046楓と勉強
「最近、妖獣出ないな」
「うん、それが一番良いんだけどね」
斗真は、ここ最近全く妖獣が出ないことを指摘する。
楓は呆れたように、妖獣は出ないに越したことは無いと言う。
「あれ?そもそも妖獣は俺みたいな妖人じゃない、普通の人には何か影響を与えるの?」
今更ながら、妖獣が異世界の魔物みたいに人に害を及ぼすのか気になった。
「殆どの妖獣は物理的な害は無いよ。精々、体調不良を起こさせたり、寝ている人に悪魔を見せるぐらい。でも、妖獣のそもそもの活動目的が、妖怪を襲って、妖気を食べることだから。特に、私みたいな鬼族は妖気を豊富に持っているから、妖獣からしたら格好のご飯に見える。……と言うか、妖獣なんて、出ないに越したことは無いの」
楓が妖獣について、説明する。
思い返せば、今まで戦ってきた泥田坊や大入道といった妖獣は、俺より鬼族である楓を優先して襲っていたような感じがした。
「そうか。………あ、楓。ここの問題、ちょっと分からないのだけど」
「どれ?………ああ、これね。これの解き方は……」
現在、5月の末。
斗真が異世界から帰ってきてから一ヶ月が経った。
ここは、高校の図書室。
2人は放課後、この図書室で勉強をしていた。
期末テストは6月の下旬だが、ここのところ勉強が疎かになりがちになっている。
なので、楓に頼み込み、勉強を手伝って貰っているのだ。
流石は勉学でも優秀と言われている楓。
説明が分かりやすい。
ノートも綺麗であり、斗真が理解できるように隣に座り、できる限り丁寧に説明する。
因みに、未だに、雫と優香からの手紙は来ない。
超マイペースな優香はともかく、超真面目な雫が手紙を忘れることはない。
やっぱり雫がいる北海道で何かあったのか?
「ここ、間違ってる」
「あ、悪い……ところでさ、楓…北海道って、何かある?」
「急に、どうしたの?手…止まってるけど」
「ご、ごめん」
謝りつつも、斗真は聞いてみる。
「えっと…北海道に知り合いがいるんだけど、ちょっと気になって。何か強力な妖獣や妖怪とかが出たって情報ない?」
「北海道……特に、そういう報告は受けてないけど」
「そっか……何もないなら良いんだけど」
やっぱり一度、安否を確かめるために、北海道に行ってみるべきか。
いや…今は退魔士の役目と、高校の勉強に集中しよう。
雫は優秀だ。
何かあったとしても、彼女なら大丈夫だろう。
既に携帯で連絡先を交換している仁とは、ほぼ毎日メッセージを交換し合っている。
まだ、監視対象中だが、メッセージから充実した高校生活を送っているようだ。
「北海道か……」
楓が意味深に、北海道を言う。
「北海道がどうかした?」
「北海道には、知り合いというか…私の知り合いの親がいるの」
「知り合い?」
「小冬のこと。斗真は前に会ったことあるでしょ?ナガさんがいる妖具店にいる女の子。髪色が色で、目の色が水色の」
「ああ!あの子か」
斗真は思い出す。
退魔士になった後、楓は斗真にピッタリの妖具を探すために、妖具店「ながつか」に行って、そこで雪のような小学生ほどの女の子に会った。
楓曰く、過去に色々あって、他者と関わるのを恐れているとか。
「小冬は以前、母親と共に故郷の北海道にいたの。でも…訳あって、小冬はこっちで引き取ることになった」
「訳あってか」
「詳しいことは省くけど、小冬のお母さんは…その……無害な人に危害を加えたの」
「危害を?それは、ただ事じゃないな」
「うん。だから、小冬のお母さんは今、北海道にある退魔士協会支部で拘束…というか、封印されてる」
「そうか…だから、こっちで引き取るわけになったのか」
「そうなの。でも、小冬を故郷の北海道から、こっちの長野に連れてくる時は大変だったな。小冬が思いのほか、泣いちゃって」
楓は困った感じの顔で言う。
大した事ないみたいなニュアンスで言っているが、多分結構大変だったんだろうな。
中々の訳ありだな。
小冬という子に初めて会った時、何か心の距離を感じたが、そんな事が。
あの子からは、他者への警戒と拒絶が伺えた。
母親が封印され、遠く離れた場所に連れて来られれば、そう言う反応を取るのも当然だな。
キーンコーンカーンコーン。
その時、学校のチャイムが鳴る。
これは放課後終了を終える音だ。
「放課後終わっちゃった。まだ斗真の勉強、まだ残ってる」
「ご、ごめんなさい」
「まぁ…元はと言えば、私が長話しちゃったんだけど。どうしよう…明日から週末。斗真は失礼だけど、週末家で勉強するタイプじゃない」
「はい…おっしゃる通りです」
否定のしようがないので、斗真は肯定するだけ。
楓は少し考え込んで、何か思いつく。
「そうだ!週末は、何処か勉強できる場所で、教えようかしら」
「勉強できる場所?」
高校は週末には、基本的に閉まっている。
ならば、別の場所がいいだろう。
「うん、喫茶店とか」
楓が提案する。
喫茶店…なるほど、確かに喫茶店なら静かであり、勉強には、うってつけである。
喫茶店には、コーヒーや甘い物もあるだろうし、少しの休憩にもなる。
「珍しいね」
斗真は意外な顔で、楓を見る。
「何が?」
「楓が喫茶店なんて。てっきり、高校から近い公共図書館とか行くもんだと」
言われた楓は得意げな顔になる。
「一回行ってみたかったんだよね、喫茶店。甘いもの巡りしてる五月の話だと、喫茶店は自分の時間を楽しめる空間らしいから」
「それ…俺の勉強は二の次で。楓が単に喫茶店に行きたいだけじゃ」
「あ……バレちゃった?」
楓は可笑しそう笑う。
学校一の美少女と呼ばれる柊楓には、こんな一面があったとは。
「でも、俺…余り喫茶店とか知らないよ」
「うーん…私も五月から、いくつかオススメの喫茶店を聞いたけど」
楓が五月経由の情報をピックアップしようとした時、
「あの………」
「「うわ?!」」
最後からの一言で、斗真も楓も、大きな声をあげてビックリする。
そこには、1人の女子生徒。
女子であることを考慮しても、小さい身長。
おかっぱ頭に、大きな丸い眼鏡。
「家内さん」
楓が女子生徒の名を呼ぶ。
家内静子。
この図書室の図書委員であり、クラスでも休み時間に大抵本を読んで静かにしているなど、失礼ながら斗真に負けず劣らず隠キャをしている。
この前も図書室から妖怪関連の本を借りるときに、同じ図書室内にいたと遅れて気づくほど、家内の存在感のなさ。
「もう閉館です」
家内は静かに端的に言う。
もう放課後も終わり、図書室を閉めるのに、いつまで喋っているのかといった感じである。
「あ!ご、ごめんなさい!」
楓は慌てながらも謝る。
斗真も、すぐにテーブルの上の勉強道具を片付け、帰る準備をする。
喫茶店の話は、帰りながらでも出来る。
斗真と楓が帰ろうとするところで、
「2人とも、さっき喫茶店の話してたよね?」
そんなことを言ってきた。
楓は目を見開く。
「そ、そうね…週末、喫茶店で勉強しようかと」
「じゃあ、ウチの店はどう?」
「ウチの店?」
首を傾げる斗真に、家内はポケットからスマホを取り出し、少し操作した後、画面を斗真と楓に見せる。
それはスマホのマップが開かれており、ある場所がポイントされていた。
そこは、高校から少し歩いた先の路地裏の場所。
「たぬき喫茶」…ポイントされた場所には、そう書いてあった。
見たところ喫茶店みたいだ。
「ここ…私のバイト先。是非どうかなと思って」
どうやら、家内がバイトで働いている喫茶店を紹介しているみたいだ。
早速、斗真もスマホでマップで検索をかけてみる。
「たぬき喫茶」という特徴的な名前なので、すぐに見つかった。
マップと共に、表示された写真を見ると、結構年季の入った店っぽい。
「あ、ありがとう。ぜ、是非寄らせてもらうわ」
それを聞いて、家内は満足そうに頷く。
斗真、楓、家内は図書室を後にする。
突然の家内の申し出に、斗真と楓は意表を突かれたが、特に週末に行く喫茶店に拘りが無いので、折角なので、家内のバイト先の喫茶店に行くことに決定した。




