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7/20

佐々木に人間と認めてもらうために全力アピールしてみた件について

転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。


しかも、動物園で。


これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、

なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。


言葉は通じない。

服も着られない。

檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。


なのに心だけは、ちゃんと人間。

恋も、恥じらいも、プライドもある。


目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。

彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。


だが健人にとっての最大の壁は、

恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。


なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?

なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?

そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?


これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、

恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。


それでは、はじまりはじまり。

ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。

俺の名前は植松健人うえまつ・けんと。24歳。筋肉と共に生きてきた。


見た目は人間。でも、神様のミスで転生先は異世界ではなく──動物園。

しかも姿は人間のままなのに、周囲にはなぜかゴリラとして認識されている。


中身:日本人男性 見た目:人間 扱い:ゴリラ


──だが、俺はついに気づいてしまった。


昨日、ある来園者の一言。


「なあ……このゴリラ、人間じゃないか?」


たった一言。それでも俺には希望だった。


(もしかしたら……この世界でも、“俺は俺”として生きられるかもしれない)


だから俺は、決めた。


今日、人間として全力でアピールする。


檻の中央に立ち、深呼吸。

ガラスの向こうには観客が集まり、佐々木あかりの姿もあった。


俺はまず一礼し、口パクで叫ぶ。


「私の名前は、植松健人! に・ん・げ・ん、です!!」


そして“人”という字を指で描く。

ジェスチャーで「HUMAN」「NOT GORILLA」とも口を開いて訴えた。


(絶対、伝わってくれ……!)


だがアナウンスはお構いなしだった。


「さあ、本日も始まりました! 天才ゴリラ・ケントくんの“人間ごっこショー”!」


(違う! 真似じゃねえ! 本物なんだよぉぉぉ!)


観客「言葉しゃべってるみたい~!」

観客「すごい! ほんとにゴリラ!?」


──俺の悲痛な訴えは、完全に芸として処理されていた。


でも、ただ一人だけ違った。


「……待って」


佐々木あかりが、じっと俺を見ていた。

その目は、どこか真剣で。


「……違う。“言葉を真似てる”んじゃなくて、伝えようとしてる」


彼女はまっすぐ、俺の動きを見ていた。


俺は指で、ガラス越しに名前を書く。


「ウ・エ・マ・ツ・ケ・ン・ト」


彼女は目を見開き、息を呑んだ。


「名前……? ケントくん……?」


頬が、わずかに赤くなる。

その手が、なぜか自分の胸のあたりをおさえていた。


(やっと……伝わったか?)


──その直後だった。


ガタン、と檻の端から異音が響いた。


老朽化したロープ遊具の支柱がぐらつき、ゆっくりと傾き始める。


その延長線上──

管理用の通路、ちょうど外を歩いていた佐々木がいた。


(まずい! あの距離……!)


俺は全身で駆け寄り、金網の隙間に設けられた緊急餌入れ用の小窓から腕を突き出した。


「ウホッ!(訳:危ない!!)」


ガシッ。


俺の手が、彼女の肩をぐっとつかんだ。

そのまま壁際へ引き寄せる。


直後、鉄製の遊具の支柱が柵にぶつかり、激しく弾かれる音が鳴った。


「……っ!?」


佐々木は驚きながらも、倒れかけた支柱を見てようやく状況を把握した。


そして──自分をかばった手が、檻の中から伸びていたことに気づく。


(……人間……? こんなふうに瞬時に判断して、咄嗟に引き寄せて……)


ガラス越しに見る健人は、ただ静かにこちらを見ていた。

まるで、「大丈夫だったか?」と語るように。


彼女の瞳が揺れる。


「なんで……あったかい……?

 この感じ……人の……」


胸をおさえた手が、じんわりと熱を帯びていた。


そのとき、園内に響くアナウンス。


「以上、“言葉を真似して人をかばう賢いゴリラ”のパフォーマンスでしたー!」


(ちがああああああああああああああああああああう!!!)


檻の中で、俺はガラスに額を押し当てた。


観客は拍手。

佐々木はまだ、動けなかった。


でも──その頬は明らかに赤く染まり、

彼女の中の“飼育員と動物”という境界線が、少しずつ崩れ始めていた。


(もう、ただのゴリラじゃない……)


彼女は、言葉にはしなかったが、

初めて“ケントくん”という名前を心の中でそっと呼んでいた。


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