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Sid.25 迷宮に慣れてきたようだ

「そう言えば、調べるなんてしてないかも」


 探索者じゃなくて冒険屋だな。稼業としてやってるなら。あえて危険に飛び込み稼ぎを得るのであるなら、何で探索者なんて呼び方してるんだろう。

 逆に疑問が増えてしまった。


 疑問を生じたところでアヴスラグに着いてしまう。

 守衛に入坑許可証を見せて中に入る一行。後ろから守衛の声がする。


「記録更新、期待してるぞ」


 今日は記録じゃなく俺の鍛錬。だから三十六階層へは向かわない。

 シルヴェバーリって結構有名なパーティーなんだな。常に先陣を切って攻略する探索者ってことで。

 実力は国内でも随一らしいし。クリストフのなんちゃって探索者とは違うな。

 そう言えば、あいつら今はどうしてるんだろ。廃業したらろくな仕事も無さそうだけど。まあいいや。どこで何をしようと関係ないし。


 一階層から四階層は最早手慣れた感じで、ライフル銃で充分に対処できる。

 しかも一発で仕留められるから銃弾の消耗も抑えられるし。威力が大きいことで外しさえしなければ確実に倒せるのがいい。


「イグナーツ。いい調子ではあるが、浮かれず気を引き締めるんだぞ」

「あ、はい」

「好事魔多し、だよ」

「あ、そうですね」


 好事魔多しなんて日本のことわざだけど、勿論日本語じゃないから、意味合いとしてそういうことなのかと。

 続いて五階層の階層主も楽に倒せた。

 六階層から九階層までも連携が上手く行き、苦労しないで進むことができている。周りのメンバーが強いから負担が軽い。決して自分の力ではないと戒めておかないと。仲間と協力してこその結果だ。


 十階層の階層主も労せず倒せた。ここまでは順調。

 緊張することなく前回までの教えを活かす。弱点は分かってるわけだし、落ち着いて狙えば確実に当たり倒しきれる。

 十一階層から十四階層も特に手古摺ることはなかった。

 十五階層の階層主は前回五発で倒せてる。今回も気負うことがなく冷静に対処すれば問題無い。


「よし。前回より短い時間で倒せたな」

「気を抜いちゃ駄目だからね」

「はい」


 褒める言葉と引き締める言葉。褒めるだけだと調子に乗りかねない。引き締める言葉も大切だよな。

 どの階層に居ても油断しないから、確実に攻略し続けられるのだろう。


 十六階層から十九階層ではライフルでも、少し弾数が多くなってくる。一発で倒せる相手じゃないからだ。弱点は前回教えられているから、きちんと狙えば倒せるのは確か。

 昆虫系のモンスターは間接以外は硬く、銃弾を弾いてしまうからだ。

 ニーリングの姿勢を保ち、しっかり狙いを定め確実に撃ち抜く。慌てる必要は一切ない。近寄らせず、かつ牽制する前衛が居るからだ。


「次は少し苦戦した二十階層の階層主だな」

「一度経験してるから大丈夫、と思いたいけど」

「油断はしません。ですが、もう少し落ち着いて対処します」

「肩に力を入れ過ぎるなよ」


 重機関銃をセットし乱れ撃ち、なんてのは無駄でしかないから、きちんと関節を狙い撃つ。

 前回よりモンスターの動きを目で追える。一瞬の隙を突き銃撃を食らわせると、片っ端から捥げて飛び散る足だ。足が捥げると移動できなくなり、その場で藻掻くだけでモルテンに止めを刺される。

 動かなくなると魔石の回収をしておく。


 二十階層で休憩に入り水で喉を潤しておく。それと軽く食料を口にする。

 体力を回復させ気分転換も図ることで、二十一階層以降へ進む気力を得るわけだ。勢いだけで突き進んでも、大概は失敗し逃げ帰る羽目に陥る。

 デシリアが俺の隣に腰を下ろし「イグナーツが優秀になって来て暇だなあ」なんて言ってるし。


「周りが優秀だからできるんです」

「そうだけど、でもかなり慣れたよね」


 肩が触れそうな距離。なんかいつも思うけど距離が近い。そうなると意識するんだよ。

 勘違いからの惚れさせるテクニックだったりして。


「イグナーツもクッキー食べる?」

「じゃあ少しだけ」

「はい、元気出るよ」


 本当なら断りたかったけど、目の前に差し出してくるし、食えと言う圧が凄かったんだよね。

 水で流し込むと休憩終わり、と言うことで二十一階層へ進むことに。


 二十一階層からは俺にとって再びの未知の領域。

 一歩踏み出すと少し緊張感が増す。


「緊張しなくていいんだよ」

「いえ。ここで緩むと足を引っ張るので」

「良い心掛けだ。慢心せず進めよ」

「はい」


 デシリアは気楽に、と言うけど俺はまだまだ初心者。モルテンの言う通り、慢心せずが正しいと思う。

 ライフルの装弾数を確認して、しっかり構えたまま移動する。

 スタンディングだと撃つ際に外す可能性がまだ高い。だから射撃姿勢は撃つ際には必ずニーリングで。膝を突いた形で正確に撃ち抜く。モンスターの硬さも十五階層の主並みになるからだ。

 簡単には倒されてくれないらしい。


「来たぞ」


 モルテンが駆け出しアルヴィンが、壁際を走り接敵すると、二人に翻弄されるモンスターが居る。

 上の階より更に動きが良くなる二人だな。上の階だと手を抜いてたのか、と思う程に。


「イグナーツ。隙ができたと思ったら撃て」

「はい」


 ヴェイセルに言われニーリングの姿勢を取り、隙を窺っていると射線が通った気がした。


「撃ちます!」


 レバーを起こし装填し戻すとトリガーを引く。素早い動作で数回繰り返す。

 凡そだけど狙い通りに当たる。動きを封じるような攻撃を、モルテンとアルヴィンがするからだ。二人に助けられ四発で仕留めることができた。

 フレンドリーファイヤーも無く、無駄弾を撃つことも無く。


「なんか上達早いよね」

「そうだな。才能と言うか技能を授かったか?」


 感心するデシリアとヴェイセルが居るけど、技能を授かったとか、そんな感覚は一切無いから慣れだろうと思う。それと前衛が優秀すぎるんだよ。凄い助けられてる。

 この世界の神様は俺の存在なんて気にもしてないと思うし。所詮は他所からの流れ者だ。結局は自力で這い上がるしかない。


「モルテンさんとアルヴィンさんが凄いんです」

「それもあるが、銃の扱いが格段と良くなってる」

「謙遜しなくていいんだよ。上達してるから」

「そうね。最初の頃に比べると安定してる」


 ヴェイセルから見ても上達具合が早いと。デシリアは上手くなったと喜んでるし。ヘンリケも安定感が増してると見えるようで。

 ただ、まだ二十一階層は足を踏み入れたばかり。ここからが本番だと意識しておかないと。


「よし、先へ進むぞ」


 少し進むと急に振り返り銃を放つヴェイセルが居る。

 驚いたけど後方から迫るモンスターに気付き、咄嗟に喉を撃ち抜いたようだ。しかも拳銃で即座に三発放ち、それだけで倒してしまった。

 俺を見て涼しい顔をしながら「後ろも気遣えよ」と言われてしまう。


「あ、はい」

「前からだけじゃないからな」


 さすがは師匠だ。後ろにも目が付いてるのか、と思う程に反応が早かった。

 西部のガンマンの如く早撃ちもできるんだな。しかも正確に狙って。


「まだイグナーツには無理だよ」

「無理を承知で言ってる」

「厳しいなあ、ヴェイセルは」

「厳しさは必要だ」


 ヴェイセルには返す言葉も無いけど、デシリアは俺を甘やかしたいのか?

 消費した三発分を再び装填するヴェイセルだ。歩きながらでも余裕でできるみたいで。


「また来たぞ」


 今度は前から。

 さっきと同じく即座に射撃姿勢を取り、前衛が隙を作るのを待つ。


「撃ちます!」


 響く自分の声。その声で即座に射線を確保する二人。剥き出しの敵意を向けてくる人型のモンスターが居て、喉に連続して三発の銃弾を叩き込む。

 銃撃を食らうと後方に倒れ動かなくなった。


「師匠を超えたね」

「超えてないぞ」

「でも三発で倒したよ」

「俺なら二発で伸す」


 またデシリアとヴェイセルだし。褒めてくれるのは嬉しいけど、調子に乗るから帰ってからにして欲しいかも。

 こうして二十一階層も無事クリアできた。

 あまり順調に進み過ぎても怖いかもしれない。

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