あけましておめでとうの件
転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。
しかも、動物園で。
これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、
なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。
言葉は通じない。
服も着られない。
檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。
なのに心だけは、ちゃんと人間。
恋も、恥じらいも、プライドもある。
目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。
彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。
だが健人にとっての最大の壁は、
恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。
なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?
なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?
そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?
これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、
恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。
それでは、はじまりはじまり。
ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。
正月三が日が終わった頃。
俺は獣舎の中で、いつも通り寝転がっていた。
「健人、ちょっと来て」
佐々木あかりが手招きしている。
近づくと、立て看板が一枚。
『一富士二鷹三ゴリラ』
「ウホ……」
「今年はこれ、推していくから」
「ウホ……(三番手固定なの納得いかねえ)」
佐々木はそのまま、次を放つ。
「七転び八ゴリラ!」
「ウホ……(回数盛りすぎだろ)」
「棚からゴリラ!」
「ウホ……(被害想像したくねえ)」
「泣きっ面にゴリラ!」
「ウホ……(精神的にも物理的にも最悪)」
周りの空気が温まる。
「鬼に金棒、ゴリラにバナナ!」
「ウホ……(そこは強化じゃなくて燃料だ)」
「急がば回れ、ゴリラは直進!」
「ウホ……(止まれ)」
スタッフが混ざる。
「石の上にも三年ゴリラ!」
「口は災いの元、ゴリラは無言!」
来園者も乗ってくる。
「笑う門にはゴリラ常駐!」
「二兎を追う者、ゴリラに踏まれる!」
――ここで、俺の中で何かが弾けた。
「ウホ……(違うだろ)」
俺は一歩前に出た。
「ウホ!(猿も木から落ちる、じゃなくて――)」
視線が集まる。
「ウホウホ!(ゴリラもバナナの皮で滑る!)」
一瞬の静寂。
次の瞬間、どっと笑いが起きた。
「それだ!」
「わかる!」
「現実的!」
「ウホ!(現実的は褒めてない!)」
勢いづいた俺は止まらない。
「ウホ!(転ばぬ先のゴリラ!)」
「ウホ!(備えあればゴリラなし!)」
「ウホ!(知らぬが仏、知ってるのはゴリラだけ!)」
拍手。
歓声。
なぜか列。
「ウホ!(石橋を叩いてゴリラが渡る!)」
そのとき、背後から冷たい声。
「……健人?」
振り返ると、佐々木が半歩引いていた。
「……なんで一番ノリノリなの?」
「ウホ……」
周囲の視線も一斉に俺に集まる。
「さっきまで一番引いてたよね?」
「ウホ……(流れって怖いな)」
佐々木は小さくため息をついた。
「……まあ、いいけど」
夕方。
獣舎に戻った俺は、天井を見上げる。
「ウホ……(今年も、歯止め効かなそうだ)」
外から聞こえてくる。
「ゴリラもバナナの皮で滑るー!」
「ウホ……(それだけ定着するのかよ)」
多分、今年はこういう年だ。
俺が原因で。




