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ASMRにチャレンジする件

転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。


しかも、動物園で。


これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、

なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。


言葉は通じない。

服も着られない。

檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。


なのに心だけは、ちゃんと人間。

恋も、恥じらいも、プライドもある。


目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。

彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。


だが健人にとっての最大の壁は、

恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。


なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?

なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?

そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?


これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、

恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。


それでは、はじまりはじまり。

ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。

 動物園の朝は早い――なんてナレーションを入れるには、あまりにも騒がしい。

 ケタケタと笑いながらスマホを振り回す佐々木の姿は、完全にサファリのガイドというより、ユーチューバーの企画会議中である。


「健人! AIが言ってた! 今バズるのはASMRだって!」


「ウホ?」


「癒しの時代だよ? 咀嚼音とか、葉っぱの揺れる音とか、あと……健人の“鼓動”とか!」


「ウホォ!?(急にパーソナルスペース詰めすぎじゃない!?)」


 


 そんなこんなで、動物園の片隅に特設ASMRブースが誕生した。

 テーブルの上には小型マイク、録音用スマホ、そしてバナナ。なぜか大量の。


「まずはこれで、咀嚼音いきまーす!」


 バナナを一本渡され、もっちゃもっちゃと食べる。マイクがやけに近い。


「……くちゃ……モグ……モグ……」


 隣で佐々木が真顔でうなずいている。


「うん、これは“完熟バナナ感”が耳に染みるね。最高にねっとりしてる!」


「ウホ……(それ褒めてるの? 俺の咀嚼を褒めてるの!?)」


 


 次は足音を録るということで、砂利道、草むら、落ち葉の上を順番に歩かされる。


「ジャリ……サクサク……バサッ……」


「いいね〜! まるで野生の……いや、野生だわ健人! 野生の迫力!」


「ウホォ……(俺、たしか人間設定だったよな……?)」


 


 さらに佐々木は、竹の棒を持ち出してきた。


「じゃあ次は、体毛をなでる音とかどうかな!」


「ウホ……(おいおい、それはギリギリアウトな音じゃ……)」


 佐々木が俺の腕の毛をシャッシャッとこする。


「シャリ……シャリ……サラ……」


「え、これめっちゃ癒される……! 自分で編集してる時に寝落ちしそう!」


「ウホウホ……(そのまま寝てしまえ……)」


 


 だが、事件は次に起きた。


「最後は……健人の鼓動の音、録りたいな〜と思って!」


「ウホォ!?(待て!話が急だ!)」


 おもむろに、佐々木がマイクを胸に近づけ、顔をぐいっと寄せてきた。


 顔が、近い。


 マイクが、近い。


 というか、心の距離感がバグってる。


 


 ……ドクン。


 ……ドクンドクン。


「……え、健人……? 鼓動、速くない?」


「ウホッ!(ちがっ、ちがうぞ!?これASMRじゃなくて恋のやつじゃないからな!?)」


 思わず身を引くが、逃げ場はない。マイクはすでに録音中。


「……あれ、健人、耳まで赤いよ……? もしかして、ドキドキ……?」


「ウホォオォ!!(やめろぉぉ!掘り返すなぁぁ!)」


 必死で叫んだその声も、低音で良く通ってしまい、

 ASMRマイクが全部拾っていた。


 


 その夜、動画がアップされた。

 タイトルは『【ASMR】ゴリラの鼓動に癒される夜♡ 咀嚼音・足音・心音つき』。


 コメント欄には――


「心音で寝れるかと思ったら、こっちがドキドキした」

「咀嚼音、妙にリアルすぎて怖い」

「恋するゴリラ爆誕」


など、方向性が完全にブレた声が殺到していた。


 


 佐々木は満足そうに動画の再生数を眺めながら、


「これでまた10万再生いけるね! 次は“動物たちの恋愛事情を暴く”みたいな企画もいいかも!」


「ウホォォォ!!(やめろおぉぉぉぉ!!)」

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