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Sid.33 銃砲店で改造と新たな銃

 三十階層へ潜った翌日と翌々日は休養日となった。

 武器の手入れや俺の場合は弾薬の補充に、重機関銃のカスタマイズがあるからだ。

 自分たちの命を預ける武器のメンテは入念に行い、戦闘時に不備の無いようにする。

 ヴェイセルが銃砲店に同行するそうで。


「俺も弾薬の補充は必要だからな」


 もののついでって奴だろうけど、居れば心強いのは確かだ。


「あたしも一緒に行く」


 デシリアも付いて来ると言う。居ても居なくても同じなんだが。銃に関しての知識はヴェイセルに遠く及ばないし。召喚や魔法に関しては他を圧倒していても。

 それでもしっかり付いてきて、何かと俺に話し掛けてくるわけで。食事はどこが美味いとか、服はどこの店が安価で実用性があるとか、まさに女子の会話だ。

 銃砲店に入るとヴェイセルから説明してくれる。俺が説明しても要領を得ないと思われたかも。


「レシーバにフォアグリップを付けて欲しいそうだ」

「これにか?」

「そうだ」

「持って撃てるものなのか?」


 撃ったからグリップを付けて欲しい、となったんだけどな。

 俺を見て店主が「撃てるって言うなら付けるのも吝かじゃないが」なんて言ってるし。

 ただ、顔から体までさっと見て「小柄なのに力はあるんだな」だそうだ。

 小柄。やっぱり周りの人に比べると小さいよな。でも日本人の平均身長くらいあるんだけど。この世界の男性が大きすぎると思う。


「まあいい。一週間は掛かるぞ」

「付ける位置だけどな」


 レシーバの横に付けると弾倉が邪魔になる。かなり大きな箱を付けるから、グリップに手が届かない。

 下に付けるとなると、少し手前に付けることになる。ただ、手前だと反動を制御しきれないから、レシーバの前の方が安定するとは言われた。


「それとな、普通に溶接しても取れるぞ」

「レシーバに固定して溶接か、ねじ止めするかは任せる」

「あとな、元々のグリップも変更した方がいい」

「今あるグリップを外して銃床を付ければいいのでは?」


 詳細を詰めて話し合いが行われ、重機関銃を抱え持って位置の確認をして、オーダーを済ませると代金は後払いとなった。ついでに整備もしてくれるそうで。

 フォアグリップの位置は結局、手前になり安定性は犠牲になる。それでも抱え持って撃つより遥かに楽だと思う。


「あと弾薬の補充と性能のいい銃はないか?」


 弾薬はいつもの奴で、性能のいい銃ってあるの?


「無いなあ」

「重機関銃を扱いやすくした銃は?」

「無いぞ。そんな都合のいいもの」


 ヴェイセルが俺を見て「イグナーツの腕力には恐れ入るな」だそうで。褒められてるのだろうか。


「ああ、そうだ。あんたが使ってる銃の改良型ならあるぞ」

「改良型?」

「銃身を少し短くして取り回しの良さを追求した奴だな」


 それと挿弾子と呼ばれる弾薬剥き出しのクリップ。交換が容易で最大十発装填可能だとか。箱型のマガジンの方が交換は容易だけど、小銃用には開発されて無いのかな。ありそうだけど。


「命中精度は落ちないか?」

「問題無い。ライフリングの形状にも工夫を凝らしてある」


 今使ってる奴より弾は真っ直ぐ飛ぶぞ、なんて言ってる。俺もそれ欲しいな。

 実物を見せてやると言って、ショーケースから取り出したけど、リー・エンフィールドの改良型っぽい見た目だな。

 銃剣にもなる仕様だろうけど、銃の先端に付ける剣じゃ、モンスターを倒すのは無理だろうな。突き刺さるかどうかも分からないし、刺さったら刺さったで抜けなくなっても困るし。


 真剣な表情で手にして見るヴェイセルだ。ボルトアクションの銃だけど、ボルトを引いてトリガーを引いての動作を確認してる。


「まあ、悪くは無いが、本当に命中精度は落ちないんだな?」

「だから大丈夫だっての。俺を信じろ」


 思わずデシリアと顔を見合わせ「あの顔で言われてもねえ」なんて失礼なことを口にしてるし。髭が濃く丸顔のおっさんだけど、丸顔ゆえか人相は悪くないと思う。

 聞こえたのかデシリアを見て「顔で商売はしてないぞ」だそうだ。


「分かった。これまでハズレを掴まされたことはないからな」


 四丁買うから少し安くしろと交渉してる。それと専用の弾薬も二百発。

 銃弾は七・八ミリの六十三ミリ。ホローポイント弾とフルメタルジャケット弾があるようで。迷わずホローポイント弾を選択してた。

 相手はモンスターだから、より殺傷力を高めた銃弾ってことだよな。


 会計を済ませ用意する間、暇そうにしているデシリアを他所に、ヴェイセルは俺に「一丁はくれてやるから使ってみろ」と言う。


「え、でも」

「重機関銃を預けてる間、古い銃で対処するのか?」


 どうせだから改良型を試せばいいと。


「イグナーツが買うには高価だ。もう少し稼ぎが安定したら自分で買えばいい」


 今は世話になっておけ、だそうで。ただ、弾薬は自前で何とかしろと。

 じゃあ、俺用に百発くらい。予備で今使ってる銃を持参すれば、どっちかが故障しても対処できるし。


 買い物が済むとヴェイセルはホームに帰るそうだ。


「二人はデートを楽しむといい」

「デート違うもん」

「そう言うことにしておく」


 笑いながら帰ったようだ。


「イグナーツ。真に受けちゃ駄目だからね」


 なんかそれも少し悲しい。嘘でもいいからデート、としてくれればテンション上がるんだけどな。

 とは言え、二人になると「じゃあご飯食べに行こうか」と、俺の手を取りさっさと歩くデシリアだ。ぎゅっと手を握られ強引に連れ歩くんだよな。

 他の人の前では手を取らない。二人きりだと手を取る。多少は意識していそうだ。

 ちょっと嬉しい。


「何か食べたいものある?」


 カレーライス。と言っても通じないし、この世界には無い食べ物だろう。

 そうなると、ぐちゃぐちゃ煮込み料理か、あ、あれだ。


「コールドルマル」

「好きなの?」

「たぶん一番口に合うから」

「そうなんだ」


 少し歩くと赤い外壁を持つ木造の店に入る。庶民的な雰囲気だな。

 席に着くと店員を呼び「コールドルマルとスコーグスパイとレードベーツソッパ」と言っていた。

 俺が食べるロールキャベツと、デシリアは森のパイとレッドビーツのスープ。

 原色系の色味のスープが多いんだよな。赤とか緑とか黄色とか。あとは酢漬けのニシン。あれは美味いと思えなかった。


 オーダーしたものが出てくると、話をしながら食べるんだけど。


「改造したら火傷しなくて済むの?」

「たぶん大丈夫だと思います」

「それならいいけど、あんなに火傷してまでやらなくていいんだよ」


 心配してくれるんだよな。なんだかんだ言っても面倒見のいいお姉さんだし。

 姉弟の関係より恋人、なんて思ったりもするけど、頼りなさは致命的だろうな。


「預けてる間は戦闘はそこそこでいいからね」

「できる限りは頑張ります」

「いいんだってば。あたしが居るんだし」


 いや、逆に怖い。あの得体の知れない存在を召喚されると、恐怖しか感じられないし。

 黒魔法は本来の使い方だと二十分間何もできない。少し不便かもしれない。

 俺が死ぬ気で頑張れば他の人の負担も減るだろう。


「明日って用事ある?」

「特には」

「じゃあ、ちょっと出掛けようよ」

「どこにです」


 ダールフローデンだそうで。

 絶賛上演中の演劇があるとかで、それを見に行こうと誘われた。演劇って興味無いんだよな。映画とかアニメとかは見るけど、ああそうか。この世界には無いんだよ。

 でもせっかく誘ってくれてるし。


「じゃあそれで」

「あんまり嬉しそうじゃない」

「いえ。楽しみです」


 デシリアと出掛けるのが。


「そう? じゃあ明日九時出発」

「分かりました」


 こうして少しずつでも距離を縮められればいい。


「あの、それってデートですか?」

「え」

「あ、いえ。違うなら別にいいんです」

「デートだよ」


 真顔で言ってる。他の人に言われてやたら否定してたのに。

 笑顔を見せたと思ったら「だって、相手他に居ないんだもん」って、期待したけど違った。

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