050闇狐組
店長と家内を横目に、
「楓…闇狐組って、知ってるか?」
「う〜ん…噂ぐらいは知ってる」
「知ってるのか?!」
斗真は先程、2人組のスーツの男たちが家内に言っていた『闇狐組』という言葉に引っかかっていたようだ。
名前からして、妖怪に関係しそうな言葉である。
なので、一先ず楓に聞いてみると、楓は知っている様だ。
駄目元だったけど、知っていた。
「まぁ…知っていると言っても、長野市に、そういう裏組織があるって噂を知ってるだけで。詳しくは分からないかな」
「長野市か」
長野市は、言わずもがな長野県の県庁所在地である。
斗真たちが住んでいる隗隗街より、ずっと都会の街。
そんなところに、裏組織なんているものがあるのか?
漫画だけの話だと思っていたけど。
「本当に、ただの噂なんだけど…長野市の何処かに『闇狐組』ていう裏組織の本部があって、何か悪さをしているとか、していないとか」
楓が語ったのは、都市伝説レベルの曖昧なものだ。
「それが本当だとして、長野市に本部を構える『闇狐組』が、何で…この隗隗街の「たぬき喫茶店」に?」
「それは………当人に聞いてみないと」
楓は「たぬき喫茶店」の店長を見る。
確かに、これは当人である店長に聞くのは一番である。
『闇狐組』が何故ここを訪ねたのか。
例の件とは、何なのか。
いろいろ気になるところがある。
だけど、どう考えても、店長からしてみれば、センシティブな話題である。
聞くべきかどうか。
そう思っていたら、
「あの方たち…『闇狐組』という組織の方達が、始めに現れたのは、3カ月ほど前です。静子が、この背で働く1か月ほど前ぐらい」
店長自らが切り出してくれた。
「私も『闇狐組』に関しては、殆ど噂程度でしか聞いたことがありませんでした。しかし…ここのところ、『闇狐組』を名乗る方たちが、ここ隗隗街に来ているのです。私も、この街には何人か知人がいるので、彼らのことは少し前から聞きました。まさか、そんな彼らが、私の店に来るとは。彼らはある要求をしてきました」
ここで、店長は一息つく。
「彼らが私に要求してきたことは、一つ。この店を明け渡す事。多額の金銭と引き換えに、この店を明け渡して欲しいと言ってきたのです」
「もしかして、それが…例の件って奴ですか?」
斗真が質問すると、店長は頷く。
なるほど、店を明け渡せという要求。
それは、店長が渋るのは当然。
「はい。おっしゃる通りです。勿論、断りました。そうしたら後日、また彼らは現れました。今度は、店を明け渡す際の金銭をさらに上乗せして。上乗せしてきただけでなく、自分たちの要求に応じなかったら、どうなるか分かるよな…と、明確な脅しもかけて」
店長は困った顔になる。
「それから、かなりの頻度と言う訳ではありませんが、それなりの頻度で、彼らは店を訪れては、多額の金銭と引き換えに、店を明け渡すように要求してきたのです。彼らは店に来るたびに、他に来店しているお客様に威嚇をしたり、店のものを地面に落としたりと、迷惑行為をしており。元々、客数が少ない私の店に、より一層お客が寄り付かなくなりました」
「本当に、アイツら迷惑。営業妨害じゃん」
家内が口をへの字にして、嫌味を言う。
「この前…1週間前は、最後通告だと、言ってました。今度来るときに、返答が出来ないようなら、酷い目に逢うかもしれないぞ…と」
「それは災難だニャ」
五月が同情する。
普通に考えたら、ただの脅し何だろうけど。
あの背が高くて、スーツ姿はなかなか威圧感のある。
普通の脅しでも、よれなりに効果がある。
「本当に、ごめんなさい。まさか、私が薦めた日に、彼らが来るなんて。みんなには、嫌な思いをさせてしまったわ」
改めて、家内が斗真たちに謝罪する。
元々は、週末にどこか落ち着いた場所で勉強をしたいという話を家内が聞いたために、バイト先である喫茶店を薦めたことが始まりである。
「家内さん、本当に気にしないで良いよ。私達、怪我を負った訳じゃないし」
楓は全く気にしないと改めて言う。
「でも、ああ言う奴らが出入りしているなら、事前に教えて欲しかったニャ」
「うっ………ご、ごめんなさい」
五月の突っ込みに、平謝りの家内。
「それはそうと、何で『闇狐組』は、「たぬき喫茶店」を明け渡すように要求してきたのかな?何か目的が?」
斗真は『闇狐組』の目的を考える。
失礼ながら、田舎町の隗隗街…しかも、こんな路地裏の喫茶店を得ても、余り特は無いと思うけど。
「勢力拡大かニャ?」
五月が思いついたことを言う。
意表を突かれたように、みんな五月を見る。
「漫画で見たことがある。ギャングとか、裏組織って、自分の陣地を広げようとするとあったようなニャ」
「陣地を広げる。なるほど」
楓は納得する。
確かに、裏組織なら、勢力を拡大するために、本拠地の街を離れて、田舎町の路地裏の店を欲しがるのも理解できる。
だからこその「たぬき喫茶店」だったのか。
「彼らって、また来ますよね?」
斗真の確認に、店長は難しそうな顔をする。
「恐らくは…………下手をすれば、明日にも、また来ると思います」
「明日……」
それは、また急だ。
また彼らが来たら、面倒な事になりそう。
と言うか、なるだろう。
斗真的には、店長や家内のことは放って置きたくない。
そう考えていたら、ポン。
肩に綺麗な手を置く者がいた。
楓である。
「斗真、まだ勉強が残ってるから、明日もここで、残りの勉強をしよう?」
店長や家内にも、聞こえる声量で言う。
彼女がこう言った意味は明白である。
「良いのか?」
「うん。このまま、何もしないのも目覚め悪いし。五月はどうする?」
「え?へ?わ、私ニャ?………も、勿論、明日もここで勉強するニャ!」
五月は半端やけくそ気味に言う。
「みんな…ありがとう」
家内は、ただ感謝するばかりであった。
そして、明日になって。
チリンチリン。
喫茶店の扉の鈴が鳴る。
入ってきたのは、
「おい、店長!」
「今日こそは、答えてくれんだろうな!」
昨日の2人である。
昨日と同じように、2人共スーツを着て、片方は銀の指輪、もう片方は金の指輪を嵌めている。
2人を店内を見渡して、
「ああ」
「お前ら、昨日の」
昨日も店にいた斗真たちがいることに気づく。
とうの斗真たちは関係ないと言わんばかりに、横を見ている。
店長が代表して、2人の前に来て、答える。
「例の件ですが…………申し訳ございません。お受けできません」
店長は誠心誠意、謝罪の意を込めて、頭を下げる。
それを受けて、2人は、
「な、な、何だと」
「こ、コイツ」
明らかに動揺する。
断られるとは思わなかったのだろう。
暫く、動揺していた2人であったが、
「こうなったら」
「あれだな」
2人の顔に、覚悟の色が浮かぶ。
まさか、実力行使でもするのか。
身構える斗真たちに対して、2人の内の1人が懐を漁る。
何を出す気だ!
バン!
懐から出した物をテーブルの上に置く。
それは傍目には、数十枚のカードに見える。
「妖札による「番合わせ」で勝負だ!」
そう言ってきた。
これは………遊戯?




