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Sid.48 黒魔法行使の対価は必須

 向かってくるモンスターは見た目はハエ。しかもイエバエやクロバエのような。ただし、その大きさはハエとは比較にもならない。そして不規則な軌道を見せる。

 右を飛んでいると思うと左へ飛び、上に下へと安定した飛行はしない。だから銃での対処が難しいのだろう。

 向かってくるハエは全部で三匹。デシリアが人差し指と中指を揃えハエに向けると爆発した。黄白色の炎に包まれ落下する。


「今のは?」

「対象物の前で爆発させただけ」


 爆発時の炎と衝撃で倒すらしい。


「詠唱とか要らないんですか?」

「要らないよ」

「召喚の時は何か言ってましたよね」

「あれとは根源が異なるから」


 頭の中で何を使いたいか思い浮かべれば、勝手に発動するのが黒魔法だそうだ。

 指先を向けるのは対象を指定しているのだと。一度指定された対象は逃げても意味が無い。対象の前で必ず発動するそうで。

 これは対象に対して呪いをかけることで、逃れられない厄災をもたらすものだとか。


「悪魔の力を借りてるからね」

「貸してくれるんですか?」

「魔導の資質を持つ人は契約できるんだよ」


 技能とは異なり資質ってのもあるのか。


「悪魔って、サタンとか」

「何それ?」

「え、いや。どんなのが居るのかと思って」

「今使ったのはリエスマって言う悪魔の力」


 炎を司る悪魔で力の象徴だそうだ。

 契約とは契約者当人と相性の良い悪魔と、儀式を通して対価を献上することらしい。対価って、どういうことか聞くと、デシリアの場合は感情だと言う。


「普段は生活に支障が無いけど」


 例えば肉親が亡くなり悲しい、と感じる感情が発生しない。苦難の際に苦痛を感じない。楽しいと感じる時も平静だったりするそうだ。

 喜怒哀楽を捧げることで、悪魔がその感情を食らってしまう。

 日常で感じる些細な感情は放棄されるが、強く思いを抱くようなケースで、その感情を抱けなくなるらしい。


「恋愛とかも不利なんだよね」


 好きだと思う気持ちが薄れてしまうか、すぐに冷めてしまいやすいそうだ。

 ゆえに時々、本当に自分がその人に惚れたのか、分からなくなることがあると。


「感情って、大切なものじゃないんですか?」

「だからだよ」


 人にとって大切なものが力を貸す対価。人によっては死後の魂の行方。腕や足など物理的なもの。自分が大切に想う身内の命まであるとか。

 身内の命をなんてあり得ないと思うけど、それを対価にすればより大きな力を得るそうだ。とは言っても仲の悪い身内では意味が無いそうで。心から大切だと思う存在である必要がある。大切だ、なんて口頭で言っても悪魔にはお見通し。嘘は一切通じないらしい。


「神は対価を求めないけどね」


 まあそうだと思う。技能を全人類に与えるなら、そこに対価は無いんだろうし。

 でもデシリアには召喚がある。


「召喚があるのに魔導もですか?」

「召喚は六回しか使えない」


 聖霊士と大差ない不便な存在になる。だから組み合わせた際の相性の良さから、魔導を得ているのだとか。

 俺を見て「難儀な相手になってるけど、それで良ければ」と言ってる。

 だから今まで彼氏なんて居なかったのか。分かってても気持ちが無い、そんな素振りを見せられると凹むよね。それで離れてしまうのだろう。


「ただね、今は気持ちが強く残ってるから」

「それって対価を要求されてないんですか?」

「違うよ。対価が感情を上回らないから」


 溢れる感情に対して要求する対価が低い。だから感情がしっかり残る。それでもラビリントの深層に行けば行くほど、振るわれる力は強くせざるを得ない。

 そうなった時には気持ちが消えてしまうだろうと。


「じゃあ、俺が頑張って魔法を使わせなければ」

「無理しないで」

「そんな話を聞いて無理するななんてできません」


 だって、俺のことを好きなら、ずっと好きでいて欲しい。俺の身勝手な想いだけど、それでも感情を失って欲しくないから。

 死ぬ気で頑張ってヴェイセルみたいになればいい。


 三十一階層のモンスターを排除し三十二階層に向かう。

 ハエみたいな奴が何度も現れるけど、ヴェイセルがよく動いて排除して行く。モルテンも駆け出して倒すし、アルヴィンも同じように排除する。


「なんか、気を使わせちゃったかも」


 やっぱりそうだよね。モルテンもアルヴィンもヴェイセルも、デシリアの感情を失わせたくないんだ。デシリアだけじゃなくて、俺にも関わってくるから。

 却って迷惑掛けてるかもしれない。


 三十二階層に入ると飛行型に加え、壁や天井を這ってくるモンスターまで。


「難易度が上がってる感じがします」

「まだまだ、この程度は難しくないから」


 レベルが違い過ぎる。

 壁を這う天井を這うムカデのような奴。毒を持っているから絶対噛まれるなと言われてる。

 十秒で死に至るそうで。とんでもない猛毒だ。

 しかも毒を食らうと骨が溶けてしまうとか。あとには骨の無い死体になる。

 噛まれたら治療が間に合わないから、今はみんなに守られていろと。いずれ自力で対処可能になってもらうが、今はそこまで求めないからだそうで。


「ここで命を落とす探索者も多くなるよ」


 だと思う。全方位に注意を払わなきゃならない。噛まれたら終わり。

 この手の情報は探索者ギルドに上げるそうだ。あとから攻略する人のために。少しでも被害を減らすために報告し、みんなが情報を共有するのだそうで。でも、俺には情報を渡してくれない。一緒に行動してるってのに。探索者ギルドって、意味が分からないな。


 危険すぎるけど、みんな慣れた感じで排除してるし。やっぱりアルヴィンが居るのが大きい。モンスターをいち早く察知できる。だからみんな余裕を持って対処可能。

 何も無いところから発生するわけじゃないし。索敵が完璧なら被害を生じない。


 無事に三十二階層を抜けると三十三階層へ。


「この階層は地べたを這ってくる奴が主だ」

「じゃあ地面だけ気を付けていれば」

「一匹二匹じゃないぞ」

「最低でも五十くらいは向かってくるから」


 何それ。


「重機関銃が必要な理由のひとつだ」

「数が多すぎるからな」


 進むと宣言通りと言うか、凄い数で床が埋まる勢いだ。

 そうなると聖法術か黒魔法になるけど、ヘンリケの聖法術で対処することに。

 凄まじい音と閃光が無数に天井から床に向かい、片っ端から吹っ飛ぶ昆虫型のモンスターだ。眩しいのと重機関銃も真っ青な音。狭い洞窟内だと反響もあって耳が痛くなる程だった。


「あの」


 ヘンリケにあと何発放てるか聞こうと思ったけど、どうやら一時的に聴覚が麻痺してるようだ。声を出しても聞こえてないような。

 ヘンリケの袖口を引っ張ると、気付いて俺を見て顔を近付けてきた。


「どうしたの?」


 顔が近い。少し厚みと艶がある妖艶な唇が動くとなんかエロいし。


「あの、あと何発放てますか?」


 耳元で、と言う感じで顔をさらに近付け耳を傾ける。

 耳元でもう一度聞くと「十八回くらいかな」と言ってるようで。三十七階層まで向かい、三十五階層まで引き返す分を考慮すれば、十回程度なら使っても問題無いとか。

 耳を向けていたけど俺の方に振り向き「デシリアのために頑張って」と言われた。


 まず第一弾のモンスターを排除し、先へ進むとまたも五十前後で向かってくる。


「あたしが」

「イグナーツ。剣の予備を出しておいてくれ」

「あ、はい」


 魔法剣を使うんだろう。バックパックを下ろしモルテンの剣を出して、いつでも渡せるように手にして待機する。

 モルテンが先頭に立ち剣を横に構えると、剣が光り輝き横に薙いだ瞬間、光が飛んで向かってくるモンスターが一斉に吹き飛んだ。それと同時に剣が折れたようで、モルテンが後方に手を出してるから剣を渡す。


「いいぞ」


 そう言うと一気に駆け出し片っ端から薙いでるし。

 残っていたモンスターを片付けると、涼しい顔をして戻ってくる。

 モルテンも魔法を使う。剣を媒介にしてだけど。悪魔契約、してるのかな。

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