049妖怪喫茶店③
「ふぅ…」
「どっこらしょ」
新しく入ってきた2人は、スーツに身を包み、狐のような顔付きであることを共通点としている。
違いがあるとすれば、人差し指に一方は銀色の指輪、もう一方は金色の指輪をしていることだ。
彼らは斗真たちが座るテーブルでは無く、店のカウンターに座る。
ちょうど、店長がいる前である。
ふと…店長を見ると、
「………」
店長は静かに作業をしているが、僅かな雰囲気の変化で、2人を警戒しているのが何となく分かる。
それは家内もである。
あの2人に何かあるのか?
斗真が、そう思っていると、2人は素早く飲み物を頼む。
「おい、コーヒーを一杯」
「俺も」
それぞれコーヒーを頼み出す。
「……はい」
店長は静かに了承。
早速、斗真たちにコーヒーを出した時と同じようにコーヒー豆を取り出し、コーヒーミルに入れ、ハンドルを回し始める。
ガリガリ…と、コーヒー豆を擦り潰す音を聞きながら、
「なーんか…あの人たち感じ悪いニャ」
五月は小さい声で斗真と楓に言う。
「五月…余り、人に対して、感じ悪いと言うは良くないよ」
「そ、そうだけど」
楓は五月に注意しつつも、2人組が感じが悪いことは否定しない。
暫く、斗真たちは横目で2人を見ていると、2人の前にコーヒーが出される。
2人はコーヒーを持ち、それぞれ一杯啜る。
すると、
「にっが」
「渋いコーヒーだな」
呆れた溜息を吐きながら、批評を言う。
2人には、店長のコーヒーが口に合わなかったようだ。
「申し訳ございません」
店長は謝罪するのみ。
一口飲んだきり、2人はコーヒーカップをカウンターの上に置き、二口目を口にしなかった。
あの2人…コーヒーを飲みに、この喫茶店に来たとは思えないな。
斗真が2人に、そんなことを思っていると、
「それで店長……”例の件”はどうなってるんだ?」
2人の内の1人…銀の指輪をしている男が、そう聞いてくる。
例の件?何だろう。
聞かれた店長は眉根を寄せる。
「例の件ですか?」
「そうだ。勿論、受けてくれるよな?」
今度は金の指輪を嵌めている男が、姿勢を前屈みにして、顔を店長に近づけさせる。
ただでさえ、人相が悪いのに。
凄んだことで、一層人相が悪くなっている。
「その…ここには、お客様もいるので……受けるかどうかを答えるのは」
店長がチラリと斗真たちを見る。
「ああん」
銀の指輪を嵌めた男が、首を回して、ギロリと斗真たちを見る。
目つきが鋭い。
五月が怖がって、楓の服の裾を掴んでいる。
「へ!こんな閑散とした店に、まだ来客する奴らがいたとはな。物好きなもんだ」
金色の指輪を嵌めた男が鼻を鳴らして、馬鹿にする。
どう考えても、斗真たちのことである。
2人の男たちは視線を店長に戻し、改めて威圧的な口調と顔つきで問い詰める。
「例の件ですが、あと少し待ってくれないでしょうか?なかなか決心が出来なくて」
店長が渋々答える。
2人の男は腕を組んで、ニヤニヤと笑う。
「あと少し?そりゃあ、前回も同じことを言ってたような」
「早く決心した方が良いぜ。俺達も、そう寛大な訳じゃねぇ。必要とあれば…実力行使も止む負えな………」
「お客様」
2人の話を遮る者がいた。
家内である。
彼女は凄んだ様子で、2人を睨むつける。
「あ」
「なんだ?お前」
「折角、店長が入れたコーヒーが冷めてしまいます。これ以上、飲む気が無いのなら、お帰り下さい」
「し、静子?!」
勇敢なのか、無謀なのか。
家内は臆することなく、言い切る。
家内の発言に、店長は仰天である。
当然、話を遮られた2人は不機嫌な顔で家内を見る。
そして、カウンター席から立ち上がり、家内を見下ろす。
女子であることを考慮しても、低い身長の家内に対して、背の高いスーツの2人組。
傍目から見ても、子供と大人ほどの大きさの違いである。
「えらい、言うなぁ。お嬢ちゃん」
「俺らが『闇狐組』だと、分かっての発言だろうな」
2人の大人からの高圧的な言い回しに、家内は無意識なのか、少し後退る。
額には、うっすらと汗が浮かんでいる。
怖がっているのが見て取れる。
それにしても、『闇狐組』?
聞いたこと無い。
考えるに、どこかのヤクザグループの組織名?
キツネ顔の2人には、お似合いの組織である。
………って、そんなことを考えてる場合じゃない。
斗真は立ち上がる。
このままでは、家内が不味い。
そう思った時、
「すみません」
スッ……。
緋色のショートヘアの女子が家内の前に出る。
「え?柊さん?」
家内が驚く。
言わずもがな、前に出たのは楓であった。
楓は背中に、家内を隠すように立っている。
「私の友達が怖がってます。家内さんに詰め寄らないで下さい」
明確な意思を持った銀色の瞳で、言い切る。
楓の顔に恐れなんて微塵も無い。
「てめぇ」
「良い度胸だ」
今度は楓に詰め寄る2人組。
「………」
「フニャア!」
そこに、斗真が楓の隣に立って、威圧するように無言で2人を睨む。
さらに、楓の服の裾を掴みながらも、五月が猫の威圧時の泣き声みたいな声を出して、2人を睨む。
膠着状態が続く両者だが、
「も、も、申し訳ございません!!」
店長の土下座で、両者の緊張状態が途切れる。
「従業員がとんだ無礼を!お代は結構ですので、なにとぞ…ご容赦を!!」
店長の精一杯の謝罪をする。
それに、2人は怒りが少し静まったのか、舌打ちをしつつ、斗真たちから距離を取る。
「しょうがねぇ。今日は勘弁してやる」
「だが例の件は、必ず返答させてもらうからな」
そう言って、2人はスーツを手で払い、店の扉に向かう。
ギロ。
一瞬だけだが、鋭い視線が斗真と楓に注がれる。
チリンチリン…と、鈴の音が鳴り、2人が店から出ていく。
たぬき喫茶店の中に、静寂が訪れる。
「はぁ…」
少しして、店長が膝から崩れ落ちる。
表情からは色が抜け落ちている。
よっぽど、さっきの2人の存在や家内の行動が答えたようだ。
「店長…………ごめんなさい。私が出しゃばったばかりに」
家内が申し訳なさそうに謝る。
それを受け、店長は怒ったりはしなかった。
苦笑いを浮かべ、立ち上がり、
「いや、静子はこの店のために言ってくれたんだよね?君のことなんて、怒れないよ」
家内を攻めるようなことはしなかった。
「ありがとう…柊さん、星原君、猫宮さん。助かった」
「皆さん、どうもありがとうございます。静子を庇ってくれて」
一方の家内と店長は腹部かと頭を下げる。
「気にしないで。友達だもの」
「と、友達かぁ…」
楓の輝かしい笑顔で言われた友達と言う単語に、家内は戸惑う。
戸惑ってはいるが、心なしか嬉しそうである。
ぶっちゃけ、家内と楓が明確に友達になった直接の経緯は無いはず。
楓があの2人に対して、家内は友達であると言ったのは、咄嗟の言葉なのだろう。
でも、楓には、そんなことはどうでも良いみたいだ。
既に楓にとって、家内は友達みたいだ。
「友達か………あの静子に友達か」
店長は、まるで子供を持った父親のように、家内に友達がいることに喜ぶ。
「て、店長」
「い、いて!」
静子は恥ずかしそうに、店長に軽い蹴りを入れる。
蹴り自体は、とても軽いので、見た目ほど店長は痛がっていない。
何か………店長、キャラ変わった?
始めは、寡黙な店長キャラと思ったけど。
もしかして、これが店長の本来のキャラかな。




