表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/80

Sid.69 いろいろ考えさせられる

 ソルロスフリッカのメンバーを追い越し、先へと急ぐことにしたシルヴェバーリだけど。


「あ、ねえ。デシリアたちはどこまで潜ったの?」

「三十九階層」

「やっぱ凄いね。デシリアの召喚?」

「違うけど」


 一見すると友人のように見える。ただの顔見知りかもしれない。

 デシリアの召喚は知ってるようだけど、それだけで三十九階層まで行くのは無理。モルテンやアルヴィンの前衛とヴェイセルの的確な銃撃。時に炸裂する聖法術や黒魔法があって、深い階層まで辿り着けるのだと思う。


「イグナーツが居て先へ進めたから」

「イグナーツって、そこの荷物持ち?」

「そうだけど」

「そっか、そっか。惚れてるんだ」


 デシリアを揶揄うような感じで「恋は盲目だね」とか言ってるし。


「違うから。本当にイグナーツが居るから先へ進めてる」

「あのデシリアがねえ」

「よりによって荷物持ちって」

「残念な子になっちゃたんだね」


 酷い言いような気がする。でもこれが、この世界の荷物持ちに対する考え方だ。誰もがそう思っている以上、俺が居たから、なんてのは理由として認めないんだろう。

 荷物持ちに攻略が左右されるなんて、あってはならないのだろうし。


「デシリアさん。先急ぐから」

「あ、そうだね」

「で、デシリアが従順だ」

「男でこんなに変わるなんて」


 何を驚いているのか知らないけど、周りにはガサツって見えてるのかな。


「ねえねえデシリア。経験したの?」

「あ、それ気になる」

「すっかり変わった感じだし」

「荷物持ちと経験って、普通はあり得ないよ」


 アホは放置だから、と言って俺の手を取り先へ進むデシリアが居る。

 後方でキャッキャ、キャッキャと騒ぐ女子複数。散々バカにして楽しそうだ。

 デシリアを見ると少し機嫌悪そう。


「あの」

「見返す」

「え」

「イグナーツ。言われっ放しで悔しくないの?」


 荷物持ちに恋をすると残念な子扱い。経験するなんてあり得ない。そこまで言われると傷付くけど今は、そう言われても仕方ないと思う。

 ただ、この先も言われ続けるのは勘弁だな。いつか見返すことができれば、とは思うけど。

 そのためには、俺が強くなるしかない。


「今は無理だけどいずれは、って思ってる」

「無理じゃない。あたしが支えるから頑張ろうね」


 デシリアは俺を信じてるんだろう。なぜかは知らないけど、でもシルヴェバーリのメンバーも同じ感じだし。無能と言われ続けたくらいだ。俺には技能なんて無いし、今後も技能が生えることも無いんだろう。だからこそ、人の何倍も努力しないと、誰にも追い付けない。

 信じてくれるデシリアのために死ぬ気で頑張るしかないな。


 さっさと三十九階層を目指し突き進むと、今日は何かイベントでもあるのか、と思う程に他のパーティーとよく遭遇する。

 二十五階層に疲弊した探索者パーティーが居た。怪我人が居て治療も半端な状態のようだ。

 モルテンが気になったのか声を掛けてる。


「どうした? 救助要請しないのか?」


 血塗れで疲れ切った表情を見せる男性がひとりと、床に横たわる男性が二人と女性がひとり。蹲り膝に頭を埋める女性がひとり。

 もしかして、三人はすでに死んでるとか。

 血塗れの男性が顔を上げモルテンを見て「三人」と口にする。


「三人?」

「ねえモルテン。そこの三人だけど」

「残念ね。もう息が無いみたい」


 デシリアもヘンリケも気付いたようで。ため息を吐くモルテンが居る。

 どうやら憔悴しきって何も行動を起こす気力が無いらしい。

 二十六階層より下はモンスターの数も増え、どこからでも襲って来るようになる。このパーティーは二十七階層で、まずひとりが倒れ二十六階層で二人倒れた。

 数を前に対処できなくなったようだ。命からがら二十五階層に辿り着き、応急処置を施すも事切れてしまったようで。


「な、何も、何もできなかった」


 嗚咽を漏らし力なく項垂れる男性が居て、蹲りながらすすり泣く女性が居る。

 もう探索者を続けるのは無理なのだろう。それどころか仲間を三人も失った。クリストフのパーティーも二人失ってる。こうなると生き残った人は探索者を引退するようだ。

 襲われる恐怖、失われる恐怖、命をいとも簡単に奪われ立ち直れなくなるとか。

 やはりラビリントは甘くない。俺も死に掛けた。本当に運が良かっただけと思っておかないと。決して実力で切り抜けた、などと思わないように。


「救助要請しないのか?」


 再度モルテンが言うと懐から、緊急通報用のタグを取り出し指で押し潰す。潰した瞬間、赤い光を発し少しして消える。


「暫く待っていればいい。救助隊が組織され向かうからな」


 デシリアが俺の腕を取り「あたしが守るから」と強く言ってくる。

 いや、俺が守らないといけない。デシリアが力を行使すると、リスクが大きすぎるから。だから俺が守る必要がある。


 亡骸を伴うパーティーから距離を取り、暫し休憩を取るけど、こうして呆気なく命を奪われた存在を見ると。


「明日は我が身として戒めるしかないんだよね」

「イグナーツなら大丈夫」

「デシリアに犠牲を強いる気は無いから」

「あたし、強いよ」


 知ってる。とんでもない存在を召喚できるし、黒魔法だって内側から破壊できる。感情の全てを失う覚悟なら、きっとひとりでもラビリント攻略ができるんだろう。

 類稀な技能と能力を持ってるだろうから。

 でも、そうさせたくない。


 少しして救助隊が転移魔法陣から現れた。

 八人で構成されギルド職員ひとりと、探索者による救助隊のようだ。状況確認と生死の確認をして亡骸を担架に乗せ、魔法陣に立つ六人と肩を貸す二人。

 魔法陣が光り輝くと全員の姿が消える。


「魔石の交換をしておこう。イグナーツ、魔石を」

「あ、はい」


 バッグから魔石を六個取り出しモルテンに渡す。

 六芒星の頂点にある魔石を外し、新しい魔石をセットし古い魔石は回収。バッグの別のポケットに仕舞っておく。


「よし、行くとするか」


 全員が立ち上がると二十六階層へ向かう。

 階段を下りるメンバーだけど口数は少ない。


「デシリアさんは、こんな光景って」

「何度も見たよ」

「だよね」

「でもね、何度見ても慣れない」


 ラビリント攻略は富をもたらす可能性がある。しかし裏では今回のように、簡単に人の命を奪ってしまう。これまで、どれだけの人が命を落としたことだろう。

 高い代償を支払ってまで攻略する理由。金だけなら、ここまでハイリスクなことをしなくても、とは思う。


「あの、なんでラビリント攻略なんて」


 デシリアを見ると口元を緩め、目を細めて「力を得たから試したいってのがあるかも」と言ってる。

 探索者になれる人の持つ技能や、持って生まれた才は一般社会では不要。

 魔法も召喚も聖法術だって奇跡の光も、一般社会で使う機会など無い能力。唯一は加療士の治療術程度。


「ラビリントがあって能力があると思う」


 だから攻略するのだそうだ。

 もし、世の中にラビリントが存在しなければ、多くの戦闘のための技能は不要だろう。何のために使うのか。人相手に使うのであれば単に不幸を招くだけ。

 そうさせないためにラビリントがある、と考えれば辻褄が合うと考えるそうで。


「でも、実際には人に対して使ってるけどね」


 この世界にも戦争はある。犯罪だってあるし内戦だってあるし、国家による弾圧だってある。

 力を持てばラビリント攻略以外で使う人も居るわけで。

 でもシルヴェバーリのメンバーは、ラビリント攻略のために力がある、と考えるようだ。それが一番平和的な利用方法ではないかと。


「イグナーツが手にしてる武器もね」


 戦争によって進化したもの。ラビリントで使って進化したものじゃない。今も多くの人命を奪いながら携帯しやすく扱いやすく、高い威力を求め改良を続けている。

 武器に関しては元の世界と同じなんだ。

 そりゃそうだよね。銃火器ってのは戦争の道具なわけで。如何に効率よく敵を倒し制圧できるか、だから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ