Sid.44 今も尚過去を引き摺る
二十五階層での階層主戦。
素早い動きをする異形だけど喉に弱点を持つ階層主。前回はライフルで対処し少し手古摺りはしたけど、倒すことができた相手だ。
今回もモルテンとアルヴィンが牽制し、弱点を曝け出すよう誘導する。
前回との違いは重機関銃での戦闘になるから、狙いが定まっていないと前衛が蜂の巣になりかねない。
咄嗟の際に動きが制限されるが、前衛の二人を信じてプローンで射撃をする。
「撃ちます!」
ひと声掛けるとモルテンとアルヴィンが、射線をしっかり通すよう避けてくれる。
こっちに向かって来ないように牽制しつつだ。器用なことができる二人だからこそ、信頼できるし任せられるのはあるかも。
弱点である喉元に向けトリガーを引くと、秒間八発の銃弾が直撃し、あっさり首を落とすことができたようだ。胴体と泣き別れになり床を転がる頭。首から下は後方へと倒れ込んでる。
「さすがに倒すまでの時間が早いな」
「伏射だと姿勢が安定するから、狙いも定めやすいだろう」
「なんか楽に倒してる感じだよね」
「イグナーツ君が活躍すると、あたしの出番は無いかな」
モルテンやアルヴィン、それとデシリアも感心してるようで。ヘンリケの出番は深い階層でこそ、だと思うけど。銃なんてどこかで通用しなくなるだろうし。
「弾薬も最小で済ませてるな。優秀だ」
ヴェイセルも褒めてくれてる。
一秒間の射撃をしたから使用弾薬は八発。ライフルの時は五発で倒せてるから、単純な弾数で言えば重機関銃の方が効率が悪い。それでも手動での操作数は格段に少ないから、一発目の銃弾が放たれたあとのタイムラグは殆ど無い。ガチャガチャ操作しなくて済むことで、一発二発外しても狙われ向かわれる確率が減る。
タイパとでも言えばいいのか。実に良好。
「よし、休憩したら地上に戻るぞ」
階層主の部屋を出て階段前のスペースで休憩を取る。
荷物を下ろし飲料を各自に手渡し、床に腰を下ろすとデシリアが隣に座る。肩と腕が触れる状態になるから、こっちが少し意識しちゃうんだよね。デシリアは意識せずかもしれないけど。
「あの、ひとつ気になることがあるんですが」
どうしても確認しておきたいことがあるわけで、モルテンに聞いてみることに。
「なんだ?」
「銃の件か?」
「あ、いえ」
本来であれば三十六階層より下に向かっていたはず。俺が加入したことで浅い階層を行ったり来たり。しかも怪我までして一からやり直し。
その間、稼ぎとしてはかなり少なくなるし、出費もかさむ状態になる。
パーティーの共通財布にしても、各個人にしても大丈夫なのかと。俺に対する報酬だって仕事内容を考えたら、払い過ぎじゃないかと思う。
それを言うと。
「問題無い」
「蓄えくらいあるよ」
「十階層を半年往復しててもね」
「新人教育には金が掛かるものだ」
その程度の貯蓄はあるそうで。教育だから予算と言っても差し支えないそうだ。
「戦闘経験のない新人を迎え入れたら、最低半年は持ち出しの方が多くなる」
それでも問題無いように蓄えているそうだ。
しかも今後三人から四人の新人を勧誘する予定だと。そうなると一年はまともな稼ぎは期待できない。それでも困らないよう準備しているそうで。
アヴスラグの攻略が済んだら新人を勧誘する予定らしい。
「その時はイグナーツも先輩だからな」
「指導する側になるんだよ」
不可能だと思う。このアヴスラグが何階層あるのか分からないけど、ひとつ攻略した程度で指導なんて無理にも程がある。
新人の前で醜態を晒すのがオチだろう。そしてやっぱり荷物持ちはゴミだ、なんて新人から陰口を囁かれる。差別しない人を選ばないと、前のパーティーと同じ状況になりかねないし、俺は居場所を失うことになるだろう。
それでも金銭面での心配は要らないのか。きちんと先のことを見越して準備してるんだ。
休憩を終え地上に戻るが途中の階層で、デシリアが「ちょっと欲求不満なんだよね」と言いながら、ちゃっかり黒魔法を放つし。全員から過剰だと言われるも「だって、暇だもん」だそうで。
そうなるとヘンリケも聖法術を使い、呆れる面々だったけど。
この二人の攻撃力は確かに、浅い階層では過剰すぎると思う。黒魔法も聖法術ももっと深い階層で使うものだろうし。
デシリアの召喚術なんて階層主ですら、簡単に屠ってしまうのだから。ある意味、聖霊士の奇跡の光に等しいくらいだと思う。
ホームに帰ると明日以降の打ち合わせ、として全員がリビングに集められる。
「今後の方針だが」
モルテンが切り出すとヴェイセルが「イグナーツの重機関銃だけどな」と。
もう一度改造すべく銃砲店に預ける。完成するまでの間は二十五階層より下は、俺にとってかなり厳しくなると言う。
「一週間か」
「どうだろう。荷物を持つことをメインとして、戦闘は補助に徹するってのは」
考えるモルテンに対しアルヴィンは、俺の本来の仕事を優先してみてはってことのようで。
やはり三十六階層より下に向かいたいようだ。でも現状は俺が足を引っ張るから、なかなか先へと進みづらいのだと思う。だから俺には荷物持ちだけに徹してもらえば、下層階へと進むことも可能になると考えた。
「あの、俺はそれでいいです」
下層階ともなると、自分の身を守ることすら覚束無いかもしれない。それでも足踏みさせるのは悪い気がしてるし。
だったら本来の荷物持ちとして、パーティーに同行していればいい。戦闘では確実に足手纏いだろうから。浅い階層だからこそ、慣れで通用している部分はある。
この実力者の集まりであるパーティーでは、俺が戦闘に参加すると邪魔になるだろう。
「何の力もないですし、戦闘時に邪魔になると思うので」
「ならないよ」
不機嫌そうな表情で否定するのはデシリアだ。
「なんで自分を下げるの?」
「事実だからです」
「それ違う。イグナーツは強いんだよ」
強くないし何の技能もない。多少、銃の扱いに慣れただけで、銃が無ければ何もできないのだから。
「強いからひとりでラビリントから脱出できた」
「浅い階層だったからです」
「浅くても深くてもひとりじゃ無理なんだってば」
少しデシリアと揉める感じになったけど。
「あのな、イグナーツ」
「そう言うことじゃないぞ」
モルテンとアルヴィンから勘違いだと言われた。
「重機関銃が完成するまでの間は補助で、以降は俺たちと同じように、だ」
「今になってイグナーツ抜きでは考えてないからな」
「先に見ておけば対処もしやすいでしょ。みんな期待してるの」
ヘンリケからは期待してる、と言われるけど。
「まだ前のパーティーでの境遇を気にしてるのか」
「シルヴェバーリに邪魔な存在は居ない」
「必要だからパーティーに居るのだと理解してくれ」
前にも言ったように俺とデシリアが、将来シルヴェバーリの中心になると。邪魔とか使えない存在と思っていたら、中心として考えたりするはずがない、とも言ってる。
短期間で銃による戦闘を熟せる。技能すら持たないのにできているから、もっと自信を持っていいと言う。
「イグナーツはね、自分で気付かない才能があるんだよ」
「そうだな。経験もなしに銃を使いラビリントから帰還した」
「技能がない、と言われても信じられないくらいだ」
みんなの想定以上の働きができている。これ程までに銃との親和性が高いのには驚かされたと。
今後の主力として経験を積ませるから、卑屈にならず精進して欲しいそうだ。
明日は三十五階層より下、三十七階層を目指すことになった。
俺は荷物持ちとしての本来業務。銃はライフルと拳銃を所持するけど、戦闘には直接参加はしない。代わりにモンスターをよく観察しておけと。重機関銃を手にした際に慌てず済むようにだそうで。
部屋に戻るとデシリアが来た。
「イグナーツ」
「なんですか」
「卑屈にならないで」
頬を両手で抑えられキスされてしまった。




