Sid.29 魔法剣士による破壊の光
移動しているとモンスターと遭遇し、早々にヴェイセルがライフルを構え撃つと、僅か三発で仕留めてしまった。
「同じ箇所に連続して撃てば、弾丸は深部に達して致命傷を与える」
三十度の角度で正確に撃ち込めば、弾丸はしっかり内部に入るそうだ。
ただし、正面から撃って三十度にはならない。モンスターのほぼ真下に位置する必要があるからだ。じゃあどうやって、となると跳弾を利用しての曲芸だった。
それを俺にできるとは思わない。
ビリヤードですら、そこまで器用なことはできないのに、銃で同じことができるわけないと思う。マッセなんてラシャを削るだけで不可能だったし、クッションだって上手くできなかったし。理屈は分かってても体は思うように動かない。
「こんなのは技能があってこその芸当だ」
だから俺に真似しろとは言わないそうで。
技能持ちになると、そんなこともできるんだ。俺には何も無いから他で努力するしかないんだよな。
「どうした?」
「いえ。差を見せつけられた気がして」
「気にするな。イグナーツよりキャリアは圧倒的に長い」
初めて銃を手にした時は、俺より酷かったと慰めてくれるヴェイセルだけど。逆に虚しくなってくるんだよな。だって、どれだけ努力しても将来同じレベルにはならないから。
技能持ちは努力に応じて技術は幾らでも向上する。元の世界で言えば天才。神が天賦の才を与えるから、この世界の人は誰もがひとつ、抜きん出た才を持つ。
俺は凡庸。努力では絶対に超えられないものがあるわけで。
落ち込んでいると肩を軽く叩かれる。デシリアだ。
「イグナーツはあたしたちじゃ運べない荷物を運べる」
「そうね。荷物を運んで戦闘もできるのだから」
「俺でもその荷物を背負って走れ、と言われたら無理だな」
気にするなと。銃の腕前を買ったわけではなく、ラビリント攻略の要として来てもらったのだと。
荷物持ちが居なければ深い階層には容易には行けない。荷物持ちが居ることで生還率が高まる。決して自分を下に見る必要は無い、と全員に慰められてしまった。
「今は無理かもしれないが、もっと誇っていいのだからな」
シルヴェバーリの正式メンバーなのだからと、モルテンもそう言って肩を軽く叩く。
過去に仲間になりたい、と申し出る人は多かったそうで。でもラビリント攻略に同行させると、合格者は出なかったらしい。
現時点でのメンバーと同等な存在も居ない。劣る存在は不要として断っている。
優れた存在は大歓迎だが、優れた存在はすでに他のパーティーで活躍している。
「選ばれた、それだけでも名誉だと思っておけ」
アルヴィンにも言われた。
悔しがってる奴らは多数居るぞ、だそうで。
国内屈指の探索者パーティー。羨望の眼差しで見られる存在。確かにそう思うけど。
みんな凄腕だから。
気を持ち直し二十八階層を進むと扉がある。
二十八階層は二つの領域で構成されるようだ。
「ここからはモンスターが神出鬼没になるからな。注意を怠るな」
これまでの会敵とは異なり、急に現れる感じになるらしい。より慎重な行動が求められるそうだ。
扉を開け入るとアルヴィンが「来たぞ。前方」と声を上げ、すかさずヴェイセルが銃を構え一発放つ。モンスターが姿を現し突進してくるが、モルテンが剣に光る魔法を纏わせ両断した。
魔法剣の威力もさることながら三人の連携が凄いな。
剣を鞘に納める際にモルテンが言う。
「これをやるとな、大体十回くらいで剣が折れる」
どれだけ丹精に鍛えた剣であっても、魔法を纏わせると脆くなってしまうそうだ。
ただ、この階層で出し惜しみすると、怪我人が出るから使う時は使うと。道具を使うことを躊躇して命を危険に晒すより、道具が損壊する方を選ぶそうで。
「そんな戦い方ができるのも、イグナーツが居てこそだ」
モルテンにとって、とても助かる存在だと言って、ここでもヨイショされた。落ち込んでたからだな。気分は切り替えてるけど。必要とされるから今ここに居るわけで。
それにしても、フィクションのような都合の良い剣は無いんだ。ミスリルとかアダマンタイトとか、オリハルコンとかドラゴンの牙や鱗。
ある部分で凄く現実。ある部分では凄くファンタジー。二つの要素が融合した世界なんだな。
「あの、さっきの光って」
「あれか?」
疑問が出たからモルテンに聞いてみると。
「フェルシュタレルセンス・リュースだ」
「えっと、よく分かりません」
「敵を一刀両断する破壊の光だな」
剣を媒体として魔力を収束し光となる。それに触れたものは瞬時に切断されるらしい。
ライトセーバーみたいだった。プラズマのような超高温の剣だったりして。でも、超高温って言っても一万度とかだと剣も溶けるよなあ。不思議なことができるのが魔法なんだな。
ただ、折れるってのは分かった。
強力な魔法にしても聖法術にしても、圧倒的なメリットはあるけど、同時にデメリットも必ず存在するのが分かった。
単独でラビリント攻略が不可能な理由も。回数制限や硬直時間とでも言えばいいのか。各々組み合わせて穴を埋めるのがパーティー。
ご都合主義で無双し捲るファンタジーとは違う。現実ってのは厳しいんだな。
だから俺が銃一丁で十六階層から戻れた、ってことで称賛したのか。
誰もが成し得ないことをやれたと。生きて脱出するために必死なだけだったんだけどな。
再び歩みを進めるとアルヴィンが「居るぞ。後ろだ」と言うと、ヴェイセルが銃を放つと姿が現れるのはさっきと同じ。
「イグナーツ。撃てるか?」
「準備できてます」
「早いじゃないか」
アルヴィンの声と同時に重機関銃を床にセットし、サイトを引き起こしレバーを引いておいた。
意識して動作を早めることで、即応態勢を取れるよう考えたから。みんな凄腕だから、俺だけお荷物になりたくないってのもある。
「撃てるか?」
「はい」
トリガーを引けば銃弾が飛び出す。ただし正面からは撃たない。床に向けて撃ち跳弾を利用するが、少しずつ角度を上向きにして、調整しながらだ。
結果、十八発で目的の角度を達成し、五発でモンスターを倒すことができた。
「やるな」
「それを繰り返せば、感覚で掴めるようになるだろう」
これって、床が平らだからできるんだ。他の階層だと床は凸凹。跳弾がどこに向かうか予測困難だし。でも、ここは平らだから凡そ見当を付けられる。ヴェイセルはそれも分かってやったんだな。
「でも、使い過ぎてます」
「構わない。試さないと感覚すら掴めないからな」
三十階層までに何でも試せ、だそうだ。
重機関銃を背負い直し移動を開始するけど、遭遇頻度は他の階層より高いのか、度々戦闘状態に至ることに。
その都度、重機関銃を下ろしってのも無駄だ。抱え持って移動した方がいい。
重機関銃を三脚から外し本体だけを抱え持つと、それで撃てるのかと聞かれる。
「撃てるの?」
「試してみます」
「あまり無茶はするなよ」
「やる価値はあると思います」
アルヴィンの声と共に銃を構えるけど、保持するのが面倒な形状だな。
無理やり腕を回し抱え込み、体で固定しトリガーを引くと、体ごと振動して狙いが定まらない。バレルフィンが熱を帯びるから触れると火傷するし。
それでも力を籠めてふんばると、角度調整しつつ狙い葬ることができた。
ただ、弾薬は三十二発も使ってしまった。姿勢が定まらなかったから。
「なんか、凄いな」
「重機関銃を持って撃つとは」
「力技だね」
「火傷してるよ」
ヘンリケさんが治療してくれるようだ。
「無理はしないでね」
「そうだよ。あたしたちが居るんだから」
「まあ、足手纏いと思われたくないのは分かるが」
「荷物を運ぶだけで充分役立ってる」
それでも役立とうとする姿勢は評価に値するそうだ。
アサルトライフルが欲しい。あれなら扱いやすいはずだし。この世界にはまだ無いんだろうな。
早く誰か開発してと思う。