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Sid.56 射撃手の重機関銃を試す

 ヴェイセルの重機関銃が入手できたことで、ラビリント攻略を再開することになった。持つのは荷物持ちの俺だけど。

 デシリアとの街歩きの翌日、重機関銃の受け渡しを練習しておくことに。


「狭い室内でやればラビリント内でも大丈夫だろう」


 ヴェイセルがそう言ってリビングで練習するけど、リビングのソファに腰掛け眉間にしわを寄せるヘンリケが居る。


「外でできないの?」

「外は広すぎる」

「アヴスラグの浅い階層で試せば」

「ある程度慣れておかないと」


 こんなやり取りをするけど、モルテンやアルヴィンは「室内を壊すなよ」程度で静観の構え。

 重機関銃の弾倉は使い切った奴を装着しておく。弾薬が無ければトリガーを誤って引いても問題無いし。弾倉込みでの受け渡しができないと、いざ射撃となった際に手数が増える。


「よし、イグナーツ。渡してくれ」

「はい」


 どう渡すのがいいのか。重機関銃は三脚にセットした状態。現場で組んでいたら戦闘が間に合わないから。

 とりあえず畳んだ三脚部分を持って、グリップ側をヴェイセルに向けて渡してみる。

 グリップを掴みレシーバー部分に手を添え、受け取るヴェイセルだけど姿勢が崩れる感じだ。三脚込みの重量だから三十キロ程度になる。

 受け取ると使用できるよう三脚を展開するけど。


「これじゃあ間に合わないな」

「どうします?」


 暫し思案するヴェイセルが居て、横から口を挟むヘンリケが居る。


「イグナーツ君にセットしてもらえばいいでしょ」


 重量物をものともしない腕力があり、片手で重機関銃を振り回せる。ならば、俺が展開してヴェイセルが細かい調整だけすればいいと。


「そうだな。その方が良さそうだ」


 すでに何度か現場で展開し使用している俺が、事前準備を済ませた方が効率が良いと判断したようだ。

 これがライフル程度なら投げ渡すこともできるけど、さすがに重機関銃の投げ渡しは無理がある。弾薬ベルトも事前に通しておけば、展開後すぐ射撃に入ることが可能。展開から微調整をする間だけ、前衛に踏ん張ってもらえばいいとなった。


「俺たちが押さえておけばいいんだろ」

「そういうことになる」

「ライフルと違って取り回しに欠点がある以上已む無しだ」

「それを考えるとイグナーツは凄まじいな」


 重機関銃を抱えて撃ち捲れる。腕力自慢のモルテンでも無理だと言う。もちろん、ヴェイセルでもそんな芸当はできない。


「イグナーツの銃はいつできるんだ?」

「三日後くらいだと思います」


 今日明日は軽く潜って一連の動作に慣れてもらい、俺の重機関銃のカスタマイズが済み次第、三十六階層以降へ進むことにしたようだ。


「よし、今日は五階層程度まで潜って、イグナーツとヴェイセルに慣れてもらおう」


 と言うことでアヴスラグへ向かうことに。

 荷物は飲料と応急処置セット。食料や寝袋は不要。弾倉は二個だけで充分らしい。浅い階層だと一発で仕留められる程度だから。むしろ何十発も放つと過剰でしかない。とは言っても弾はトリガーを引けば、秒間八発射出されてしまう。

 一体のモンスター相手に過剰な攻撃になる。三発から五発程度は使ってしまいそうで。

 一応ライフルは二挺持参する。俺の分とヴェイセルの分で。


 準備が済むとアヴスラグへ向け出発した。

 道中デシリアが話し掛けてくる。


「機関銃二個でしょ。攻撃力大幅アップだよね」


 二個とは数えないけど、それは置いておくとして。


「二人で交互に攻撃すれば、長丁場でもなんとかなると思う」

「完全攻略まで時間も掛からないかもね」

「何階層あるのか分かんないんで、それは何とも言えないけど」

「あたしも居るんだよ」


 いや。デシリアには極力魔法を使わせたくない。優れた魔法と最悪な召喚は凄いと思う。でも、代償が大きすぎる。

 今思った。

 仮にアヴスラグが百階層とすれば、弾薬は幾つあれば用を成すのか。深い階層へ行けば行くほど、モンスターが強力になり銃弾一発で倒せなくなる。

 三十階層辺りでも三発程度は必須。遭遇する数も増えて使用量も増える。


「二百五十発の弾倉なんて一階層だけで消費しそうな」

「何の話?」

「あ、えっと。深く潜ったら弾薬が間に合わないかなって」


 そうなると百個持参とか。無茶だ。嵩張り過ぎて運びきれない。

 なんで銃があっても使われないのか、考えるまでも無かった。持ち運べないからだ。幾ら俺でも百個二百個なんて無理だし。十個二十個程度ならまだしも。

 デシリアも気付いたのか「そうかあ。無理かもしれないね」と言ってる。


「だからこそ、あたしやヘンリケが居るんだよ」

「でも、デシリアはともかくヘンリケさんは、回数制限があるでしょ」

「あとは前衛が死ぬ気で頑張る?」


 モルテンとアルヴィンの負担は尋常じゃないんだ。


「今まではどうしてたの?」

「どこのラビリントも五十階層程度だったから」


 みんなで荷物を分担して持ち、前衛二人が死に物狂いで対処していたと。

 ヴェイセルですら弾薬を多く持参できず、途中からは剣で対処していたらしい。


「アヴスラグって何階層ありそう?」

「分かんないけど過去最深って話もあるね」


 これまでの最深は七十三階層だったそうで。少人数のパーティーでは攻略ができない。ゆえに二つ三つのパーティーが共同で攻略していたそうだ。

 因みにスカラリウスが参加するパーティーは皆無だったと。誰もスカラリウスの有効性を認識せず。ゆえに苦戦しての攻略だったそうだ。

 一番は物資不足。分かってるならスカラリウスを雇えばいいのに。差別なんてしてないで。


「うちにはイグナーツが居る」

「限界はあるけど」

「でもね、深く潜れば潜る程、浅い階層は楽になるから」


 確かに三十階層辺りのモンスターを相手にすると、浅い階層に出るモンスターは簡単に倒せてしまう。

 楽に倒せれば何も銃火器を使う必要は無くなる。順調に攻略が進めば対処が難しい階層以降で使えばいい。

 話をしているとアヴスラグに到着し、早々に中に入って実戦訓練となった。


 一階層程度だと無駄撃ちでしかない。モルテンとアルヴィンがサクサク倒し、すぐに二階層へ進み、ここでも二人がサクッと倒し捲り三階層へ。

 後衛は何もせず。俺も何もしないで済んでる。


 四階層に進むと「じゃあ試すか」となり、モンスターの接近に気付き次第、重機関銃をセットしヴェイセルが掃射する。

 ただ、出現する数が少ないから移動する時間の方が多い。


「これじゃあ訓練にならんな」


 結果、十階層まで進んでみることにした。

 それでも今のシルヴェバーリには難易度が低すぎて。


「駄目だ。意味が無い」

「三十一階層以降じゃないと実戦訓練にならんな」


 全員が顔を見合わせ戻るか、となり再度装備を整え明日は、最初から三十五階層まで進むことに。

 地上に向け戻る際、他のパーティーと遭遇したけど、デシリア曰く中堅パーティーらしい。


「シルヴェバーリか。戻るのか?」

「ちょっとした訓練だからな」


 遭遇した中堅パーティー名は「イーリネティーゲル」だそうだ。黄金の虎って意味だ。名前負けしてそうな。

 剣士二人と戦士、魔導士と聖法術士に加療士。うちと同じく六人だけど、やっぱりスカラリウスは居ないんだな。


「その後ろに居る奴は?」


 俺に気付いたようでスカラリウス、と言うと「足手纏いじゃないのか」なんて言ってる。

 不敵な笑みを浮かべるモルテンが居て、アルヴィンが「知らなきゃそうなるな」と言ってる。


「じゃあな。頑張れよ」


 そう言ってモルテンが歩き始めると「スカラリウスなんて加えて何がしたいんだか」と言うイーリネティーゲルの面々だった。

 どのパーティーも苦戦する理由は分かってると思う。でもプライドと差別意識が邪魔をするんだろう。荷物持ち程度をパーティーに加えたくない。必要な物資は自力で運ぶ。それで結局攻略の難易度を上げてる。

 モルテンが言う。


「いずれ気付くさ」


 うちは運がいいと言ってほくそ笑んでる。

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