯⋯とアナスタシアの記憶にあった。アナスタシアは日常的に目にする銅貨、大銅貨、銀貨くらいまでは把握していた。
つまり銅貨10枚で大銅貨1枚なので『銅貨100枚と大銅貨10枚は同じ』で、それは『銀貨1枚相当』となる。それ以上のお金の知識は記憶になかったが、この法則でいくと、おそらくその後も『銀貨、大銀貨、金貨』と続くのだろうと思われる。
それにしてもこの世界の平民の主食であろう黒パンが大銅貨5枚ってことは価値的には日本円だと50円くらいか。そうなると、じゃがいもは1キロで10円ってことになる。
「ちなみに、1回の収穫で何キロくらい採れるの?」
「そうねー、1キロの袋で20袋かな?」
「てことは、1回の収穫で20キロだから大銅貨200枚、銀貨で20枚か。次の収穫は?」
「11月頃かなぁ」
「てことは、収穫は年2回。となると一年でじゃがいもで得られる収入は40キロだから銀貨40枚か。孤児院全員分の1日の食費っていくらくらいなんだろ?」
「あ、それ世話人頭のマイルスさんから聞いたことあるよ。たしか⋯⋯」
と説明を始めたのはシエラ。そのシエラの話によると孤児院1人分の1日の食費が『銀貨1枚』程度らしい。で、孤児院は子供10人、世話人5人いるので、15人分の1日の食費だと『銀貨15枚』くらいになるとのこと。
ちなみに平民の1人分の1日の食費は『銀貨4〜5枚』くらいらしい。孤児院の食事がいかに平民よりも少ないかってことがよくわかった。
「てことは、一ヶ月30日で計算したら銀貨450枚。それをさらに一年12ヶ月で計算すると年間の食費は銀貨5,000枚。じゃがいもは一年で20キロ収穫できたとしてもその利益は銀貨40枚程度。食費の足しにもなんないじゃーん⋯⋯⋯⋯ってあれ?」
ぽかーん。
あれ? みんなめっちゃぽかーんしてる。どしたっ?!
「ア、アナ⋯⋯なんでお前習ったこともないのに⋯⋯そんな計算ができんの?」
「え?」
「い、いやいや、それよりあんた計算早過ぎでしょ!?」
「う、うん⋯⋯! 正直大人でもここまで早い人見たことないよ! どこでそんなの習ったの?!」
リッツ、ヴィラ、それとボンズがそんなことを言いながら俺に詰めてくる。周りの子達もコクコクコクと3人の言葉に同意の意を示す。
「え、え〜と⋯⋯」
やばい。考えたらここって孤児院だからまともな教育なんて受けてないから計算ってできないのか! う〜んどうしよ⋯⋯。
いや待てよ? ここで焦ってはいけない。
あくまで冷静に、スマートに、サクッと逃げよう。
「⋯⋯⋯⋯じゃ、そういうことで」
「「「「「逃がすかぁぁ!!!!」」」」」
逃走失敗でした。
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「アナスタシア! あんたどうしてあんなに計算早いのよ!」
「ていうか、なんで計算とかできるの?!」
「どこで教わったんだ!」
やいの、やいの。
う〜ん、さてどうしよう? ここで下手な嘘はおそらく通じないだろう。ということで『病気が治ったらこうなった』をさらに風呂敷を広げることにした。
「う〜んと、なんだかよくわからないけどぉ〜、病気が治った後からぁ〜、計算ができるようになっちゃったのぉ〜」
「「「「「は?」」」」」
「私もよくわからないんだけどぉ〜、なんかスラスラスラーって計算ができちゃったのよねぇ〜」
「「「「「は、はあ⋯⋯」」」」」
とまあ、『病気が治ったらこんなんなってました拡大解釈版』の爆誕である。
ていうか、正直これですべて通るんじゃね? だって、俺の罹った病気は『魔素核喪失症』っていう不治の病でしかも未知な部分が多い以上、こういう拡大解釈で病気を理由にしても「そんなことない」なんて否定できないよねぇ?
つまり、これは俺からしたら今後の『最高の言い訳材料』という『免罪符』になるのではないだろうか。⋯⋯などと考えていたら、
「私たちには判断できないから孤児院長に聞いてみましょ」
「えっ?!」
ここで、ヴィラからまさかの提案が飛び出す。
「こ、ここ、孤児院長に⋯⋯?!」
「ええ、そうよ。あら? 孤児院長には聞いちゃいけないの? 言えない何かがあるっていうの?」
「うっ?!」
ヴィラが俺の焦りに気づいたのか一瞬ニヤッと微笑むとさらに疑惑の追及を強める。やばい。これ完全にヴィラのターンや!
「そ、そんなことないわ。オホホホ⋯⋯」
「あらそう? ならいいわよね。じゃあ、セーラ、アイラ」
「はいはーい!」
「孤児院長ー!」
ビュンという音が聞こえるほどの猛ダッシュで二人が孤児院長を呼びに行った。そして、
「一体、何の騒ぎかね⋯⋯」
孤児院長キターーーー!(涙目)




