表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/80

Sid.46 他のパーティーを助ける

 モンスターに蹂躙される三人と、必死の形相でこっちに向かってくる二人。

 今にも死にそうな感じで声を発したようだ。


「た、たすけ」


 救助要請なのだろうか。その言葉と同時にモルテンとアルヴィンが、一気に駆け出し三人に襲い掛かるモンスターを排除した。

 もっと早く要請していれば、被害を少なく抑えられたのに。そこまでして稼ぎたいのだろうか。俺は嫌だな。ひとり取り残され死ぬ思いだったし。命があれば何度でもチャレンジできる。でも死んだらそれで終わりだろうに。


「ギリギリまで粘ったんだろうね」

「でも仲間が」

「そうだね。あれじゃ探索者は続けられない」


 デシリアが冷たい。

 俺の時は凄く優しいけど、それは仲間だからか。


「探索者って、こんな感じなんですか?」

「うん。他人を助けて自分が危機に陥ったら意味無いから」


 モンスターを排除し戻ってくるモルテンとアルヴィンだ。


「怪我が酷い。治療して欲しいってことだが」

「いいけど、相応の対価は必要ね。それはどうなの?」


 俺とデシリアの側で息も絶え絶えで倒れる探索者二人。ヘンリケが二人に確認を取っているけど、今ひとつ要領を得ないのか返事がはっきりしない。

 仲間だと思うけど、死んでもいいのだろうか。今度のことも考えたら、仲間を失えば探索者を続けられないと思うけどな。

 ひとりが顔を上げ「あ、あんまり、稼ぎが無いんで」と言ってる。


「少しはおまけするけど」

「お、お願い、します」

「それとギルドに加入してないの?」

「稼ぎが悪くて」


 組合費用を負担できず、今回不足分を稼ぐために無理をしたそうだ。

 ここで稼げれば費用をねん出できる。そうすれば救助要請もできたと。でも現実は厳しかったようだ。

 ヘンリケがぼろ雑巾の如き探索者の下に向かい、治療をするようだけど俺が呼ばれる。


「え、俺?」

「包帯とかガーゼ」

「あ、そうですね」


 周囲を警戒するモルテンとアルヴィンが居て、ヘンリケと俺に付き添うデシリアとヴェイセルだ。この階層は安全ではないから、俺や治療中のヘンリケを守るためだろう。

 倒れている探索者の側まで行くと、傷が深そうで出血も相当なようだ。


「これはまずいわね」

「治らないですか?」

「ひとりはね、もう虫の息だから」


 腹をズタズタに引き裂かれ内臓飛び出してるし。見てるこっちが気持ち悪くなる光景だ。ちょっと吐きそうになる。

 ひとりは頭と腕に裂傷を負っているけど、治療次第では何とかなるらしい。

 そしてもうひとり、女性だ。胸元を引き裂かれてはいるけど、傷は浅いようでヘンリケによって塞がれた。


「包帯とガーゼ頂戴」

「あ、はい」


 バックパックを下ろし取り出し手渡す。

 ぼろ布になった服を剥いで、あ、目を逸らさないと。相手は女性だから。


「目を逸らしてるんだ」

「あの、見たら悪いです」

「こういう時は例外」


 そう言われても。日本だったらスマホで撮影する人が多そうだけど。手も貸さず野次馬根性で撮影してSNSにアップするんだよ。なんか人として終わってる。もし、自分が瀕死の状態で撮影されてる、と分かっても平気なのだろうか。助けて、と思わないのかな。

 想像力の欠如かもしれない。


「あの、デシリアさんも見られて」

「良くは無いけど治療してもらってる」


 だから已む無しの面はあるそうだ。命の危機なのに見るな、とは言えないらしい。

 ただ、好奇心や野次馬根性で見る人は居ないと。公衆の面前で治療する場合でも、治療することに手を貸す人が殆どだとか。この世界にはその点では良識があるんだ。

 日本人って劣化してんのかな。

 ヴェイセルを見ると周囲を警戒してて、治療中の女性を見ることはないのか。そう言えば女性にあまり興味が無いって。銃が恋人らしいから。


「イグナーツ君。もうひとつ包帯とガーゼ」

「あ、はい」


 頭と腕を怪我した人の治療に入ったようだ。女性に少し視線を向けると、きちんと包帯が巻かれ呼吸も安定していそうな。


「助かったと思うよ。すぐは動けないけど」

「良かったです」

「あとで治療費請求するけどね」

「なんか、仕方ないんでしょうけど」


 善意での治療ってしないのか。


「あの、助けを呼んできた人も怪我してました」

「軽傷なら簡単に済ませるでしょ」


 あ、また疑問が。


「えっと、加療士って完全に治療できないんですか?」

「できないよ。なんで?」

「あ、いえ。できたらいいなって」

「そんな虫のいい話、無いから」


 フィクションの世界とは違う。コミックやラノベでは完治させることもできてた。でも現実にそんな能力があるわけ無いか。治療で無双とかの話しだし。所詮はフィクションだから何でもありなんだな。

 俺も治るまでに時間が掛かってるし。何度か治療してもらって、それで完治に至った。少し不便なくらいが丁度いいのかも。


 離れた場所で戦闘をするモルテンとアルヴィンが居る。

 近付くモンスターを排除してるんだ。苦戦することも無く余裕で対処できてる。あの二人が居れば、この階層程度は問題無いんだろうな。

 魔法剣すら使わず倒すんだもん。俺なんて足元にも及ばない。


 ヴェイセルが少し離れると銃をぶっ放してる。


「集まって来ちゃってるんだ」

「え」

「モンスター」


 立ち止まると周囲のモンスターが集まってしまう。ましてや怪我人が居て身動きが取れないと、次々獲物として認識したモンスターが来るらしい。


「あたしがちゃっちゃと、やっつけちゃおうか」

「いえ。デシリアさんは最後の砦なので」

「なんで? 大丈夫だってば」

「いえ。ヘンリケさんの手伝いをしてください」


 俺を見て「みんな、あたしが魔法使おうとすると邪魔する」なんて言って、膨れっ面を晒してるし。

 この程度の階層でデシリアは過剰でしょ。ましてや召喚なんてされたら、目も当てられないし。

 立ち上がり銃を構える。


「イグナーツは参加しなくていいんだよ」

「いえ。少しは役に立たないと」

「だからいいんだってば」

「モルテンさんとアルヴィンさんが、安全を確保してくれてるので」


 ここからならいける。

 無理せず漏れてくる奴らだけでも。確か、この階層のモンスターはみぞおち辺りが弱点。そこを突けば簡単に倒せる。ヴェイセルが手本を見せてくれてるし。

 撃ち漏らしたモンスターに照準を合わせ、トリガーを引くと僅かに外れた。すかさず二発目を放つとしっかり撃ち抜いたようだ。倒れるモンスターが居る。


「上手いね」

「師匠がお手本になってるんで」

「才能あるよ」

「無いです。だから人一倍努力するんです」


 何の技能も無いのだから、その分、努力して身に着けるしかない。もう、モンスターに蹂躙されるのだけはご免だし。

 また撃ち漏らしが居て銃を撃つと倒れる。


「慣れてきたね」

「まだまだです」

「充分だと思うけどな」


 デシリアは充分と見るかもしれないけど、ヴェイセルから見たらヒヨっ子レベルでしょ。もっともっと上を目指さないと、シルヴェバーリに相応しい人材になれない。

 少しするとヘンリケが「治療終わったから運ぶの手伝って」と言われる。

 二十五階層へ運び、そこで休息を取らせるらしい。


「守りはモルテンとアルヴィンに任せればいいから」


 俺には一番重そうな人を運んでと。荷物を背負い直し体重のありそうな、戦士系の男を抱えると重いよ。何キロあるのか知らないけど、抱えるのも厳しい重さだ。

 それでも置き去りにはできないから、抱えて移動するとヴェイセルもひとり抱えてる。デシリアとヘンリケが女性を抱え、二十五階層へ歩みを進めた。

 前後でモルテンとアルヴィンが対処し、無事に辿り着くと怪我人を置く。


「救助要請をした方がいい」

「でも組合費」

「後払いも受け付けてくれる」


 だから今は頼っておけと。

 怪我人を置いて二十五階層を離れ、二十六階層へ移動するけど、その前に少し休憩を取ることになった。


「三十階層に向かう前に少し休んでおく」


 五人を治療したヘンリケに休息が必要らしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ