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Sid.73 低リスクな魔法に効果

 森の中を進むけど、木々に見えていたもの。


「植物、と言った感じではないな」

「良く分からんが、こいつらが一斉に襲って来たら」


 なんか恐ろしいことを言ってる気がする。


「動かないでしょ」

「まあ動くようにも見えんが」

「用心するに越したことはない」


 なんかフラグ立ててる気もしないでもない。こういう話のあとには、必ずと言っていい程、危険な状況に追い込まれたり。杞憂に終わると良いけど。

 足元を見ると地面には木に生えていたのと、同じ感じの葉のようなものが無数に散乱してる。ただし、サイズはかなり小さく苔と言っても、差し支え無さそうな。

 ゆっくり進むことで観察はできるけど、もっと側で見ないと落葉なのか苔なのか。


「少し滑るね」

「確かに」

「足元に気を付けろ。滑りやすいようだからな」


 モルテンからも注意が促され、慎重に歩みを進める一行。

 木漏れ日が降り注ぐと言った風情でもない。枝を伸ばした木々の合間から、微かに天井の光が見える程度。ゆえに森の中は薄暗く見通しは利きにくい。

 やはりラビリントなのだろう。一般的な森林であれば、小鳥のさえずりや動物の息遣い、何某かの音がすると思うけど。

 実に静かだ。


「静かすぎるな」


 滑りそうな地面を進むとアルヴィンが手を上げ、止まるよう指示を出してくる。


「右側から何かが来る」


 全員の視線が右側を向くと、何やら這いずるような音が聞こえてきた。

 木々の合間を通り抜けるように接近する何か。

 モルテンとアルヴィンが剣を構え、ヴェイセルが機関銃を構えると、ふいにそれは現れ襲い掛かってくる。

 機関銃の軽快な発砲音がして、襲い掛かって来たモンスターに当たると、木を盾に姿を隠し何やら唸っているような。


「今のはなんだ?」

「蛇、にしては妙な感じだった」

「手応えはあったが」


 細長い蛇のような見た目だったけど、体は半透明で地べたを這ってはいなかった。地面から浮いて移動していたような。

 隠れた先に視線をやり注意深く見ていると、再び現れて体をくねらせ向かって来る異形の存在が居る。

 ヴェイセルの機関銃が火を吹き、次々異形の存在に命中すると、細長い体の至る所が爆ぜ地面に落下した。


「飛んでたな」

「蛇が空を飛ぶとは」

「蛇とは少し違う感じでした」


 魔石があるのかどうか分からないけど、とりあえず割いてみないと。

 側に行くと半透明だった体は、白く濁って不透明な状態に。鱗は無く表面はつるつるで、爆ぜた部分からは青い血を流してるようだ。一応、血が流れるのであれば、生物を模したものなのだろうけど。


「死んでる?」

「動かないです」

「気を付けて作業しろよ」

「あ、はい」


 まずは腹を割いてみるけど、ダガーを差し込むと見た目とは裏腹に硬い。


「硬いなあ」


 デシリアが側に来て「硬いの?」と聞いてくる。


「柔らかいのかと思ったけど」


 モンスターの体に触れるデシリアが居て「確かに硬いね」と言ってる。確かめてるんだろうけど、迂闊に触れない方がいいと思う。何があるか分からないし。

 ダガーの刃を突き立て刺さったら、刃を押し込み一気に引き裂くと、勢い青い血が噴き出し顔に掛かった。


「あ、くそ」

「うわっ」

「大丈夫か? イグナーツ」

「ちょっと血を」


 血が掛かったと言うとヘンリケが、急に来て「洗い流して」と言ってる。


「え、あの」

「洗って。急いで。それと口も漱いで」

「あ、はい」


 血液の付着した部分を徹底的に洗え、ってことで洗うけど、何をそんなに慌てているのか。口まで漱げと言ってるけど、確かに唇にも掛かってはいる。

 と思っていたらヘンリケから説明された。


「感染症の多くは血液からなの」


 目の前の存在は生物とは言い難いが、一般的には血液から菌やウィルスを取り込んでしまう。そうなると場合によっては死に至る。また、毒を持っている場合でも、同様に死に至ることもあるそうだ。

 洗い流すとアヴィフニング術なるもので、毒素や細菌にウィルスなどを、無害化するらしい。


「無害化ですか?」

「そう」

「そんなこともできるんですね」

「医薬品だと手遅れになるから」


 医薬品はそもそも毒素や菌により適合するものが限られる。そのため最低でも数種類の解毒剤、消毒薬や殺菌剤を持ち歩く必要性に迫られる。

 加療術の中でも高度なものだとキレート錯体を合成し、人体に於いて好ましくない作用をもたらすものに結合し、安定化を図るそうだ。

 言われている意味が理解しきれないけど、それを使えば、ほぼ全ての毒素や菌類にウィルスまで不活化できるらしい。


「なんか凄いんですね、加療術って」

「医療教育を受けておけばね、応用が効くから」


 今回、何の毒か菌を受けたか不明だから、ひと通り施しておくことで、危険性を排除しておくそうだ。もし何も無い場合でもキレート錯体自体は、結び付くものが無ければ流れ落ちるだけだけらしい。


「これはね、相手がモンスター以外でも、人や獣の血液でも同じ」


 血液を浴びたら感染症の危険性がある。基本、血液は汚いと認識しておいて、と言われた。

 ああでも、分かる気もする。注射器は一回使うと捨てる必要があり、他人に使い回すことができない。捨てるのも一般の廃棄物じゃなく、医療廃棄物になるんだっけ。

 人に使ったものですら注意深く扱うのだから、それがモンスターなら念には念だ。


 処置が済むと今度は血液を浴びないよう、慎重に割いて魔石を探し取り出しておく。

 魔石を取り出してしまえば、モンスターは消えてなくなるわけで。何度やっても不思議な現象だと思う。


「処置が済んだなら先へ進もう」


 モルテンの指示で再び移動を開始する。

 鋒矢(ほうし)陣形を取り慎重に歩みを進めると、またも何かが近付いてきているようだ。アルヴィンが腕を上げ方向を示す。

 同時に前衛が剣を手にして構え、ヴェイセルが銃を構え、向かって来るであろう方角を見据える。


 今度は細い奴じゃなく薄く平たい。直径六十センチくらいありそうだ。まるで円盤が飛んでるような。

 速度は槍のような奴と同じくらいか。時速百キロ程で左右に揺れながら、接近してくるようだ。

 モルテンとアルヴィンが目配せし、待ち構えていると眼前に現れ、モルテンの剣が炸裂し一刀両断される。

 一匹かと思ったら続けざまに三匹飛来し、アルヴィンが曲芸の如き動きで、二匹を落とし残る一匹をモルテンが落とす。


「硬くはないな」

「飛んでくる方角さえ分かっていれば対処は容易だ」


 二人とも凄いと思う。充分に引き付けての攻撃だから。俺なら身が竦んで動けない。

 真っ二つにされ落下したモンスターであろう存在。

 側に行き魔石を回収しようと思ったら、何と形状を変えて襲い掛かって来た。半円だったものから触手のようなものが生え、平たい楕円状になり飛び掛かってくる。


「うわっ!」

「避けて」

「避けろ!」


 間一髪、躱すことができたけど、態勢が思いっきり崩れ背中から倒れてしまう。目の前に迫るモンスターが居て万事休すかと思ったけど、即座にモルテンにより斬り裂かれ落下した。


「なんだこいつは」

「切られても形状を変えて動くのか」

「ねえ、燃やし尽くした方が」

「外側から効くか?」


 外側から作用する黒魔法で試すことに。これならば感情を殆ど失わずに済むからだ。

 デシリアが魔法を行使すると、あっという間に燃え尽きて、魔石だけを残す状態になった。


「効果はあるね」

「円盤状の奴はデシリアに止めを任せよう」


 魔石の回収を済ませ移動を開始すると、またも遭遇するけど、今度は紡錘形の飛行タイプだ。

 速度は円盤状の奴と同じくらい。向かって来るから、デシリアが黒魔法を行使すると、あっという間に火達磨になり墜落。じゅうじゅう音を立て燃え尽きた。


「効果あるみたい」

「そうだね」


 深い階層で外側に作用する魔法が効く。

 上の階層では効かないのになんでだろう。


「なんでかな」


 デシリアも疑問に感じるようだ。

 少し検証することになった。

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