他の動物とコラボしてみた件
転生したら、人間のままでゴリラ扱いされていました。
しかも、動物園で。
これは、異世界ハーレム転生を夢見た青年・植松健人(24)が、
なぜか人間の姿のまま、ゴリラ舎で飼育されているという理不尽すぎる人生の続きを描いた物語です。
言葉は通じない。
服も着られない。
檻の中では、ウホウホ唸るしかない――。
なのに心だけは、ちゃんと人間。
恋も、恥じらいも、プライドもある。
目の前にいるのは、真面目でちょっと天然な飼育員の佐々木あかり。
彼女の笑顔、優しさ、時おり見せる無防備さに、ゴリラのフリをしながらも、どんどん惹かれていく。
だが健人にとっての最大の壁は、
恋でも、檻でもなく――「どう見ても人間なのに誰にも気づかれない」という世界のバグそのものだった。
なぜ俺は、人間に見えているのに“ゴリラ”なのか?
なぜ佐々木は、俺にバナナを与えながら笑っているのか?
そしてなぜ、そんな彼女がますます愛おしく思えてしまうのか――?
これは、人間の姿でゴリラ扱いされた男の、
恋と尊厳とトイレとドラミングの物語。
それでは、はじまりはじまり。
ウホウホしいけど、きっとまっすぐなラブストーリー。
朝から佐々木がテンション高めだった。
「けんとくん!今日はね、スペシャルコラボデーだよ!」
その言葉に、俺はバナナをゆっくりと口から外し、心の中で大きく深呼吸した。
“スペシャル”とか”コラボ”とか、嫌な単語はだいたいセットで来る。
「今日は動物たちと一緒に動画撮るんだ〜♡ 動物園のPRにもなるし、けんとくんにもいっぱい出番があるし、あとほら、AIに“動物系コラボがバズりやすい”って言われたし!」
出たよAI。
最近の佐々木、なんでもAIに聞いてから動いてる。
一回そのAIの電源抜かせてくれ。
そして佐々木が笑顔で掲げたスケッチブックには、しっかり書かれていた。
ナマケモノと20メートル競走。
「……ちょっと待て」
「けんとくん、運動得意だよね?見た目ゴリラだし!走るの速いでしょ!」
「いや、俺の見た目は関係ないだろ。ていうか、ナマケモノと走る意味がわからない」
「“静”と“動”のコントラストで、映像がめっちゃ映えると思って〜♡」
頭を抱えたくなった。いや、抱えた。
だが、すでにナマケモノは連れてこられており、スタッフが小さなスタートラインをチョークで引いていた。
隣では、ナマケモノが木の枝にぶら下がっている。
地面に降りる気配、ゼロ。
「……なぁ、こいつ、降りてこないけど」
「大丈夫大丈夫、きっと“勝負の空気”を察したら動くよ!ねっ!」
「そんなファイター精神ないと思うぞ、ナマケモノには!」
だが佐々木はノリノリで、スマホを構えた。
「ではいきまーす!位置について、よーい……ドン!」
俺は一歩踏み出した。が、ナマケモノは──微動だにしない。
風で葉が揺れてるだけ。
「……無。」
佐々木は後ろで笑顔を崩さず、「けんとくんすごい迫力!」と動画を回している。
「迫力じゃねえよ!!俺が一人で走ってるだけだろこれ!!」
「でもけんとくんが全力で走って、ナマケモノが静かにしてるのって……なんか“生きる意味”を考えさせられる感じしない?」
「なんでこの20メートルで哲学発生してんだよ!!!」
結局、俺はナマケモノと1人で3回走らされ、ゼーハー息を切らしながらバナナをかじった。
走ってるの、ずっと俺だけだった。
ナマケモノは、最後まで木にいた。
俺はバナナをかじりながら、心の底から思った。
《これ……コラボって言っていいのか?》
──昼休憩もそこそこに、次のコラボ相手が檻の前にやってきた。
「けんとくん、準備はいい?次はね……なんと!」
佐々木が両手を広げる。まるでサプライズ演出でも始まりそうな勢いだった。
「……カメ。」
「そう、リクガメくんとの“どちらが先にバナナにたどりつけるか!よーいドン対決”!」
俺はゆっくりと振り返る。
檻の奥から、よっこらしょ……とばかりに出てきたのは、推定時速0.2キロの甲羅戦士。
「……いや、待て。こいつ相手に競うのか?」
「うん!けんとくんには障害物コースを用意してあるから、フェアだよ!」
「フェアって言葉、もう一度辞書で引いてこい!」
コースを見ると、俺の方には何やら手作り感あふれるダンボールの山や、ぬいぐるみトラップが設置されていた。
一方でリクガメくんの前は、ほぼ何もない一本道。芝生ふかふか。
「はい!ではスタート!」
掛け声とともに走り出す。ダンボールを避けながら、ぬいぐるみをよけ、バランスを取りながら進む。
俺は全力で駆けていた。だが──
ふと、横を見た。
リクガメ、まったく動いてなかった。
佐々木が叫ぶ。
「けんとくん、負けちゃうよー!」
「いや、どう見ても勝ってるだろ!!!ていうか、まだスタート地点にいるからなこいつ!!」
俺はゴールラインのバナナを掴み、その場にへたり込んだ。
「……これ、勝ち負け以前の問題じゃね?」
佐々木は満面の笑みでうなずいた。
「うん!動物それぞれのペースがあって、それがいいんだよね〜♡」
俺は黙ってバナナをかじった。
なんかもう、勝っても負けても、全体的に負けてる気がした。
そしてバナナを食べ終えたあと、静かに思った。
《次回のコラボは、もうちょっと……走る気のあるやつがいいな……》




