Sid.30 数で押してくるモンスター
会敵する数が多く弾薬の消費もそれに応じて増える。いや、俺の撃ち方が滅茶苦茶になってるからだ。
それでも少しずつ暴れず済むようになってきてる。
ついでに抱え持つことで火傷も絶えない。その都度、ヘンリケが治療してくれるけど、物凄く無駄なことをさせてる気がして。本人に言うと「頑張った証だから遠慮要らないの」だそうで。とは言え完治してるわけじゃない。バレルやレシーバに焦げた皮膚まで付着してる。左の手指は爛れ気味で出血も。
せっかく買った服の袖も焦げてるし。
「せめて把手があれば」
「把手?」
「レシーバに把手が付くだけで、扱いやすくなると思うんです」
「イグナーツなら扱えそうだし、カスタマイズしてもらうか」
本体だけで十六キロあるから、一般的な射撃手には重すぎて抱えて使えないらしい。俺はそれを持って撃つことができる、と言うことで銃砲店に頼んで、カスタマイズを検討することになった。
「イグナーツの手」
「別に構いません」
「でも、そこまでしなくても」
「いいんです。役に立てれば」
心配するデシリアだけど納得した上でやってるし。
しかし「献身もいいが、自分の体も労れ」とモルテンに言われてしまう。
火傷の痛みに耐えながらも二十八階層をクリアし、二十九階層に向かうが、その前にヘンリケから「きちんと治そうね」と言われ、暫し治療の時間となった。
モンスターが現れたらモルテンとアルヴィン、それとヴェイセルが対処する。
あの三人に任せておけば危険な状況には陥らない。
「ちょっと酷いね」
「ボロボロだよ」
「銃が凄い熱を持つんで」
「無理しすぎ」
ヘンリケが治療する傍らで、心配そうに様子を窺うデシリアだ。
加療士による治療は短時間で完治させるに至らない。治癒することを助けるだけで、あとは自力での回復になるわけで。
それでも爛れた皮膚の再生を促し出血は抑えられる。指紋までは再生されてないな。
「あたしにできるのはここまで」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「無理はしないでね」
簡易的な治療が済むと二十九階層へ向かい、ここでモルテンから説明された。
「この階層は混合になる。少し手間が掛かるが気を抜かず対処してくれ」
瞬時にモンスターの種類を見分け、最適な攻撃手段を取る。
殻を纏った奴と正面攻撃の利かない奴。それらが混ざってくるそうだ。
「イグナーツ」
「あ、はい」
「重機関銃は三脚にセットしておけ」
「でも」
火傷してまでやらなくていい、だそうで。
見てて痛ましいそうだ。仕方ないか。
初動が遅れることは想定済みだから、しっかり準備して確実に倒せばいいと。
二十九階層を進むと早速混合状態のモンスターと会敵し、戦闘態勢になるが俺はと言えばしっかり床に固定し、銃口を向け狙いを定めることに。
モルテンやアルヴィンが一定数を倒し、ヴェイセルがピンポイントで一体ずつ倒す。三人の動きと連携が凄くて、初動の遅れにより戦闘に参加する機会が。
戦闘終了の際に言ってみることに。
「あの、何もしてないんですが」
「気にするな。この先必要になる」
弾薬をかなり消費してるから、少し温存しておけってことらしい。二十八階層では弾倉を二つ使ってる。確かに使い過ぎだと思う。
まだ階層主の相手が残ってるのと、帰りにもモンスターの相手をする必要がある。
弾数は多ければ多い程、倒せるモンスターの数も増える。本来は無駄弾を使う余裕なんて無いから。
「左右だ!」
右と左の支洞から同時にモンスターが来て、モルテンとアルヴィンとヴェイセルが右側へ。俺は左側を受け持つことになった。
重機関銃をセットする間に、デシリアが足止めで魔法を使う。
「外側だと効果ないでしょ?」
「確かに」
「見た目は派手で攻撃した感じはあるけどね」
足止め程度にはなってるから、それで準備はできた。
トリガーに指を掛け引くと、秒間八発の銃弾が射出され、角度調整をしながら倒す相手と、殻の隙間を狙って撃つことを繰り返す。
手数で勝負することでバタバタ倒れるモンスターだ。
隣で見てるデシリアだけど耳塞いでるし。やっぱり煩いよね。それと俺の後ろに立つヘンリケだけど、なんか時々当たるんだよ。頭に。柔い感じのものが。ちょっと気になるけど、今は戦闘中ってことで。
合計九十三発放つとモンスターを全て排除できた。向かってきたのは十二体だったから、九発は無駄撃ちしたことになる。
それでも抱え持っていた時より、節約はできたから良しとしておく。
俺が打ち終えた頃にはモルテンたちも、戦闘を終了し魔石を回収してるし。
「イグナーツ、数が多いからあたしも手伝うよ」
「俺がやります」
「いいから。ここまで仕事してないし」
と言うことで一緒に魔石の回収をする。
「さっき、何を気にしてたの?」
「え」
もしかして頭の上に乗ってたもの?
「いえ、後ろのヘンリケさんが気になって」
「ずるいよね」
「えっと。何がです?」
「だって、あたしより豊満」
うん。想像できた。妖艶な人だし胸元は強調されてるし、やっぱそれだよね。俺みたいな未経験者には刺激が強過ぎるんだよ。
「楽しんだ?」
「あ、いえ。倒すのに集中したんで」
「そう?」
少し疑ってるけど、ごめん。これって男の本能だし。い、いやいや。別に彼女でもないし、深い仲でも無いから謝る必要は無い、と思いたい。
それでも集中したのは事実。
ヘンリケも俺を揶揄ってたのか、それとも余裕があると見ていたのか。戦闘中にすることじゃないとは思うけど、気付かず載せてたってこともあるかも。
「回収終わり」
「今回の回収で金額ってどのくらいになるんですか」
「うーんとねえ。そこそこ、かな」
数が多いから分からないか。俺も弾薬は数えても魔石の数は把握してないし。
全員が一か所に纏まると移動を開始する。
「今度は前後」
またも混合部隊。
前方へ駆け出すモルテンとアルヴィン。続いてヴェイセルが銃を構えながら向かう。すぐに戦闘状態になるけど、発光することがあるから魔法剣か。
こっちも余裕があるわけではない。
即座に重機関銃をセットし撃とうと思ったら、十メートル程度先に壁ができてるし。
「足止め」
ヘンリケの聖法術で土の壁を作ったようだ。
それを壊そうとするモンスターのようだけど、簡単には崩れないんだな。強度が充分にあるってことか。
「あのね、イグナーツ君。右からも来てるの」
「え」
「後ろは放置でいいから右をお願い」
「あ、はい」
そう言うことか。
三方向からなんて、こっちが分散してしまうわけで。普通なら窮地に陥りそうだけど、ヘンリケもデシリアも余裕がある。
土の壁の向こう側で爆発音がするし。デシリアの黒魔法だろうな。
銃口を向けトリガーを引き撃つと、次々倒れるモンスターだ。
さすがに少し慣れてきて、見た瞬間にどこを狙えばいいか分かる。殻を持つ奴は倒しやすいけど、跳弾を利用する奴は少し手間だな。どうしても無駄に撃つことになるから。
それでも全部倒しきる頃には、全員が戦闘を終了していた。
「楽勝だった」
「そうですか」
「イグナーツは?」
「まだ苦戦します」
跳弾がヴェイセルみたいに一発で決まらないから。
技能のお陰と言っていたけど、技能無しでもなんとかしないと。こればかりは数を熟して間隔を掴むしかないんだろうな。
モルテンが俺の側に来て「替えの剣を渡してくれ」と言ってる。
「折れたんですか?」
「すぐ限界が来てな」
替えの剣を渡すと柄だけになった剣を渡された。
「これは?」
「一応持参しておいてくれ」
受け取ってバックパックに仕舞っておく。
「イグナーツ。あたし二十分間無力だから」
「頑張ります」
「あら、あたしが居るから大丈夫よ」
「イグナーツならひとりで戦えるもん」
ヘンリケとデシリアの女の闘い、だろうか。
でも俺の場合はある程度時間を稼いでもらわないと。準備に少しだけ手間が掛かるから。
「あの、ヘンリケさんに時間稼ぎを」




