005妖怪学校一の美少女
後書きに、斗真の高校の簡潔な説明を載せています。
妖怪…それは妖怪は恐怖の象徴。
日本に伝わる神話や民間信仰などに置いて、人の理解を超える奇怪な現象や奇妙な出来事を、不可思議な力で引き起こす魔物と呼ばれるものである。
科学がまだ発達していなかった日本では、次々に起こる不運な事故や異常気象、疫病などが妖怪によって起こされたものと考えられてきた。
今では、妖怪がいろいろな本やゲームなどの中で登場したりなど、恐ろしい存在の物から親しみのある物へと変わっている。
斗真が小学生の頃に見ていたアニメも様々な妖怪が出てきていた。
フィクションであるからこそ、面白かったのだ。
しかし、そんなフィクションであるはずの妖怪が実在して、斗真の目の前にいる。
まさか、学校一の美少女が妖怪であり、しかも『鬼族』だったとは。
その事実に対して、斗真は驚愕の余り、空いた口が塞がらなかった…………なんて事も無く、
「そう……なんだ。柊さんって、妖怪なんだね。へぇ~…妖怪って、本当にいるんだね」
「なっ?!の、呑み込みが早い?!」
呑み込みの早さに、柊は驚く。
確かに、目の前の学校一の美少女が妖怪だったなんて事実…異世界に行く前の斗真なら目が飛び出る程、驚いていただろう。
けれど、伊達に斗真も異世界で五年間も過ごしていない。
異世界には、魔力や魔法、魔族など、元の世界ではフィクションとして扱われるもので満ちていた。
そもそも、異世界自体がフィクションだが。
異世界という物がある。
だから、元の世界に妖怪がいても、目の前の少女が”鬼”であっても、別に不思議では無かった。
「『鬼族』って言うけど、柊さんが戦ってた緑鬼とは違うんだね」
「む……あんな、ただの化け物とは一緒にしないで」
柊は顔を膨らませ、納得できない顔をする。
妖獣である緑鬼と同等に思われて、不快なようだ。
緑鬼は初めて見た時、小さい角を生やして、金棒を持っており、知性が多少あったように感じた。
だが、柊とは何かが違う。
何というか、同じ鬼でも、柊は格が違うというか。
斗真は改めて、角を生やした柊を見る。
「妖怪がこんな近くにいるなんて、気づかなかった。しかも、俺のクラスに」
「大抵の妖怪は森や山の奥にいるよ。最近は、私みたいに街に出る妖怪も増えてきているけど」
人里離れた場所にいるのは、斗真が持つ妖怪のイメージ通りだ。
けれど、斗真には疑問があった。
「よく妖怪や妖獣の存在がバレないね」
どのような原理かは分からないが、柊は鬼の角を持ちながら、それを隠すことが出来ている。
それに対し、ゴブリンに似た緑鬼はガッツリ魔物同然の姿で現れた。
スマホなど、通信機器が復旧している現代では、あんな緑鬼がいて騒ぎにならないはずがない。
「妖人みたいに、妖気を持っていない普通の人に、基本的に妖怪や妖獣を見ることは出来ないの。スマホとかの電子機器にも映らないし。星原君みたいな妖人自体、日本には殆どいないから」
なるほど、妖怪は斗真みたいな魔力を持っている人、つまり妖人以外見らないのか。
その妖人も極稀にしか、日本にはいないと。
「それに人前に出る妖怪は必ず、私が持っているような「姿化かし」を付けてる。これを付けていれば、人に化けることが出来て、普通の人でも妖怪を見れるの」
柊は持っている小指の先よりも小さい白い球が付いたイヤリングを持って、そう言った。
そのイヤリングが「姿化かし」の道具と言う訳か。
「最近、街に出る妖怪が増えてるっていうけど、柊さんの他に妖怪がいるの?」
斗真は興味本位で聞いてみた。
柊の答えはシンプルだった。
「この街にたくさんいる」
「ん?」
「もっと言うと、私達の高校」
「へ?」
斗真の思考が停止する。
私達の高校…それは斗真の高校でもある。
柊は気づいたような顔を取る。
「そうね…星原君は知らないのね」
そうして、柊は斗真の高校に付いて、衝撃の事実を言い出す。
「私達が通っている”隗隗高校”は、元々…妖怪が通うための高校なのよ」
「なっ?!」
柊が妖怪だった事以上の衝撃事実だった。
流石に、斗真は大きく口を開け、驚く。
妖怪が通い学校…そんなアニメにしか登場しないような場所があったとは。
それも自身の高校。
「じゃ、じゃあ!俺の高校って、妖怪があちこちにいるの?!」
「そこまで多いという訳ではないけれど、だいたい生徒の4、5人に1人が妖怪ね」
「4、5人に1人!」
斗真の高校のクラスには、30人以上いる。
と言うことは、クラスに5、6人は妖怪がいることになる。
一年生のクラスが5つ、二年生と三年生を含めれば、全生徒数は100程いる。
まさかの妖怪の巣窟だった。
「人との生活を懇願している妖怪もいるの。そういう妖怪のために、隗隗高校の初代校長は、私達の学校を建てたという事」
「…………知らなかった」
「妖怪しか知らない事だからね」
知られざる我が高校の歴史。
柊楓は学校一の美少女では無く、妖怪学校一の美少女だったのだ。
「具体的に、どんな妖怪がいるの?」
「さぁ、分からない」
柊は知らないという。
斗真は意外だった。
「え?それは分からないんだ。同じ妖怪なのに」
「高校に入学して、まだ一か月よ。私だって、誰がどういった妖怪かは全員把握してない。そもそも、隗隗高校に入学する妖怪は全国から来ているのよ。私の高校、妖怪の間だと有名だから」
斗真の高校が日本全国の妖怪が集結しているのを…しれっと、言う柊。
「妖怪の中には、素性を隠したい妖怪だっているし、妖怪じゃない普通の人もいる学校で、態々自分が妖怪だっていう人はいないよ」
「それもそうか」
斗真は納得する。
それにしても、これから高校に通う時はどんな顔して通えばいいのか。
いつも通りの顔で。
いや、無理だ。
自分の高校にたくさんの妖怪がいると知った以上、誰が妖怪なのか勘ぐってしまう。
次の日も高校の授業がある。
明日が大変だ。
斗真が心の中で頭を抱えていると、
プルルルル…と、音が鳴る。
柊が懐に手を伸ばし、スマホを取り出す。
「あ!役所から連絡が来てる。そう言えば、妖獣を倒してから役所に連絡してなかった」
「役所に?」
役所なんて、街で暮らしている人でも、早々関わることのない場所だ。
首を傾げる斗真に、柊は胸に手を当てて言った。
「まだ星原君には言ってなかったね。私、『退魔士』なの」
「たいま…し」
「魔を退ける士…と書いて、退魔士。今日みたいに妖獣の退治、もしくは悪行を働く妖怪や妖人を取り締まる者のこと」
柊の顔は少し誇らしげだった。
退魔士と言うものに誇りを持っている様だ。
妖怪版の警察、もしくは異世界で言う勇者のようなものか。
斗真は何だか、妙な親近感が湧いてきた。
柊は立ち上がる。
「長居しちゃって、ごめんなさい。お茶、ありがとう。また、明日」
「あ…うん。また、明日」
斗真も入り口まで見送りしようと、立ち上がる。
そこで、柊は想いもよらない行動に出る。
ポン。
柊が両手を、斗真の両頬に置いたのだ。
「柊さん?」
斗真の声を無視して、柊は斗真の顔を手で包んだまま、斗真と眼を合わせて、見つめる。
柊の緋色の瞳に、斗真の顔が映る。
間近な柊の顔に、斗真は息を飲む。
妖怪学校一の美少女の美麗な容貌に、斗真は見とれてしまった。
「あ、あの…ひ、柊さん!」
斗真は声を大きくして、呼びかける。
「星原君って………」
柊は口を開く。
「前に何処かで会った?」
「えっと…それは…同じクラスで」
「ううん。もっと前。何だか、星原君はずっとずっと前から会っている様な気がするの」
柊は両手を離し、ハッとした表情をする。
頬を赤くさせる。
「わ、わ、私!何を言って?!」
慌てふためいた柊は急いで、家の入り口に向かう。
柊はドアを開けて、リビングにいる斗真に振り替える。
「と、兎に角!また、明日!」
そう言って、柊はドアを閉めていった。
「…………」
後に残った斗真は頬を触る。
まだ何となく、柊の綺麗で滑らかな指の感触が残っている。
そして、自身の頬が熱いことに気が付くのに、時間が掛かったのだ。
【隗隗高校】…斗真や柊が通う高校。
一般的には、普通の高校だが、その実…人との生活を懇願する妖怪を日本中から集める受け皿のような場所。
おおまかに、九割が普通の人間、一割が妖怪。
普通の人間は学校生徒の一割が妖怪など、知る由もない。
そして、隗隗高校に通う妖怪は全て「姿化かし」を身に着け、人に変身して、妖気を抑えている。
特に一年生は妖怪自身、お互い誰が妖怪かは殆ど把握できていない。
【退魔士】…妖獣の駆除、または問題行動を起こす妖怪や妖人の取り締まり。
時には退治することもある。
基本的に、役所の指令により行動する。