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Sid.31 召喚で呼び出された存在

 次々モンスターが湧いてくる二十九階層を突破すると、本日の目標階層である三十階層に到達した。

 二十七階層から二十九階層で弾倉を三箱と九十二発。残りは六箱と百五十八発。

 十個持ってきて正解だったようだ。階層主相手にひと箱消費できる。

 モルテンから簡単に説明があるようで、階層主の部屋の前で打ち合わせとなった。


「階層主だが、これまでは一体だけだった」


 ここでは二体現れる。硬い奴とぬめる奴の二体だそうで。

 弱点は把握できているはずだから、そう苦労はしないとは言う。ただ、二体とも動きの速さがあり容易に的を絞らせない。銃撃が難しい相手ではあるそうで。


「俺がぬめる奴を相手にする。アルヴィンとヴェイセルが硬い奴だ」


 場所を固定しての戦闘は不可能だから、跳弾を利用した戦闘も無理があるとか。

 だからモルテンがぬめる奴を相手にするそうで。魔法剣を使うからスムーズに、予備の剣を渡せるようにしておいて欲しいと。


「硬い奴はヴェイセルの精密射撃で対処する」


 俺はと言えば硬い奴を相手に、ひたすら撃ち捲れ、だそうだ。

 アルヴィンが後衛に向かわないよう、上手く立ち回るから落ち着いてやれ、と言う。


「くれぐれも仲間を撃たないようにな」

「はい」

「信頼して任せるからな」

「はい」


 モルテンが話しを終わらせ部屋に入ろうとしたら、デシリアが「ちょっと待って」とストップを掛ける。


「なんだ?」

「あたしがやる」


 俺以外が全員硬直した表情を見せるし。

 慌ててモルテンが「い、いや。この程度の場所で召喚は不要だぞ」と言ってるが、デシリアは譲る気無しなようで「イグナーツにも見せておかないと」なんて言ってる。


「戦闘がきつくなる場所で見せるより、ここで見せておいた方がいいと思う」

「だがな」

「大丈夫だってば」

「いや、しかしだな」


 デシリアに押され気味のモルテンが居る。他の仲間も「あんな無茶な奴不要だろ」とか「退避できないから巻き添えが」や「逃げ場がないんだけど」と心配そうだな。

 どれだけ危険な存在なのか気になるし、確かに見ておきたい気持ちはあるし。


「あの、一度見ておけば、下層階でいきなりよりは」

「確かにそうかもしれんが」

「でもねえ」

「あれは危なすぎる」


 絶対大丈夫だと言って譲らないデシリアが居て、已む無く俺のためにと召喚が許可された。


「まあ腰抜かすぞ」

「そうですか?」

「見た目からして、モンスターの比じゃない」


 ただし、召喚には少し時間を要するらしい。その間は通常戦闘になるから、各々が召喚可能になるまで対処するそうだ。


「まずは最初に言った通り行動し時間を稼ぐ」

「召喚できたらイグナーツはしっかり見てて」

「あ、はい」

「大丈夫だから。危なく無いからね」


 方針が決まり部屋に入るのだが、早々に前衛が後衛に近寄らせないよう、階層主を誘導すべく攻撃を始めた。

 デシリアが俺の隣で目を瞑り、右腕を前に突き出し何かを指さし、左腕を体の手前に曲げ何やら呟き始める。


「ディアスタティキ・シンデシ・ディアドロム」


 言葉を発すると同時に魔法陣のようなものが、デシリアの足元に展開され広がって行く。もしかして召喚陣とか言う奴かもしれない。

 さらに続けて呪文らしき文言を唱え続けるデシリアだ。


「アルケイオス・イヴェルニティス」


 何を唱えているのか分からないけど、額に汗を浮かべ眉間に力が篭もってる。

 召喚は魔法と違って呪文が必要なのか。だから時間が掛かるんだ。


「ファテ・ティン・カシア・フィシ」


 デシリアの体が発光し、召喚陣と思しきものも激しく光り輝いてる。


「エキディロシ、シフォファゴス!」


 目も眩むような眩い光と共に、何やら激しく明滅しているような。

 何かが現れ始めると同時にデシリアが倒れてしまった。慌てて体を支えると「ありがと」って言ってるけど、体は熱いし疲労なのか完全に脱力した感じで。

 光を見ると徐々に形が作られ、明滅しながら宙に浮いているようだ。そして全身に悪寒が走り捲った。


「あ、あの」

「あれはね、シフォファゴス。魂食い」


 完全に姿を現したであろう存在は、まるで昆虫のような目でありながら、体の三分の一を占め体は半透明で鱗に覆われ、紐のような触手が無数にぶら下がり蠢く。

 まるで鼓動の如く明滅を繰り返し光る体。

 あれが何か、と問われれば分かる気もしないでもない。元の世界でのフィクションで知る存在に近い。

 恐怖で竦んでしまう。立っているのもつらいくらいだ。


 モルテンやアルヴィンたちが、一気に階層主から離れ後退してきた。


「ヤバい奴を出したな」

「デシリアを抱えておけ」

「襲われずに済むからな」


 冷や汗だろうか、揃って青ざめた表情で汗を掻き、全員がデシリアを中心に纏まる。

 どうやら召喚されたものは、召喚主には危害を加えないらしい。近くに纏まっていると召喚主としか認識せず、攻撃をしてこないのだそうだ。

 そして階層主への攻撃と思ったら、触手を絡めた瞬間、階層主の体が霧散して行く。そして光る球が現れると吸収したようだ。


「えっと、もう一体の階層主が逃げてます」

「存在の格が違うんだよ」

「どれだけ深層の階層主でも裸足で逃げるぞ」


 逃げてはいるが逃げ場がないのが、階層主の部屋なわけで。

 すぐに追い詰められ触手に絡め取られると、やはり同じように霧散し光る球が現れると、吸収され何事もなかったかのようだ。

 でも、まだ何かを探しているような。


「デシリアが帰還呪文を唱えないと、そこにずっと居座り続ける」


 なんて面倒な奴なんだ。

 俺に寄り掛かっていたデシリアだったけど、体を少し起こすと「ディアタゾ」と口にし、続いて「エピストレ・ストン・コズモ・アポトン・オピオ・イルハテ」と唱えた。

 その言葉と同時にシフォファゴス、とデシリアが呼んだ存在が消え去ったようだ。


 明滅する眩い存在が消えて居なくなると、階層主の部屋は静けさと仄暗さを取り戻す。

 デシリア以外が大きく息を吐くと「もっとおとなしい奴が居ただろうに」って言ってるし。


「あの、みんな纏まったのは」

「ばらけてると襲われて、階層主と同じ末路を辿る」


 なるほど、危険だと言っていた意味が分かった。召喚主以外は全部敵。


「以前に経験したんですか?」

「いや、俺たちは事前に聞かされていたからな」

「じゃあ」

「それはデシリアの口から」


 デシリアを見ると「ちょっとね」なんて言ってる。まだ脱力したままで俺に寄り掛かってるけど、さっきまでの熱さはすでに無いようだ。

 少しして立ち上がると「召喚するとね、一気に脱力しちゃうんだ」なんて言ってるし。


 とりあえず部屋を出て階段前のスペースに移動する。

 そこで休息を取り地上へ戻ることに。


 全員に飲料と食料を手渡し、床に腰を下ろすと隣にデシリアも座る。

 肩が触れてるし距離感が壊れてるよ。水を一気に飲むと「ぷはぁ」なんて言って「ああ疲れた」とか言ってるし。

 俺に顔を向け視線が合うと。


「最初に召喚したのがシフォファゴス」


 語り始めるようだ。


「召喚の力を得たのは五年前」


 それまでは朧気ながら、何かと繋がる感覚があったらしい。五年前に召喚の技能を授かり、呪文と何を召喚できるか知ったそうで。

 その中でも最初に召喚に成功したのが、シフォファゴスだったと。


「危険性を認識できてなくてね」


 友人たちと街を散策していたら、ガラの悪い連中に絡まれ召喚を使ったそうで。


「襲われて消滅してた」


 友人たちは恐怖からデシリアに纏わり付いていた。そのお陰で難を逃れたらしい。

 それで気付いたそうだ。自分と周囲に居る人は安全。離れた位置に居る人は死ぬ、と。

 容易に制御の利く存在ではない。しかし、召喚主だけは襲わない。

 召喚したら帰す必要があり、それにも呪文があって唱えると消えた。


「あの、罪に問われたりは」

「証拠が何ひとつ無いから」


 消えた人間が存在したことすら証明不可能。罪に問えず無罪放免になったそうだ。

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