夢見る虫
私は夢見る虫である。
名前無く、理想無く。ただ木に泊まっては、己に叶えぬ夢を想う。
それだけの虫である。
ある時、私は力なく木から落ちた。
これまでか。
覚悟を決め、池に落ちた。
落ちた先は城の中であった。
どの城かはわからぬ。それほどの学はない。
だがどこか恐ろしい城である。
私の両隣には人間がいた。見知らぬ顔である。だがどちらも私である。こればかりはとんと説明ができぬが、確かに私がそこにいるのだ。
はて、人間か。疑問に思うと私も人間であった。
ここに”私”が3人そろっているのであった。
言葉は交わさぬ。それぞれ考えることは一緒である。
城の中。目の前にある階段が、私に昇れと呼びかけてくる。
3人そろって上った先には、魔王がいた。
恐ろしく、そして偉大なる魔王。
奴は倒さねばならぬ。恨みはない。何もない。あるのは、魔王を倒せという魂の鼓動ばかり。
私たちは、6つの足を踏み鳴らし、魔王へと果敢に飛びかかっていった。
だがしかし魔王。腕をさっと一振り、私たちを跳ね除けた。
それでも諦めぬ。知恵の無い私たちには、足を振り手を振り、その程度しかできぬのだ。
しかし何事にも限界はある。ダイヤは素手では掘れないのだ。
私たちは満身創痍となり、地に伏した。
せめて何か武器があれば。ない物ねだりをする始末であった。
私が絶望に暮れた時、空から3振りの剣が降ってきた。
手に取ると、それは正しくナマクラな剣である。
これでは武器にもならぬ。持ってしまった僅かばかりの希望に、再び地の底へと突き落とされんとした時、剣に何か言葉が書いてあるのを見つけた。
1つには”brood”(塞ぎ込む)、1つには”rabbish”(粗暴)、最後の1つには”vexation”(苛立ち)と書いてある。
なんだ、やはり役に立たぬではないか。剣を放り捨てようとした時、魔王がとどめを刺さんとこちらに向かってくる。
あぁ、死ぬのか。心を闇が覆った時、その内からメラメラと小さな炎があふれ出るのを感じた。
死ぬくらいなら。あの魔王に殺されるくらいなら。
このナマクラで一太刀浴びせてやる。
3人の私は剣を手に取り、自ら魔王へと向かっていった。
振り下ろされた3つの剣。意志と刃とが呼応し、1つとなった時。その剣は真なる姿へと変貌した。
”Brave”勇気の剣である。
魔王は斬られ、そして灰となる。主を失った城もまた、ガラガラと崩れていった。
私たちにはもう力は残ってなどいない。
降ってくる瓦礫に押しつぶされ、私たちもまた消えた。
私は目を開けた。
思うことは何もない。夢はもう醒めたのだ。
私は飛びたった。新たな木を求めて……