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ついにグッズ発売!?

転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。


しかも、動物園で。


これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、

なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。


言葉は通じない。

服も着られない。

檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。


なのに心だけは、ちゃんと人間。

恋も、恥じらいも、プライドもある。


目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。

彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。


だが健人にとっての最大の壁は、

恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。


なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?

なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?

そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?


これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、

恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。


それでは、はじまりはじまり。

ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。

その日、動物園の空気は朝から落ち着かなかった。


 売店の前に立て看板が出ている。

 文字がでかい。主張が強い。


『本日!新グッズ発売!』


「ウホ……(ついに来たか)」


 俺は獣舎の中からそれを眺めて、じっと息を吐いた。

 嫌な予感しかしない。


「健人!起きて!」


 飼育員の佐々木あかりが駆け込んできた。作業着姿で、今日もテンションが高い。


「今日は売店が戦場になるから!」


「ウホ……(言い方が物騒すぎる)」


「いよいよグッズ発売の日だよ!」


「ウホ……(ついに俺の商品化が現実に――)」


 そう思ったのに、佐々木はニコニコしながら自分の胸元を指さした。


「私のもね!」


「ウホ……(は?)」


 取り出されたのは缶バッジ。


 佐々木の笑顔がど真ん中に印刷されている。

 無駄に出来がいい。


「見て!かわいくない!?」


「ウホ……(かわいいけど腹立つ)」


 次々出てくる。


 佐々木アクスタ。

 佐々木作業着ミニチャーム。

 佐々木『よしよし』音声ボタン。


 ボタンを押す。


「よーしよし。えらいえらい」


「ウホ……(やめろ。効く)」


 佐々木が嬉しそうに言う。


「園長がね、“佐々木が可愛いから売れる”って!」


「ウホ……(あいつ余計なことしかしないな)」


 


 売店前。


 俺はなぜか開店式の横に立たされていた。

 スタッフが並び、来園者が集まり、スマホが構えられる。


「本日より新グッズ発売開始です!」


 拍手が起きる。


 そのタイミングで、スーツ姿の男が前に出てきた。


「……誰?」


「ウホ……(知らん人が勝手に仕切ってる)」


 佐々木が小声で教える。


「園長だよ」


「ウホ……(園長かよ)」


 男――園長は落ち着いた声で言った。


「園長の月俣です。本日はお越しいただきありがとうございます」


「ウホ……(いやもっと“圧”で出てくる人だと思ってたんだが)」


 園長は淡々と続ける。


「本日は、健人グッズと佐々木グッズの同時発売です」


「ウホ……(俺のもある!?)」


 佐々木が小声で言った。


「あるよ。ちゃんと作ったよ」


「ウホ……(頼むから空気はやめろよ)」


 


 販売開始。


 列が動く。

 そして俺は、すぐ理解した。


 列が二つに分かれた。


 右。佐々木グッズ。

 左。健人グッズ。


 右が増える。増える。増える。

 左は……増えない。


「ウホ……(露骨すぎるだろ)」


 まず右から声が上がった。


「佐々木缶バッジ!完売でーす!」


「ウホ……(早っ)」


「佐々木アクスタ!残りわずかでーす!」


「よしよしボタン!大人気でーす!」


「ウホ……(強すぎ)」


 客が騒いでる。


「よしよし欲しい!」


「推し!」


「かわいい!」


「ウホ……(推しって言うな!聞こえるだろ!)」


 佐々木は照れながら手を振る。


「ありがとうございます……!」


「ウホ……(照れるな!勝ち誇るな!)」


 


 その頃、左側。


 俺の売り場にも健人グッズは並んでいた。


 健人キーホルダー。

 健人缶バッジ。

 健人クリアファイル。


 ……全部、俺の顔が微妙に盛られている。


「ウホ……(盛るな)」


 スタッフが小声で呟く。


「健人キーホルダー、誰か買ってくれないかな……」


「ウホ……(悲しい声出すな)」


 ようやく一人の客が立ち止まった。


「えっ、ゴリラのグッズもあるんだ」


「ウホ……(“も”がきつい)」


 客はキーホルダーを手に取って――戻した。


「……いや、今日は飼育員さんの方で」


「ウホ……(戻すな!!戻すな!!)」


 別の客が来た。


「健人って名前なんだ。かわいいね」


「ウホ……(いいぞ!)」


 と思ったら、その客は右へ流れた。


「……でもよしよしボタン買う」


「ウホ……(結局そっちかよ!!)」


 売り場の札が目に入る。


『健人グッズ 売上:0』


「ウホ……(0って書くな!)」


 その横。


『佐々木グッズ 売上:爆』


「ウホ……(爆って何だよ!!)」


 


 佐々木がこっそり近づいてくる。


「健人、ごめんね……」


「ウホ……(謝るな!余計つらい!)」


「きっと、これからだよ」


「ウホ……(今すぐだよ!!)」


 園長が横を通り過ぎながら、普通に言った。


「健人。現実を見ろ」


「ウホ……(お前が言うな!!!!)」


 悔しい。

 腹立つ。

 そして何より、佐々木が照れてるのが悔しい。


「えへへ……みんなありがとう……」


「ウホ……(その笑顔、販促兵器すぎるだろ)」


 俺の中で、限界が来た。


 言葉は出ない。

 だから行動に出る。


 胸を叩いた。


 ドン。


 ドン、ドン。


 ドドドドドド!!


 売店前の空気が止まる。


「えっ!?健人!?」


「ドラミング!?」


「ウホ……(イベントじゃねえ!敗北だ!)」


 俺は止まらない。


 ドドドドドドドド!!


 嫉妬とプライドと理不尽を全部、音にする。


 客がざわつく。


「すごい迫力!」


「健人も推せる!」


「ドラミング缶バッジ欲しい!」


「ウホ……(遅いわ!!今さら欲しがるな!!)」


 佐々木が慌てて叫ぶ。


「健人!落ち着いて!!」


 園長が遠くで頭を抱えた。


「……だから言ったのに」


「ウホ……(言うな!)」


 俺は最後に、渾身の一発を叩いた。


 ドン!!!!


 看板がブルッと揺れた。


『本日!新グッズ発売!』


 その下に、小さな張り紙が増えていた。


『健人グッズ、在庫あります』


「ウホォォォォ!!(そこは完売って書けよ!!!!!)」


 こうしてグッズ発売初日は大成功――らしい。


 佐々木は完売。

 俺は在庫。


 音だけ派手に。

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