そろそろ本気でグッズ会議しなさい
転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。
しかも、動物園で。
これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、
なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。
言葉は通じない。
服も着られない。
檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。
なのに心だけは、ちゃんと人間。
恋も、恥じらいも、プライドもある。
目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。
彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。
だが健人にとっての最大の壁は、
恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。
なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?
なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?
そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?
これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、
恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。
それでは、はじまりはじまり。
ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。
会議室に入った瞬間、俺は悟った。
机の上に試作品。
壁には貼り紙。
『健人グッズ 試作品体験会』
そして、空気が妙にピリッとしている。
理由は一つ。
防災訓練だけ人格が変わる飼育員が、今日も完全に“そっち側”だった。
腕章にはこう書かれていた。
『防災健人グッズ担当』
「ウホ……(担当って何だよ)」
彼は立ち上がり、無駄に良い声で宣言した。
「皆さん! 本日は! 健人グッズの実用性を検証します!!」
「ウホ……(実用性あったら逆に怖い)」
佐々木が隣で小声を漏らす。
「これ、仕事だよね……?」
「ウホ……(多分な)」
議長が咳払いをして言った。
「では試作品を順番に試していきましょう。
“売れる健人”を決めます」
「ウホ……(言い方)」
まず一つ目。
防災担当が、赤い何かを掲げた。
「第一試作品! こちら!」
出てきたのは――
健人の顔が描かれた防災ヘルメット。
目だけやたらリアル。
「ウホ……(怖)」
「災害時、健人の安心感を頭部に装備することで、パニックを防ぎます!」
「ウホ……(防げない)」
スタッフが被った。
「……落ち着く、かも」
「目が合うと逆に落ち着かない」
「ウホ……(だろうな)」
次。
「第二試作品!」
出てきたのは――
健人の手形(巨大)ホイッスル。
吹くと「ピッ」じゃない。
「ウオォォォ……」みたいな音が出る。
「ウホ……(ホイッスルじゃない)」
「非常時にこの音が響けば、全員が避難を開始します!」
「ウホ……(開始じゃなくて逃亡だ)」
次。
「第三試作品!」
机に置かれたのは、ただの透明袋。
ラベル。
『非常時用:健人が一度見た方向の空気』
「ウホ……(空気に方向つけるな)」
開ける。
全員が吸う。
「……」
「……どう?」
「……何も変わらん」
「ウホ……(そりゃそうだ)」
防災担当は即メモを取る。
「“平常心を維持”……っと」
「ウホ……(都合よすぎる)」
次。
「第四試作品!」
出てきたのは――
健人の沈黙を再現した防災ラジオ。
スイッチを入れる。
「……」
「……」
「……」
「ウホ……(壊れてる)」
「災害時、余計な情報は混乱を招きます!」
「ウホ……(ラジオの存在意義)」
佐々木が遠い目をしている。
次。
議長が言う。
「そろそろ、普通に売れそうなものも試します」
「ウホ……(最初からそうしろ)」
机の布が外される。
出てきたのは――
健人の“握手会券”。
紙一枚。
『健人と握手(3秒)』
「ウホ……(生体を券にするな)」
スタッフの一人が言った。
「これ、来園者めっちゃ喜びそう」
「写真撮りたい人もいるよね」
防災担当が立ち上がる。
「ダメです!!」
「ウホ……(なんでだよ)」
「非常時に握手してる暇はありません!!」
「ウホ……(平常時だよ)」
議長が頭を抱える。
「……防災担当、今日は“売店”の話です」
「あっ……失礼しました!!」
「ウホ……(切り替え早いな)」
その後も試作品は続いた。
健人の安心感シール(貼る場所がわからない)
健人の背中っぽい段ボール(段ボール)
健人の存在感を感じる空箱(空)
「ウホ……(概念ばっかりだな)」
全員の表情が、少しずつ死んでいく。
議長が言った。
「……正直、どれも決め手に欠けますね」
佐々木がうなずく。
「健人も、さすがに疲れてるよね」
「ウホ……(当たり前だ)」
そのとき。
机の端に、最後の布が残っていることに気づいた。
防災担当が、ゆっくりとそれを外す。
「……これが、最後です」
出てきたのは――
ただのキーホルダーだった。
小さい。
普通。
金具がついてる。
そして、顔が主張しすぎてない。
健人のイラストがちょこんといる。
「ウホ……(……普通!?)」
「こちらは“防災健人”ではありません」
「ウホ……(急に正気)」
「ただの……健人です」
みんなが黙った。
沈黙の中、誰かがぽつりと言う。
「……これ、売れそう」
「うん。普通に欲しい」
「安心する」
「持ち歩ける」
「ウホ……(さっきまで空気吸ってた人たちの発言とは思えない)」
防災担当が拳を握りしめる。
「そうか……“非常時”じゃなく、“日常”に寄り添うのが健人……!」
「ウホ……(急に名言にするな)」
議長が俺を見た。
「健人、どう思う?」
全員の視線。
(俺ゴリラだよ?
……いや、俺ゴリラちゃうわ)
俺はもう、何も考えたくなかった。
ただ――
机の上の“普通のキーホルダー”が目に入った。
俺は、指を伸ばした。
ちょい、と指差す。
「ウホ」
一拍で決まった。
「これだ!!」
「これしかない!!」
「逆にこれが一番“健人”!!」
「よし、量産!!」
「商品名は――」
防災担当が叫ぶ。
「防災健人キーホルダー!!」
「ウホ……(防災を捨てろ)」
佐々木が即座に突っ込む。
「普通の健人でいいでしょ!」
「ウホ……(珍しく俺と意見が一致)」
会議終了。
廊下に出た俺は、どっと疲れて天井を見上げた。
「ウホ……(消去法で俺が決めたことになってるの納得いかない)」
佐々木が肩をすくめる。
「でも、これなら売れるよ」
「ウホ……」
遠くから聞こえてくる声。
「健人キーホルダー、絶対買う!」
「早く出して!」
「ウホ……(空気じゃなくてよかったな)」
こうして今日も、
動物園の売り上げは伸びそうだった。
俺の意志とは関係なく。




