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Sid.38 バカンスはビーチの予定

 ホームに帰ると玄関先で手が離れ一度リビングに顔を出す。

 ソファで寛ぐのはヘンリケとモルテンだ。俺とデシリアを見ると「デートは楽しめたか?」なんて言ってるし。


「デート違う」

「なんでそんなに否定するかな」

「違うから」

「まあいいけどな」


 生暖かい目で見るモルテンと含み笑いをするヘンリケが居る。

 デシリアが「明日の準備するから」と言って自室へ向かったようだ。その際俺に対して「今日はカッコ良かったよ」と言って笑顔で去って行った。あの酔っ払い相手に銃を突き付けたことか。

 それを聞いたヘンリケが「何かあったの?」と。


「ちょっと飲食店で絡まれまして」

「どんな店に入ったんだ?」

「居酒屋みたいでガラの悪い人がたくさん居て」


 町には一般向けの飲食店と表通りから外れた場所には、少々荒くれ者が屯する店があるそうで。モルテンやヴェイセルであれば絡まれる心配は一切無いが、俺やデシリアだと舐めて掛かられるだろうとモルテンは言う。

 ヘンリケだと男どもが鼻の下を伸ばし、下心丸出しで奢ってくれるそうだ。妖艶だもんなあ。


「それで、何をカッコよく決めたの?」

「別に格好がいいかどうかは分かりませんが」


 先にデシリアがダガーを喉元に突き付けるも、相手がそれでも舐めた態度だったことで、俺が相手の頬に銃を突き付け黙らせた、と言うと。


「あら、意外と」

「銃の扱いにも慣れてきたか」


 とは言え、とモルテンから「慣れたと思う頃が一番油断が生じやすい」そうで、ラビリント内では慢心や油断は禁物だと言われた。

 それでも行動に積極性が出てきたのだろうと。これまでの卑屈なだけの状態から、少しは探索者として自信を持てたのは良い傾向だそうで。

 俺、探索者じゃなくて荷物持ちなんですが。あの時は勢いそう言ったけど。


「まあ、放っておいてもデシリアならな」

「しつこいと素手で伸してたと思うの」

「そうなんですか?」

「お転婆娘だからな」


 ダガーでの戦闘も相応に熟し、格闘もそこらの男相手なら無双できるとか。体格差をものともしない格闘術を身に着けているらしい。

 なんか滅茶苦茶強いんじゃん。俺なんて銃を取り上げられたら、何もできずに殴られ蹴られるだけだろうな。

 対等の立場に立ててないんじゃ、恋愛の対象にもならないや。


「頑張って振り向かせてみなさい」

「そうだな。デシリアを振り向かせる初の男、見てみたいぞ」


 無理だ。デシリアって万能型。何でも熟せる。

 対して俺はと言えば銃の腕も中途半端で、格闘戦なんて不可能だし。魔法も使えないから頼りない存在でしかないでしょ。

 え、初?


「あの」

「ウブでしょ。でもイグナーツを気に掛けてるから」

「希望はあるぞ」


 気に入られているから失望させないよう精進しろ、だそうで。

 何となく気に入られているとは思ってたけど。今のままじゃ失望するよね。もっと頑張らないと駄目か。


 そして翌日。時間は午前七時に出発。いつもよりかなり早い。

 この日は三十五階層まで進むらしい。三十階層の階層主は俺が倒すことに。でも重機関銃はカスタマイズ中で手元に無い。


「隙は作ってやる」

「焦らず確実に仕留めればいい」


 新しい銃の弾薬は百発。上層では今までの古い銃を使い、三十階層から新しい銃を使うことにした。階層主相手から。

 三十五階層まで向かうと戻る頃には、完全に日が暮れてしまうらしい。


「本来であればラビリント内で一泊するのだが」


 もう少し慣れてからにしたいそうだ。ラビリント内での寝泊まりは、まだ時期尚早と見ているようで。落ち着いて眠れないだろうし、休息としては不十分になりミスを犯しかねない。ならばもう少し行ったり来たりを繰り返し、充分に慣れたら寝袋持参で攻略に参加してもらうと。

 決して無理はさせないようだ。常に安全マージンを充分に取るってことで。


 古いライフルの弾薬は三百発分持参。ヴェイセル用の銃弾も同数で、新しいライフルの分は百五十発分を持った。ヴェイセル自身は古い銃の分を五十発分と、新しい銃の分を五十発分を持つ。

 モルテンの剣は予備を十本。アルヴィンの剣も十本。

 それ以外だと飲料や食料を人数分。タオルに包帯やガーゼの類も持参。


「重機関銃が無い分かなり楽です」

「さすがだな」

「頼りになるね」


 俺が加入する前にスカラリウスに関して、どれだけ荷物を運べるものか、運搬賦役協会に問い合わせたことがあると。


「五十キロ前後だった」


 だから俺の場合は規格外だそうで。


「七十キロだの八十キロを担いで、しかも戦闘ができる」

「まさか重機関銃を抱えて撃てるのもな」


 抱えて撃ったのには舌を巻いたと。銃の反動をものともしない力強さ。

 すでにシルヴェバーリに無くてはならない存在らしい。なんか過剰評価な気がする。そこまでとは思わないし、今も足手纏いにならないよう考えるし。

 何にしても頼りにしてる、と言われた。


 道中、そんな話をしてラビリントに入ると「さて、お喋りの時間は終わりだ。全員気を引き締めろ」とモルテンが言うと、全員表情が変わり戦闘モードになったようだ。

 とは言え、デシリアはなあ。俺の隣で並んで歩き何かと話し掛けてくる。

 浅い階層の内は良いけど、深くなったら余裕がなくなると思う。


「夏になったら海に行こうね」

「あ、そうですね」

「乗り気じゃない?」

「いえ。凄く楽しみです」


 水浴をしに行くわけで。泳ぐわけじゃない。浴びる。

 それと水着は現代のものとは全く違うようだ。


「海水浴に着ていく服ってあるんですか?」

「水浴用の服があるよ。あ、でも新作買わないと」


 水着って、下はドロワーズで上はひらひらワンピースの服装だとか。それを着て泳ぐのは至難の業だそうで。

 水を吸ったら重くなるよね。普通の服装だと。素材も綿だったりウールらしいから。肌の露出も控えられていて、でもデザインは可愛らしいものがあるとか。

 元の世界で普及していた水着は、この世界ではまだ存在しないようだ。ビキニもワンピースも。モノキニとかタンキニなんてのも存在しない。

 当然だけどホルターネックもタイサイドも無い。ないない尽くしだな。


「なんだ? 二人は夏に海に行くのか?」

「あ、はい」

「へえ。ついにデシリアも女になるのね」

「違うからね」


 ヘンリケがチャンスだから抱いてしまえとか言ってるし。女になれば少しはガサツさも減るだろうとか。


「ガサツ違うし」

「男を知ると色気も出るからね」

「色気なんて要らないし。ヘンリケみたいになったら、ただの淫乱」

「そうかしら? 男が放っておいてくれないけどね」


 要らないとか言ってるし。俺も不要なのか。

 でも、今のままじゃ不要だろうし、もっと強く頼り甲斐のある存在にならないと。


 こんな話をしながら、モンスターを倒し十五階層まで一気に進む。

 以前と比較して楽に倒せてる。何度か経験するとコツが掴めるのかも。階層主も苦戦せず倒せたし。弾薬の消費も抑えられてる。

 クリストフたちは一体何をしていたんだろう。驕りと舐めた思考で潜って結局、取り返しのつかない事態に陥った。愚かすぎる。


 それでも二十五階層を過ぎると厳しさが増す。


「跳弾を活用しろ」

「はい」

「確実に仕留めれば手間も無い」

「はい」


 二十六階層のモンスターは鋭角に弾丸を押し込む必要がある。正面からだと弾かれるからだ。

 床に向かって銃を放ち跳弾を利用し、下から弾丸を滑り込ませ対象を沈黙させる。

 最初はやはり上手く行かないが、少しずつ慣れてくると、十体以上で群れてくるモンスターにも対処ができるように。

 前回は重機関銃で撃ち捲った。今回はライフルを使い三発以内で仕留める。


「体で覚えるしか無いからな」


 モンスターとの距離や銃口の角度、トリガーを引くタイミング。全て感覚で掴み取れ、だそうで。

 何度も試すことでコツを掴みつつある。もう少し頑張れば、ヴェイセル程ではないにしても確実性は増すと思う。

 けど油断大敵だった。

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