043図書室
仁が京都に帰った、その日…斗真は高校への道を歩いていた。
そこで、
「斗真!」
楓と偶然出くわす。
「楓、おはよう」
「うん、おはよう」
斗真と楓は互いに隣同士で歩き合い、挨拶を交わす。
「昨日は助かったよ」
「助かった?」
「鵺のこと。斗真と、斗真の友達の仁に助けられたね」
「ああ、気にするな。俺たちは退魔士だし」
二人共、何気ない会話をする。
でも、会話は自然と異世界の話に移る。
「斗真が話してくれた異世界の話、信じきれなくて…ごめんね」
「良いよ。あんな話…普通は一瞬で信じる方がどうかしてる」
歩きながら、楓は上を見る。
「でも、根拠はないんだけど。何となく、斗真の話は本当の様な気がするんだ」
「根拠は無く、何となく?」
「そう……凄く偶に、本当に偶になんだけど、私…別の世界の夢を見るんだ」
「別の世界の夢……」
「夢だから、目が覚めると、徐々に記憶が薄れるんだけど。その夢の内容は、昨日…斗真から聞いた異世界の話に近いの。魔法や魔物がある世界。まるで、私の前世が異世界の住民だったみたいな。そんな夢」
前世…斗真は楓を見るが、彼女は未だに上を見えいた。
だが、楓はその後…可笑しそうに笑い、斗真を見る。
「何てね。前世も、異世界と同じ突拍子も無い話だよね」
そうして、楓と共に話している内に、高校の前に着いた。
「ねぇ…ちょっと気になったんだけどさ」
「ん?どうした、楓」
「昨日の異世界の話で出てきた王女様のこと何だけど」
「王女様……ああ、俺達を異世界に召喚した人か!その王女様がどうしたの?」
楓は意を決したような顔で聞く。
「斗真は、その王女様が好きなの?」
「……………………へ?」
斗真は素っ頓狂な顔をする。
何をどう返して良いか、瞬時に分からなかった。
楓は無表情で尋ねる。
「何か……昨日の異世界の話で、斗真が王女様について話すときだけ…………なんかさぁ、言葉とか…表情とか…が柔らかいと言うか。異世界では、斗真と王女様は親しい関係なんじゃないかなぁ…て」
楓の口調と言葉、そして、まるで犯人を問い詰めるかのような顔。
斗真は頬を掻き、明後日の方向を見る。
楓から見ると、斗真の頬は少し染まっていたことが見て取れただろう。
「す、好きと言うか………し、親しくは……あ、あったかな。そ、その…俺って、異世界だと、仁とかに俺…比べて弱かったから。王女様のサポートが必要だったんだ」
「?……斗真は強いと思うけど」
「異世界に召喚された時は、剣とか駄目駄目で。弓の才能が俺に、あるんじゃないかと言ったのが、王女様なんだ」
王女様であるティアナのことを言っている内に、斗真も無意識に言葉が出てくる。
それぐらい、斗真とティアナとの間には、異世界では絆があったのだ。
「へぇ………」
でも、楓の目が鋭くなるのを感じる。
顔全体も、何か険しい。
一体どうしたのか?
その後、斗真と楓は教室に行く。
「あれ?かえちん、何か不機嫌じゃないニャア?」
「気のせいよ」
「そうかなぁ」
少し前にあった口裂け女の事件の関係で、楓と友達になった猫又の五月が楓を見て、首を傾げる。
確かに、今日の楓は何故か不機嫌であった。
その日の放課後。
斗真は高校の図書室にいた。
中に入ると、本特有の髪の匂いがした。
図書室の大きさは、普通の教室を3個分繋げたぐらいの広めの大きさ。
所狭しに、本が詰め込まれた本棚が置いてある。
斗真が、この図書室に来るのは、高校に入学して、オリエンテーションを除けば初めてである。
斗真には、特に本を読むと言う趣味が無かったので、本を借りようとしなかっただけだ。
さて…斗真がこうして図書室に来た理由は、妖怪に関しての資料調べである。
退魔士となって、斗真はそれなりに妖獣と妖怪に出会った。
斗真自身、小学生の時に見た『呪呪呪の鬼次郎』から、妖怪の知識は人よりも豊富であると自負している。
しかし、うろ覚えの知識も多く、一旦知識を見直してみた方が良いと判断した。
そこでの図書室である。
斗真はカテゴリー別を見ながら、妖怪の本を探していく。
数分で幾つか目ぼしい本は見つかった。
早速それらを図書室内のテーブルに乗せ、読み始める。
斗真が本棚から出した本は、多くが妖怪に関する簡単な図鑑のようなものだった。
それぞれの妖怪について、絵が付いており、非常に分かりやすい解説で乗っている。
斗真は久々に集中して本を読み始める。
キーンコーンカーンコーン。
本を読み始めて、2時間ほどか、チャイムが鳴る。
放課後終了の音であり、図書室利用の時間が終わった音でもある。
まだ読み足りないところがある。
なので、残りの本は借りることにした。
斗真は本を持って受付に行く。
そこには、一人の女子生徒がいた。
図書委員の人である。
女子と言うことを考慮しても小柄であり、その子は黙々と本を読んでいた。
失礼ながら、本を読んでいたとはいえ、今まで存在を気づかない程、存在感の薄い子だった。
「……あの」
斗真は小さく声を掛ける。
すると、女子生徒は、持っている本を下ろし、斗真に顔を向ける。
「……はい」
小さく返事をする。
その子は、大きな丸眼鏡を掛けた子だった。
おかっぱ頭をしており、人形みたいである。
斗真を無表情で見ている。
その子を斗真は知っていた。
「あれ?家内さん?」
その子の名は、家内静子。
斗真と同じ一年生で、同じ教室の女子生徒である。
いつもは、教室の隅で本を読んでいるので、余り斗真や楓とも交流の無い子だ。
ぶっちゃけ話したことが無い。
「君は……星原君かな。同じクラスの」
家内は、斗真が図書室にいるのが珍しいと言わんばかりの口調であった。
斗真は静かに、本を受け付けに置く。
「これ…借りたんだけど」
そう言うと、家内は本を見て、無言のまま淡々と判子を押していき、手続きをする。
そこに、会話は存在しない。
斗真も何を話して良いのか分からず、無言だ。
「……どうぞ」
ものの10数秒で、全ての本を借りる手続きが済んだ。
「ありがとう」
斗真も淡々と本を受け取り、図書室から出ようとする。
斗真が家内に背を向けた時、
「…………星原君は、妖怪が好きなの?」
「え?」
まさか、話しかけられるとは思わず、斗真は驚きの表情で振り向く。
受付には、変わらず無表情の家内がいた。
家内は無言で、斗真が持つ本に指を差す。
「その本たち、全部…妖怪関係の本だよね?星原君は妖怪に興味あるのかな…と、思って」
「ああ…」
なるほど、借りる本が全部妖怪関連の本なら、妖怪に興味があるのかと思うのは当然か。
退魔士だから、妖怪の情報が必要と言うことは無いので、
「最近、興味を持ってね。いろいろ妖怪の知識を集めてるんだ」
「そうなの」
家内の返事は簡素なものであった。
そうして、斗真は本を持って、図書室を出るのだった。




