Sid.9 威力はそれなりにあるが
当たった。俺でもモンスターを倒せる。でも、腰砕けになって座り込んでしまう。体が緊張から言うことを聞かないんだよ。それと周囲の音が良く聞き取れない。
耳栓を使うなんて完全に忘れていたし。
クリストフを見ると耳がどうにかなったようで、しきりに耳を触り頭を振ってる。
他のメンバーも同様だった。
暫くして耳鳴りが治まり聴覚が復活すると、メンバーが驚いた様子で口々に「うるさっ」と言ってる。
「イグナーツ! なんだそれは。煩すぎる」
「耳壊れる」
「煩すぎてモンスターを逆に集めるね」
「てめえ、喧しいんだよ!」
居場所を教えているようなものじゃないのかと。
洞窟のような場所で使えばそうなると気付いた。でも射撃手はラビリント内で使ってる。どういうことかは分からないけど、腕次第の面もあるのかもしれない。俺は初心者で昨日初めて持っただけ。経験の差があるのだろう。
ああ、でも、クリストフの怒鳴り声も、モンスターに居場所を教えているようなものだ。そこには気付かないんだな。
「弱いとは言えモンスターを倒せるのか」
クリストフが倒れたモンスターを見て「序盤では使えるのかもな」なんて言ってる。
「イグナーツぅ! 魔石回収」
また怒鳴るし。魔石を回収し先へと進むことに。
クリストフが何を考えているかは分からない。俺が攻撃力を得たことをどう思っているのか。
銃自体もそこそこの貫通力はあるから、相手によっては使いどころはあるのだろう。ただ、至近距離じゃないと命中率は下がる。やっぱり現代銃に比べると、古さや威力の不足も否めないとは思うけど。実際に使ってみて、それでも今の俺には必要と理解した。
六階層からさらに進むと八階層目で、またクリストフが「イグナーツぅ! 二度目の機会を与えてやろう」とか言い出す。
ただし、今度は発砲する前に声を掛けろと。耳が痛くなるほど煩いのは事実だ。しかもラビリント内で反響するから、余計にしつこく発砲音による衝撃が残る。
サイレンサーがあればいいのに。
先頭を歩かされ後方で「声掛け忘れんなよ」なんて言ってるし。
これって、多少でも銃の効果を意識したってことかも。
進むとモンスターと会敵し銃を構える。さっきより緊張感が薄れたことで、耳栓をする余裕も生まれたようだ。そして銃口を向け照準を合わせ撃鉄を起こす。
充分に引き付けたと判断したら。
「撃ちます」
トリガーを引くと強烈な発砲音と、銃口から火を噴くのが分かった。
さっきは無我夢中で分からなかったからな。
四つ足の異形が向かってきていたが、きちんと頭に命中したようだ。それでもよろけながらも、さらに向かってくることで、もう一発放つが。
「外した」
もう一発。トリガーをハーフコックの位置にしレバーを操作。排莢と装填。距離が三メートル程度で再びトリガーを引くと、今度はきちんと頭を撃ち抜いたようだ。
もんどりうって倒れるモンスターが居る。
結局三発も使ってしまう。でもさっきよりは楽に倒せたと思う。
弾倉には残り二発。予備で持っているブレイクスリー・カートリッジは五本。バラで二十一発。残弾数は五十八発。
二発ずつで仕留められれば二十九体までは相手できる。
そう上手く行くなんて考えない方がいいんだろう。
今は一匹ずつ出てくることで対処もできるが、数匹纏めて向かってこられたらアウトだ。
発砲までの動作数が多く、装填可能な弾薬数が少なすぎる。
三匹以上で向かわれたら。
だからパーティーで行動するんだろうな。複数人居れば誰かが対処できる。その間に装填して参戦できるわけで。
クリストフはきっと無視するだろう。都合よく使われるのは避けた方がいい。
「やっぱうるせえな」
「耳が痛い」
「俺が許可するまで使用禁止だ」
その方が助かる。
え、許可? つまり威力を認めたってことか。俺みたいな無能でも戦力になると。
そうだといいんだけど、クリストフだからなあ。
更に先へと進み十五階層で休憩を取る。
階層主は復活しているが、通せんぼされるわけではない。一度クリアしているとクリア者だけの抜け道が用意される。ラビリントってのは特殊な構造なのか、それとも意思があるのか、不思議な現象があるものだ。
「水!」
「食いもん」
「早く寄越せ」
この辺の扱いは相変わらずだ。移動中、俺に聞こえないよう、ぼそぼそ会話していることがあった。
何を企んでいるのかは分からないが、戦力と見るか、これまで通りの荷物持ちと見るか。扱いから見ればこれまで通りだけど。
まさか階層主に突っ込め、とか言い出さないといいけど。なんか言い出しそうだ。
でもシルヴェバーリの人も言ってたけど、階層主にこの銃は通用しないと。あくまで移動中の敵を倒すためのもの。浅い階層なら今持ってる銃で対処可能。深い階層はまた別の銃が必要なのだろう。
休憩が終わると、いよいよ十六階層へと進むことに。
一段と敵が強くなると言っていた。そして現在の実力では死ぬとも。
死にたくない。何としても生き延びたいと思うけど、聖霊士の能力頼りと気付けないと、引き返すことは無いのだろう。
あ、まさか。
俺を先頭に立たせ露払い役とか考えてるのか。
勘弁してよ。通じるかどうかも分からないのに、先陣切ってなんて不可能だ。
そして十六階層に降り立つと、やっぱりそうなのか。
「イグナーツ! 先頭を歩け」
「その、銃だっけ? 強力みたいだからね」
「お前が先導し安全を確保しろよ」
「銃を持たせてるんだからね。役立ちなさい」
弾薬に限りがあるんだよ。好き放題放てるわけじゃない。ましてや未知の相手だ。通じるかどうかすら分からない。
これは俺の身を守るために与えられたもので、お前らを守るためじゃないんだよ。
「あの、弾数に限りがあるんです」
「知らねえよ。行けるところまで行け」
使い切ったら帰還不能になる。弾薬の無い銃なんてただの杖だ。銃剣とは違う。
「あくまで補助です」
「あのなあ、使えそうだから使ってやるんだよ」
「今まで役立たずだったんだからね」
「せいぜい役立てよ」
理解してない。理解する気も無い。
「まだ通じるかどうかも分かりません」
「だから使えって言ってんだよ」
「四の五の言わずさっさと進め」
「武器があるんだから戦えるでしょ」
こいつら。
背負った荷物を蹴られ先頭を歩かされる。聞く耳すら持ち合わせない。一丁の銃と限りある弾薬。これで進めるだけ進んだら帰還をどうするか、そこまで考えが及ばない。
やっぱバカだ、こいつら。ああ、そうか。いざという時は助けを呼べる、それがあるから無理やりな攻略をするんだろう。こいつらはそれでいい、としても俺は置き去りだろ。
こんな場所で死にたくない。できるだけ温存したいんだよ。
「早く進めよ」
「もたもたすんなよ」
「ご自慢の銃で敵を薙ぎ倒してね」
「力ある者の義務だ」
ふざけてる。
何度も背中の荷物を蹴られ、無理やり先頭を歩かされると、モンスターと遭遇する。
「来たぞ」
「耳塞いでるから好きなだけやっていいよ」
「おら、いけよ」
仕方ない。遭遇した以上は対処しないと意味なく死ぬ。
それに、こいつらは戦闘する構えもない。呑気に見てるだけ。
どこまで通じるか不明なのに、ぶっつけ本番とか狂気の沙汰だ。まずは補助的にやってみて、通じるか否かの確認だろうに。
腹を括り最小弾数で対処可能か試すしかない。
銃を構え引き付けて撃つ。
乾いた音が鳴り響き命中したようだが、お構いなしに向かってくる感じだ。どこに当たったのかもよく分からない。
モンスターは十五階層の階層主並みの二足歩行の巨躯で、頭もまたでかいんだよ。一発や二発で倒れる相手じゃない。
再び頭を狙い撃つも掠めただけ。焦りから手元が狂った。
「何やってんだよ!」
「倒せよ」
「せっかく活躍の場を与えたってのに」
くそ。好き放題言いやがって。
もう一発放つも、やはりそう簡単には倒れない。威力不足のようだ。