佐々木と一芸を練習することになった件
佐々木と一芸を練習することになった件
「ケントくん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
朝。作業着姿の佐々木あかりが、いつもより少し恥ずかしそうに立っていた。
「今度の週末、動物ふれあいイベントがあるんだけど……その中で、動物たちが一芸を披露するコーナーがあって……」
(また俺に振ってきたか)
「ケントくんも、できれば……何かやってほしいって。で、もしよかったら、私と一緒に練習してくれないかな?」
(……断れるわけない)
「ウホッ(訳:任せとけ)」
佐々木の顔が、ぱっと明るくなった。
「よかった~! じゃあ今日から少しずつ練習しよっか! たとえば“お辞儀”とか“拍手”とか……“じゃんけん”とか!」
(じゃんけん……俺に必要か……?)
──午後。
檻の中、佐々木と“じゃんけん”の練習が始まる。
「グーはこうやって、拳を軽く握って……あ、ちょっといい?」
佐々木が、俺の手を取る。
その柔らかくて小さな手が、俺のごつい拳に重なったとき──
俺の頭の中で、何かがパーンと弾けた。
(や、やめろ俺……妙な妄想をするな……!)
だが彼女の両手が、ゆっくりと俺の拳を包む動きは、なぜかこう──
非常にセンシティブな気配を纏っていた。
(お、おい落ち着け……これは“グー”の練習だ。拳だ。ただの拳……だがこの形、動き、丁寧な手つきはまるで……)
──とある部位に対する、未知なる手解きのような。
「……っ!?」(※顔が真っ赤になる健人)
「え? ケントくん? なんか熱くなってる? 筋トレしすぎ?」
(違う!!)
「あっ、ちょっと待って……喉乾いた……」
そう言って、佐々木は腰に引っかけたペットボトルを手に取る。
ふたを開けて、ごくごくと飲む──その喉の動きすら、今の俺には危険すぎた。
(の、喉ごしまで美しい……!)
だがその瞬間──
「きゃっ!」
ツルッ。
佐々木の手からペットボトルが滑り、コロコロと俺の檻の中へ。
「あっ、ご、ごめん!」
俺は咄嗟に拾い上げる。
「……もったいないから、飲んでいいよ」
佐々木がそう言った時には、俺の手の中に彼女のペットボトルが──。
(え? これって、いわゆる──間接……キ、キス……!?)
彼女の口がついた飲み口。
それが今、俺の唇に──
「……ごくっ……」
(う、うわああああああああああああ!!!)
思考が爆散。
一気にバナナ3本分の血糖値が上がった。
「ど、どうだった?」
「ウホホッ……!!(訳:ま、まろやかだった……)」
(違う! そういう感想じゃない!!!)
彼女は首をかしげつつ笑った。
(……これは、もしかして……ラブコメか?)
練習はその後も続いたが、集中できるはずもなかった。
“拳”の練習すら、途中から別の形に見えて仕方なかった。




