夜の見回りとゴリラの筋肉アピールしてみた件について
転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。
しかも、動物園で。
これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、
なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。
言葉は通じない。
服も着られない。
檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。
なのに心だけは、ちゃんと人間。
恋も、恥じらいも、プライドもある。
目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。
彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。
だが健人にとっての最大の壁は、
恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。
なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?
なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?
そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?
これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、
恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。
それでは、はじまりはじまり。
ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。
夜の動物園は静かだ。
来園者はいないが、飼育員は夜の見回りをする。
佐々木あかりはペンライトを持ちながら、ゴリラ舎の前で足を止めた。
「……ケントくん、まだ起きてるの?」
檻の中、寝床で寝そべっていたはずの俺は、ペカーっとライトに照らされて、思わずポーズを取ってしまう。
「ウホッ(バキッ)」
ドラミングの音が夜に響く。
「もう……夜くらい大人しく寝なよ?」
佐々木は笑いながら言うが、その目は少しだけ優しい。
俺はここぞとばかりに筋肉アピール。
檻の中でベンチプレスの姿勢を取りながら、ゴリラらしからぬフォームで体をひねって見せる。
「ウホウホ(見ろこの三角筋)」
「……なんで夜に筋トレしてるの? ゴリラってこんな感じだったっけ?」
思わず笑って吹き出す佐々木。
だが、ペンライトの光の中でふと目が合うと、その笑顔が少しだけ柔らかくなった。
「……ほんと、変なゴリラだよ、ケントくん」
俺は檻越しに手を伸ばす。
佐々木は最初、「え、なに?」という顔をしたが、そっと指先だけ触れてくれた。
(近い……)
手の大きさの違いを感じながらも、体温はしっかり伝わる。
佐々木は小さな声で呟く。
「もし、ケントくんが人間だったら……なんて、変なこと考えちゃうな」
すぐに「あ、いや今のナシ! 忘れて!」と慌てて顔を赤らめ、ペンライトを振って誤魔化す佐々木。
俺は思わず「ウホッ」と低く鳴き、檻の中でプルプルしながら二頭筋をアピールする。
「いやそのポーズは意味わかんないって!」
佐々木が笑って肩を揺らす。
夜空には、まんまるの月が浮かんでいた。
「……ケントくん、そろそろ寝るんだよ?」
最後に小さく手を振り、佐々木は去っていく。
その背中を見ながら、俺は心の中で叫ぶ。
(待ってろよ、佐々木……次は絶対、人間だってわからせてやるからな……!)
その夜、月明かりの下でドラミングをしながら筋トレを続けた俺は、翌朝、肩がパンパンで動けなくなっていた。