表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/40

防災訓練が始まった件

転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。


しかも、動物園で。


これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、

なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。


言葉は通じない。

服も着られない。

檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。


なのに心だけは、ちゃんと人間。

恋も、恥じらいも、プライドもある。


目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。

彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。


だが健人にとっての最大の壁は、

恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。


なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?

なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?

そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?


これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、

恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。


それでは、はじまりはじまり。

ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。

 その日、動物園にいつもより低くて重たい放送が流れた。


「本日は防災訓練を行います」


 俺は獣舎の床で寝転がっていた。


「健人、起きて」


 佐々木あかりの声。

 嫌な予感しかしない。


「ウホ……(絶対巻き込まれるやつだ)」


 外に出ると、スタッフ全員ヘルメット着用。

 その中で、一人だけ明らかに様子のおかしい男がいた。


 腕章、無線二台、ホイッスル三本。

 目がギラギラしている。


「来たね……今年も」


 佐々木が小声で言う。


「あの人?」


「防災訓練になると人格変わる人」


 男が前に出る。


「――よし! 本番を想定していくぞ!!」


 本番じゃない。


「まずは避難誘導!」


 男の視線が、真っ直ぐ俺に向いた。


「ゴリラくん! 君はここだ!」


「ウホ……(俺ゴリラだよ?)」


 ロープを渡される。


「この位置に立って、流れを制御してくれ!」


「ウホ……(制御?)」


 立つ。


 人の流れが、なぜか綺麗に分かれた。


「完璧だ!!」


「安心感が違う!」


「ウホ……(いや、俺ゴリラだよ?)」


 次。


「指示伝達役!」


 無線を押しつけられる。


「短く、的確に!」


「ウホ……(無線……?)」


 持ててしまう。


「……ウホ」


「了解!」


「ウホ……(通じるな)」


 男が頷く。


「いい判断だ! 落ち着いている!」


「ウホ……(俺ゴリラだよ?)」


 次。


「救護訓練!」


 担架。


「運搬、頼めるか!」


「ウホ……」


 持てる。

 安定する。


「揺れがない!」


「理想的だ!」


「ウホ……(理想にするな)」


 頭の中で、また思う。


(俺ゴリラだよ?

 ……いや、俺ゴリラちゃうわ)


 誰一人、ゴリラ扱いしていない。


 最終段階。


「全体まとめ!」


「ウホ……(まとめ!?)」


 男が真剣な顔で見る。


「君が一番冷静だった!」


「ウホ……(比較対象誰だよ)」


 無線を持つ。


「……ウホ」


 拍手。


「素晴らしい!」


「完璧だ!」


「ウホ……(防災訓練で一番働いてるのおかしいだろ)」


 訓練終了。


 男は満足そうにヘルメットを脱いだ。


「今年も良い訓練だった……」


 途端に普通の人に戻る。


 獣舎に戻り、俺は床に座り込んだ。


「ウホ……(防災訓練の日だけ、世界線ズレるな)」


 佐々木が通りがかる。


「健人、助かったよ」


「ウホ……」


 外から聞こえる声。


「やっぱりゴリラがいると安心だね」


「ウホ……(結局そこかよ)」


 防災訓練は無事終了。


 俺の立場だけが、

 また少し曖昧になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ