企画会議に呼ばれた件
転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。
しかも、動物園で。
これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、
なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。
言葉は通じない。
服も着られない。
檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。
なのに心だけは、ちゃんと人間。
恋も、恥じらいも、プライドもある。
目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。
彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。
だが健人にとっての最大の壁は、
恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。
なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?
なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?
そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?
これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、
恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。
それでは、はじまりはじまり。
ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。
その日、俺は獣舎でいつも通り寝転がっていた。
「健人、あとで会議あるから」
佐々木あかりが、まるで散歩に誘うみたいな軽さで言う。
「ウホ……(会議?)」
「動物園の売り上げ上昇会議」
「ウホ……(売り上げ?)」
嫌な単語が並んだ。
「一応、参加ね」
「ウホ……(一応って何だ)」
数十分後。
俺はなぜか、会議室の一番奥に座っていた。
長机。
ホワイトボード。
資料。
ペットボトルのお茶。
完全に人間の空間だ。
「……」
「……」
全員が一度、俺を見る。
「ウホ……(なんで誰も疑問に思わない)」
会議が始まった。
「では、今月の来園者数についてですが……」
真面目な話が続く。
グラフが出る。
数字が並ぶ。
「若年層の集客が課題ですね」
「SNS施策も頭打ちで……」
「ウホ……(完全に場違い)」
佐々木が横で小声で言う。
「健人、聞いててね」
「ウホ……(何を)」
議題が進む。
「新しい目玉が欲しいですね」
「話題性があって……」
その瞬間、全員の視線が、また俺に集まった。
「……」
「……」
「ウホ……(やめろ)」
防災訓練で見た、あの張り切る飼育員が手を挙げた。
「提案があります!」
嫌な予感しかしない。
「“安心感”です!」
「ウホ……(抽象的)」
「防災訓練でも証明されました。
ゴリラがいると、人は落ち着く!」
「ウホ……(証明されてない)」
「つまり――」
ホワイトボードに大きく書かれる。
『安心の象徴』
その下に、矢印。
『健人』
「ウホ……(俺が概念になってる)」
別の人も頷く。
「確かに、健人くんを見ると安心しますよね」
「写真撮影の列もできてますし」
「存在自体がコンテンツ……」
「ウホ……(俺ゴリラだよ?)」
心の中で即座に続く。
(……いや、俺ゴリラちゃうわ)
誰も俺をゴリラとして扱っていない。
「例えばですね」
資料が配られる。
『健人を中心にした導線案』
「ウホ……(導線!?)」
「健人を起点に回遊してもらえば、滞在時間が伸びます」
「ウホ……(俺、Wi-Fiか何か?)」
佐々木が一応フォローする。
「健人、無理なことはしないからね」
「ウホ……(もう無理だ)」
最後に、議長が言った。
「では、健人から一言」
「ウホ……(なんで)」
全員が期待の目で見る。
俺は、机の上のお茶を見つめた。
(売り上げ……)
(安心感……)
(俺……)
「……ウホ」
一拍。
「深いですね……」
「重みがある……」
「ウホ……(どこが)」
会議は満足そうに終了した。
獣舎に戻った俺は、いつもの位置に座り込んだ。
「ウホ……(売り上げ会議にゴリラ呼ぶな)」
佐々木が通りがかる。
「健人、今日の会議、助かったよ」
「ウホ……」
外から声が聞こえる。
「やっぱり健人がいると安心するよね」
「ウホ……(安心って便利な言葉だな)」
こうして今日も、
動物園の売り上げと、
俺の立場だけが、
静かに更新された。




