044メンテナンス
「ねぇ、斗真。今日は妖具のメンテナンスをしようと思うんだけど」
「メンテナンス?」
高候の授業が終わり、放課後になって特に予定の無い斗真は下校する。
下校している最中に、楓が話しかける。
「ほら…今、斗真が長子さんから借りてる『花咲の弓』。あれの手入れをしようと思って。私も、いつも使ってる『飛翔下駄』の手入れもしたいから」
そう言って、楓はバックから、いつも妖獣との戦いで使っている黒い草履を出して見せる。
「ああ…なるほど」
斗真が退魔士になって、妖具店から『花咲の弓』という妖具を借りている。
妖具は妖気を纏った武器と言うことで、普通の武器ではない。
『花咲の弓』の能力は、弓を握って頭に思いえがいた花を咲かせるという戦闘ではあまり役に立たないもの。
とはいえ異世界では、斗真は弓を武器としていたので、弓としての性能があれば、十分なのだ。
実際、『花咲の弓』は弓として、大きに活躍している。
でも、考えてみれば、武器と言う観点からメンテンナンスは必要である。
退魔士になってから、いろいろと使ったが、先日の鵺でも、少し使った。
その時は問題なく使え、何処か壊れていそうな箇所は無いと思うが、一応メンテナンスには出した方が良いな。
「分かった。メンテナンスに出しに行こう。俺の妖具は家にあるから、取り敢えず家に戻ってから、ナガさんの妖具店に行こう」
そうして、斗真と楓が妖具について話している時、
「なに!なに!かえちん!何処か行くのニャア?」
「わっ?!五月!」
斗真と楓が妖具店のある商店街に行こうとしたとき、後ろから五月が抱き着いてきた。
楓にじゃれる姿は、まるで猫。
と言うか、本当に猫だが。
五月は、耳に着けた装着式のピアスである「姿化かし」で人間の姿になっているが、本来は猫又という妖怪。
抱き着いてきた五月に対して、楓は満更でもない様子で、返答する。
「今から妖具店に行って、借りてる妖具をメンテナンスに出そうとしてたとこだよ」
「妖具店?…………ああ!前に言ってた商店街にある妖具店だニャア。私も一回言ってみたいニャア!」
「え?何か五月の好きなものがある訳じゃないよ。まぁ…別に構わないけど」
こうして、斗真、楓、五月の3人は一旦、斗真の家に行き、『花咲の弓』を回収してから、商店街に向かった。
「ここが、その妖具店かニャア?」
五月は目の前にある老舗の店を見て、何度か頷く。
目の前の店の扉の上にある大きな板目の看板には、「ながつか」と書いてある。
ここが妖具店である。
商店街の外れにある知る人ぞ知る名店のような立地であり、店自体は本来、駄菓子屋をやっている。
この店の地下に、さまざまな妖具が保管されているのだ。
楓が扉を開ける。
「ナガさん!」
楓が店の女将である長塚長子…通称ナガさんを呼ぶ。
けれど、返事は無かった。
何処か用事に行っているのか。
と思っていたら、
「はい。はい」
店の奥から、女性の声が聞こえる。
この声、ナガさんのものじゃない。
誰だろう?
そう思っていると、店の奥から一人の女性が現れる。
女性は手に箒を持っていた。
「…………え?あれは」
女性を見た瞬間、五月が凍り付いたように固まる。
その女性は、赤いコートに、赤いブーツを履いた成人した女性であった。
女性にしては高身長であり、顔の半分以上を大きなマスクで隠していた。
だけど、斗真も楓も、その女性に見覚えがあった。
「………あら?貴方たちは」
対する女性も、斗真たちに見覚えがあった。
女性は徐々に、斗真たちに近づく。
「……く……く…く」
五月が喉から細い声を漏れ出させる。
「口裂け女だニャア??!!」
そして、叫ぶ。
五月は恐怖から、尻もちを付く。
「久しぶりに会ったわね」
当人である口裂け女は、穏やかな様子だった。
店の奥から出てきた口裂け女は、以前五月を襲ったことのある口裂け女だった。
斗真がいる隗隗街では、一部の妖怪が街で仕事をしているのだ。
口裂け女も人間のフリをして会社で働いていたが、その会社はブラックであり、なおかつリストラにもあったストレスから、五月を軽く襲ったのだ。
最終的には、斗真が『花咲の弓』で咲かせた花を見せて、落ち着かせた。
「どうかしたのかしら?何か、凄い悲鳴が聞こえたけど………斗真君に、楓ちゃん」
その時、口裂け女が出てきた店の奥から、首を文字通り長く伸ばした、ろくろ首のナガさんが顔を出してきた。
「こんにちわ、ナガさん。あの…この人は」
楓が、どうして口裂け女が、ここに居るのか尋ねる。
「ああ…咲ちゃんね。うちで働いているのよ」
「働いてる?」
「そうよ。会社で首になったから、私が雑用として雇ったの。咲ちゃん、こう見えても運動神経良いのよね」
ナガさんが口裂け女…咲を褒める。
言われている咲は、黙々と床を箒で掃除していた。
確かに、口裂け女は、自分が綺麗なかどうか応えるまで、何処までも追いかける都市伝説があるが、それと関係して運動神経が良いと言う事か。
「今日は、どうしたの?」
「借りてた妖具のメンテナンスに来ました」
「あら、そうなの。じゃあ、もう少し待ってて。今…お菓子を作ってる最中だから」
この妖具店は、表向きとしての駄菓子屋をやっている。
恐らく店に出す和菓子を厨房で作っているのだろう。
少しの間だけ、斗真たちは待つことにする。
そこへ、床を掃除していた咲がやってくる。
「ねぇ」
「は、はい?!」
咲が五月に話しかける。
五月は身構える。
「私って、綺麗?」
「へ?」
突然聞かれ、五月は動揺する。
それでも、
「き、き、綺麗ですニャア!」
叫びながら答える。
「へぇ…これでも」
咲は口元の大きなマスクを取り外す。
そこには、耳まで裂けた口があった。
「は、は、はいいぃぃ!!綺麗です!口が裂けてても綺麗です!!」
「誰が……口が裂けているって?」
「ひ、ひいぃ?!」
五月は震えながら、楓の後ろに隠れる。
「ふふ…冗談よ」
それを見て、咲は笑うのだった。




