Sid.46 他のパーティーを助ける
モンスターに蹂躙される三人と、必死の形相でこっちに向かってくる二人。
今にも死にそうな感じで声を発したようだ。
「た、たすけ」
救助要請なのだろうか。その言葉と同時にモルテンとアルヴィンが、一気に駆け出し三人に襲い掛かるモンスターを排除した。
もっと早く要請していれば、被害を少なく抑えられたのに。そこまでして稼ぎたいのだろうか。俺は嫌だな。ひとり取り残され死ぬ思いだったし。命があれば何度でもチャレンジできる。でも死んだらそれで終わりだろうに。
「ギリギリまで粘ったんだろうね」
「でも仲間が」
「そうだね。あれじゃ探索者は続けられない」
デシリアが冷たい。
俺の時は凄く優しいけど、それは仲間だからか。
「探索者って、こんな感じなんですか?」
「うん。他人を助けて自分が危機に陥ったら意味無いから」
モンスターを排除し戻ってくるモルテンとアルヴィンだ。
「怪我が酷い。治療して欲しいってことだが」
「いいけど、相応の対価は必要ね。それはどうなの?」
俺とデシリアの側で息も絶え絶えで倒れる探索者二人。ヘンリケが二人に確認を取っているけど、今ひとつ要領を得ないのか返事がはっきりしない。
仲間だと思うけど、死んでもいいのだろうか。今度のことも考えたら、仲間を失えば探索者を続けられないと思うけどな。
ひとりが顔を上げ「あ、あんまり、稼ぎが無いんで」と言ってる。
「少しはおまけするけど」
「お、お願い、します」
「それとギルドに加入してないの?」
「稼ぎが悪くて」
組合費用を負担できず、今回不足分を稼ぐために無理をしたそうだ。
ここで稼げれば費用をねん出できる。そうすれば救助要請もできたと。でも現実は厳しかったようだ。
ヘンリケがぼろ雑巾の如き探索者の下に向かい、治療をするようだけど俺が呼ばれる。
「え、俺?」
「包帯とかガーゼ」
「あ、そうですね」
周囲を警戒するモルテンとアルヴィンが居て、ヘンリケと俺に付き添うデシリアとヴェイセルだ。この階層は安全ではないから、俺や治療中のヘンリケを守るためだろう。
倒れている探索者の側まで行くと、傷が深そうで出血も相当なようだ。
「これはまずいわね」
「治らないですか?」
「ひとりはね、もう虫の息だから」
腹をズタズタに引き裂かれ内臓飛び出してるし。見てるこっちが気持ち悪くなる光景だ。ちょっと吐きそうになる。
ひとりは頭と腕に裂傷を負っているけど、治療次第では何とかなるらしい。
そしてもうひとり、女性だ。胸元を引き裂かれてはいるけど、傷は浅いようでヘンリケによって塞がれた。
「包帯とガーゼ頂戴」
「あ、はい」
バックパックを下ろし取り出し手渡す。
ぼろ布になった服を剥いで、あ、目を逸らさないと。相手は女性だから。
「目を逸らしてるんだ」
「あの、見たら悪いです」
「こういう時は例外」
そう言われても。日本だったらスマホで撮影する人が多そうだけど。手も貸さず野次馬根性で撮影してSNSにアップするんだよ。なんか人として終わってる。もし、自分が瀕死の状態で撮影されてる、と分かっても平気なのだろうか。助けて、と思わないのかな。
想像力の欠如かもしれない。
「あの、デシリアさんも見られて」
「良くは無いけど治療してもらってる」
だから已む無しの面はあるそうだ。命の危機なのに見るな、とは言えないらしい。
ただ、好奇心や野次馬根性で見る人は居ないと。公衆の面前で治療する場合でも、治療することに手を貸す人が殆どだとか。この世界にはその点では良識があるんだ。
日本人って劣化してんのかな。
ヴェイセルを見ると周囲を警戒してて、治療中の女性を見ることはないのか。そう言えば女性にあまり興味が無いって。銃が恋人らしいから。
「イグナーツ君。もうひとつ包帯とガーゼ」
「あ、はい」
頭と腕を怪我した人の治療に入ったようだ。女性に少し視線を向けると、きちんと包帯が巻かれ呼吸も安定していそうな。
「助かったと思うよ。すぐは動けないけど」
「良かったです」
「あとで治療費請求するけどね」
「なんか、仕方ないんでしょうけど」
善意での治療ってしないのか。
「あの、助けを呼んできた人も怪我してました」
「軽傷なら簡単に済ませるでしょ」
あ、また疑問が。
「えっと、加療士って完全に治療できないんですか?」
「できないよ。なんで?」
「あ、いえ。できたらいいなって」
「そんな虫のいい話、無いから」
フィクションの世界とは違う。コミックやラノベでは完治させることもできてた。でも現実にそんな能力があるわけ無いか。治療で無双とかの話しだし。所詮はフィクションだから何でもありなんだな。
俺も治るまでに時間が掛かってるし。何度か治療してもらって、それで完治に至った。少し不便なくらいが丁度いいのかも。
離れた場所で戦闘をするモルテンとアルヴィンが居る。
近付くモンスターを排除してるんだ。苦戦することも無く余裕で対処できてる。あの二人が居れば、この階層程度は問題無いんだろうな。
魔法剣すら使わず倒すんだもん。俺なんて足元にも及ばない。
ヴェイセルが少し離れると銃をぶっ放してる。
「集まって来ちゃってるんだ」
「え」
「モンスター」
立ち止まると周囲のモンスターが集まってしまう。ましてや怪我人が居て身動きが取れないと、次々獲物として認識したモンスターが来るらしい。
「あたしがちゃっちゃと、やっつけちゃおうか」
「いえ。デシリアさんは最後の砦なので」
「なんで? 大丈夫だってば」
「いえ。ヘンリケさんの手伝いをしてください」
俺を見て「みんな、あたしが魔法使おうとすると邪魔する」なんて言って、膨れっ面を晒してるし。
この程度の階層でデシリアは過剰でしょ。ましてや召喚なんてされたら、目も当てられないし。
立ち上がり銃を構える。
「イグナーツは参加しなくていいんだよ」
「いえ。少しは役に立たないと」
「だからいいんだってば」
「モルテンさんとアルヴィンさんが、安全を確保してくれてるので」
ここからならいける。
無理せず漏れてくる奴らだけでも。確か、この階層のモンスターはみぞおち辺りが弱点。そこを突けば簡単に倒せる。ヴェイセルが手本を見せてくれてるし。
撃ち漏らしたモンスターに照準を合わせ、トリガーを引くと僅かに外れた。すかさず二発目を放つとしっかり撃ち抜いたようだ。倒れるモンスターが居る。
「上手いね」
「師匠がお手本になってるんで」
「才能あるよ」
「無いです。だから人一倍努力するんです」
何の技能も無いのだから、その分、努力して身に着けるしかない。もう、モンスターに蹂躙されるのだけはご免だし。
また撃ち漏らしが居て銃を撃つと倒れる。
「慣れてきたね」
「まだまだです」
「充分だと思うけどな」
デシリアは充分と見るかもしれないけど、ヴェイセルから見たらヒヨっ子レベルでしょ。もっともっと上を目指さないと、シルヴェバーリに相応しい人材になれない。
少しするとヘンリケが「治療終わったから運ぶの手伝って」と言われる。
二十五階層へ運び、そこで休息を取らせるらしい。
「守りはモルテンとアルヴィンに任せればいいから」
俺には一番重そうな人を運んでと。荷物を背負い直し体重のありそうな、戦士系の男を抱えると重いよ。何キロあるのか知らないけど、抱えるのも厳しい重さだ。
それでも置き去りにはできないから、抱えて移動するとヴェイセルもひとり抱えてる。デシリアとヘンリケが女性を抱え、二十五階層へ歩みを進めた。
前後でモルテンとアルヴィンが対処し、無事に辿り着くと怪我人を置く。
「救助要請をした方がいい」
「でも組合費」
「後払いも受け付けてくれる」
だから今は頼っておけと。
怪我人を置いて二十五階層を離れ、二十六階層へ移動するけど、その前に少し休憩を取ることになった。
「三十階層に向かう前に少し休んでおく」
五人を治療したヘンリケに休息が必要らしい。