047妖怪喫茶店①
図書室で楓と勉強会をした翌日の土曜日。
2人は高校で合流した後、件の喫茶店に向かっていた。
「楽しみだニャ」
ついでに、五月も連れて。
3人とも、制服姿である。
楓が五月も連れて行こうと言い出したのだ。
五月が甘い物好きを考えてだろう。
「うん、私も楽しみ」
自身の腕に抱きつき、戯れつく五月を横目に、楓も楽しみなようだ。
今回、喫茶店に向かう理由は、楓自身が喫茶店に行ったことが無く、行ってみたいという興味があったからだ。
「でも、勉強はちょっとニャ」
勉強は嫌だと、ショボくれる。
勿論、喫茶店では、楓が俺の勉強をちょんと見てくれるようだ。
そして、ついでに五月の勉強も。
因みに、この前の小テストで楓が満点、斗真が平均点ほど、最も点数が低いのが、五月である。
「私がしっかり教えるから頑張って。終わったら、甘いもの食べよう」
「か、かえちん」
頭を撫でてくれる楓に対し、五月は目を輝かせて見上げる。
「それにしても、かえちんが向かう喫茶店…私が全然知らないところなんだよね。スマホのマップ見たけど、かなり入り組んだ場所にあるんだよね。普通、喫茶店は目立つ大通りにあるものだけど」
斗真、楓、五月はスマホのマップ機能に従い、目的の喫茶店へ向かう。
辿り着いた場所には、
「ここだよね?」
楓が確認する。
斗真と五月も無言で目の前の建物を見上げる。
その喫茶店「たぬき喫茶」は、ザ・老舗店。
マップの写真で年季の入った建物であると分かっていたが、実際見て見ると、壁の木目の古さが際立つ。
妖具店「ながつか」のように、明治時代に建てられていそうな雰囲気を持つ。
「取り敢えず、入るか」
先行で、斗真が入る。
こう言うのは勢いが大事だ。
斗真は古びた扉に手をかけ、開ける。
チリンチリン。
扉につけられた鈴が鳴る。
店の中に入った瞬間、木の匂いが鼻腔に入り込む。
それは決して嫌な匂いでは無い。
むしろ、安心させる樹木の匂いだ。
だけど、それよりも鼻をくすぐるのがコーヒー豆の匂い。
苦味や酸味、コク…黒い豆から放たれる香りが空間に漂っているのだ。
コーヒー好きな斗真には堪らない香りだ。
「中は綺麗ニャ」
五月の言う通り、店の中は、清掃が隅々まで行き届いた衛生面の非常に良い内装。
テーブルや椅子、カウンターなど汚れ一つなく、床は埃が全く見当たらない。
「いらっしゃい」
カウンターの奥に、グラスを磨く1人の男性。
40代ほどか、落ち着き気に挨拶する。
きっちり着こなしたタキシード。
蝶ネクタイが、よく似合う。
うん、言われなくても分かる。
あの人が店長だ。
「空いてるな」
店内は店長以外、誰もいなかった。
まぁ…その方が返って静かで、勉強しやすいのだけど。
斗真たちは、テーブルの一つに座る。
そして、メニュー表を見る。
そこには、勿論コーヒーの表示。
ストレートだけでなく、ブランド。
「あ!ケーキもある!」
五月が嬉しそうにする。
メニューには、甘い物もしっかり乗ってある。
「五月、それは勉強の後ね」
「う…べ、勉強ニャ」
「取り敢えず、飲み物を頼みましょう」
コト…。
斗真たちが座るテーブルに、三人分の水が運ばれる。
運んできたのは、
「家内さん」
「いらっしゃいませ」
水を運んできたのがウェイターの格好をした家内だと気づく斗真に、家内は頭を下げる。
「ふふ…本当に来てくれるなんて」
「家内さん、その格好…似合ってるね」
おかっぱ頭と大きな眼鏡には、ウェイターはミスマッチかと思いきや、意外と似合っていると、楓が褒める。
「本当に、家内さんが働いているニャ」
「猫宮さんも、いらっしゃいませ」
水を運び終えた家内は紙を取り出す。
注文を書くためだろう。
「おススメは何だろう?」
メニュー表にあるコーヒーの種類に、斗真が悩んでいると、
「おススメは、これ」
家内がスッと、メニュー表の一つを指差す。
それは店長の気まぐれブレンドコーヒーだった。
なるほど、気まぐれ系か。
「じゃあ、俺はそれで」
「うん、私も」
「ウチも」
「かしこまりました」
斗真たちは、店長の気まぐれブレンドコーヒーを頼む。
「店長、気まぐれ三人分」
「はいよ」
注文を受けた家内は早速、店長にコーヒーを入れて欲しいと頼む。
店長は小さい声で了承する。
店長は黙々と、コーヒー豆をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回し始める。
ガリガリ…と、音が聞こえる。
コーヒー豆を粉状にしているのだ。
コーヒーを待つ間に、持ってきた勉強道具をテーブルに広げる。
「うう…勉強」
勉強が苦手な五月は嫌そうな顔をする。
それでも嫌々ながら、勉強を始める。
勉強を始めて、10分ほど経つ。
「静子…コーヒー3杯を、お客様に」
「はい」
店長に言われ、家内はコーヒー3人分を斗真たちの元に運ぶ。
湯気の漂い黒い飲み物がテーブルに置かれる。
一旦、勉強を中断。
斗真はカップを持ち、顔に寄せて、匂いを嗅ぐ。
良い匂い。
ゴク…。
一口飲む。
「美味い」
一言零す。
本当に美味かった。
やや苦味が舌に残るが、コクが後を引く。
良いコーヒー豆を使っているのも去ることながら、作っている店長の腕も良いのだろう。
「うん、美味しい」
「よ、よく…斗真は砂糖なしで飲めるニャ?」
一方で、楓はコーヒーに砂糖とミルクを入れつつ、美味しく飲んでいる。
諸作も綺麗である。
でも、五月は砂糖とミルクを入れても、苦かったようだ。
というか、コーヒーが熱くて、飲みづらそうだ。
「猫舌なんだな」
「私は猫だニャ!」
「そう言えば、そうだった」
そう言えば、五月は猫又だった。
斗真たちは思い思いにコーヒーを飲む。
その様子を見ていた店長は、
「静子…私は厨房に行く」
「はい」
店長が厨房に行く。
残った家内はカウンターの上を黙々と拭き始める。
斗真たちはコーヒーを飲みながら、また勉強を再開する。
一方、奥の厨房では、
「よし!よし!よし!今日は午前から3人も!」
店長は大きくガッツポーズをして喜んでいた。
とても、さっきまでの静かな様子の店長とは思えない。
タキシードを着ながら、喜ぶ姿は、陽気な店長のイメージそのままである。
「しかも、私のコーヒーを美味しいと!生きてて良かった!」
斗真と楓が自身が作ったコーヒーを美味いといっていたことを、滅茶苦茶喜んでいた。




