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17/20

俺、まだ人間だったよな……?

朝のゴリラ舎に、妙にリッチな気配が漂っていた。


健人(心の声)

《……なんか、空気が違う。いや、湿気とかじゃない。もっとこう、ラグジュアリーな……って、なんだよラグジュアリーな空気って。》


飼育員B「佐々木さん……来ちゃいましたよ……あの方が……」


佐々木「え、嘘でしょ!? まさか――」


???「おや、ここが……例の“芸術的反省ポーズ”が見られるという噂の檻かい?」


その声とともに、奥の搬入口からゆっくりと現れたのは――


黒光りする毛並み、気品漂う歩き方、

なぜか胸元にスカーフを巻いたゴリラだった。


佐々木「……ジャクソンさん」


健人「“さん”付け!?」


ジャクソンは静かに、しかし堂々と中庭へ足を踏み入れる。

毛並みはサラサラ、胸の筋肉にはムダがなく、指先は甘皮まで整っている。


健人(心の声)

《なにこのゴリラ……美意識高すぎない!? 美容雑誌とか読んでるタイプ!?》


ジャクソン「紹介が遅れたね。私はジャクソン。以前はこの園の“主”を務めていた者さ」


健人「“主”って……なに、ゴリラ界にも城制度あるの!?」


ジャクソン「聞けば、ここに“反省ポーズで人々の心を打った新星”がいるとか。

……お手並み、拝見しようか」


そう言って、ジャクソンはまるでオペラの幕開けのように、

ゆったりと両手を広げた。






朝の餌やり時間。

俺がいつものように、バナナをワイルドにむいて食べようとしたそのとき――


「ウホ……胃に優しい香りは、朝食の必須条件だ」


そう言って、ジャクソンはお香を焚きながら朝食を始めた。


テーブル、椅子、金縁の皿、ナイフとフォーク。

そして、ナチュラルに姿勢がいい。


健人「いや全部どこから持ってきたァァァ!!?」


観客「高貴……」「ゴリラってあんな優雅なんだ……」


違うぞ。ゴリラはそうじゃないんだ……!



◆昼:サイン事件再び


女子高生「ジャクソンく〜ん♡ サインして〜!」


ジャクソン「To マナ♡ 夢にバナナを。ウホ」


→サイン色紙に筆ペンで一筆。流れるような筆致。


健人「色紙も筆ペンもどっからァァアア!!!?」


佐々木「……すごいよね〜。ほんとに賢いゴリラなんだなぁ」


健人「ウホ……(俺の存在が地味になっていくウホ……)」



◆午後:入浴タイム


今日もジャクソンはバケツ風呂。

バラの花びらが浮かび、ローズの香りがほんのりただよう。


さらに今日はアヒルのおもちゃがぷかぷか浮いていた。


健人「誰だァァ! どこで仕入れてんだアヒル!」


佐々木「……あれ、来園者の差し入れらしいよ? “癒されてください”って」


健人「合法だったのかよ!! じゃあ俺だけ不審者だったじゃん!!」



◆そして俺は決意した。


健人「ウホォッ!!(見せてやるウホ!!)」


【健人 presents:これがホンモノのゴリラだ!】


① 水たまりにダイブ

② 泥を全身に塗りたくる

③ 背中に草を乗せてカムフラージュ

④ 地面を転げ回りながらドラミング

⑤ 「ウホホホホホホホホォォォ!!!」と魂の咆哮!


観客「うわあああ本物っぽい!!」「NHKのドキュメンタリー!?」


佐々木「……すごい。ケンちゃん、今日は特に“ゴリラ”だったね……」


健人「……ふっ。これが……“野生”だウホ……」


──そして俺は、ふと我に返る。


健人「……ってなんで俺がゴリラやってんだあああああああああああ!!!!」


檻に響く俺の叫び。

アヒルのおもちゃが、ぷかっと沈んだ。


佐々木「……ケンちゃん? 最近、ストレス溜まってる?」


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