042異世界③
「え?琴葉さん、斗真まで?」
楓が首を傾げる。
仁は妖怪審判に置いて、自身が異世界に行っていたことを明かしたが、斗真は”まだ”楓や琴葉に異世界のことは話していない。
でも、琴葉の目には、確信を突いたような…そんな雰囲気があった。
「本部からの報告では、仁…貴方は少し前までは妖人では無かった。妖気を持たない、ただの人だったのよ。それが、どういう訳か…突然、妖気を持ち、妖人となった。しかも、仁は妖術とは違う、別の能力を持っている。楓の報告に会った「獣の様な力」だったかしら。つまり、彼には妖人になって、能力を得るための何らかの切っ掛けがあった」
そこで、一旦話を区切ってから、琴葉は斗真の話をする。
「そして、斗真よ。私…貴方が楓と一緒に、ここに来て、退魔士の試験を受けた翌日から、独自に貴方のことを調べたのだけど。その結果、分かったのは…斗真は少し前まで、普通の人だった」
「え?斗真が普通の人?だって……」
「ええ、”今の”斗真は紛れも無く、妖人。でも、彼の家系を調べても、彼の両親が妖人や妖怪に関係していると言う情報は得られなかった。それどころか、斗真は高校に入学する前まで、ただの人間のはずのなのよ。だから、斗真は今から高校入学の間に、彼自身が妖人になってしまう切っ掛けがあった」
琴葉さん…俺の事、調べていたのか。
斗真は内心、そう思いながら、頬を掻く。
まぁ…楓が戦力になるからと、退魔士の試験を受けさせるために、連れてきたのが、自分みたいな陰キャだったら、素性を調べるのは当然か。
「しかも、斗真にも、仁と同じように、オール・アイだったかしら?妖術とは全く違う能力を持ってる。仁と全く同じ」
楓には、前に会った口裂け女の事件の際に、自身のスキルであるオール・アイのことは話してある。
そして、琴葉は両手を前に出し、指を立てる。
右手は人差し指と中指。
左手は人差し指。
「仁と斗真。そして、実際にいた水樹茂雄と言う人。この3人は共に、普通の人だったのに、突然妖人となり、妖術と異なる能力を持った。水樹茂雄が異世界に行って、力を持ったと言う話が仮に本当なら、仁も斗真も異世界に行って、力を得たと、私は推測のよ」
琴葉は推測は、ほぼ的を得ていた。
「「………」」
斗真も仁も、特に琴葉の言葉を否定しなかった。
それが肯定の意味だと思ったのか、琴葉の話を聞き終えた楓は、ゆっくりと斗真に歩み寄る。
「ねぇ…斗真」
楓は両手をそれぞれ、斗真の両肩に乗せる。
彼女の銀色の瞳に、斗真の顔が写る。
「貴方は何者なの?」
「………」
それを聞かれ、斗真は一度深呼吸をする。
琴葉に、あそこで推測されては、隠す必要もないだろう。
「隠していて、ごめん。俺…仁と同じ、異世界に行ったことがあるんだ」
今まで楓に隠していたことを語りだす。
およそ半月前…高校に通ってから1か月も経っていない日に、突然…光が体を包み、気づけば勇者として異世界に召喚された。
召喚された理由は、異世界にいる魔族たちと戦うため。
召喚されたのは、斗真や仁を含め、4人の勇者。
異世界に行った際、斗真は魔力と言う肉体強化をすることができ、魔法を引き起こす力を手に入れ、さらには勇者固有のスキルと呼ばれる能力を得た。
異世界で3年間を過ごし、魔族たちを倒すことができた。
元の世界に帰ることができたが、異世界と同じく魔力とスキルが使え、元の世界では、全く時間が経っていなかった。
そして、斗真は元の世界に帰って、すぐ緑鬼と戦う楓に遭遇した。
斗真は異世界に召喚され、帰るまでの経緯を出来る限り詳細に説明した。
所々で、仁が補足をする。
琴葉も楓も、斗真の話を遮ることなく聞いていた。
けれど、時折眉根を寄せたりと、表情は芳しくなかった。
「「はぁ…」」
ようやく話し終えた時、楓も琴葉も同時に、ため息をつく。
琴葉は、こめかみに手を当て、目を閉じる。
「何とも…信じ難い話。普通だったら、精神病を疑う内容だったわ。どう解釈していいかどうか。この場に、墨岡がいなくてよかったわ。いたら、今頃発狂しているところね」
墨岡とは、八咫烏という妖怪である退魔士協会・隗隗街支部の副支部長である。
あの常識人そうな墨岡が聞くと、琴葉の言う通り、酷く困惑しそうだ。
「ごめんなさい、斗真。斗真のことを疑うつもりはないけど、やっぱり…ちょっと信じられないところがあって」
楓も額に汗を浮かべ、どうにか斗真に話を納得しようと試みていた。
無理のないことだ。
言った本人である斗真も、素面で聞いていたら、聞くに堪えない与太話だからな。
「斗真の話を真実をするだけの確実な根拠は無いわ。けれど、斗真の話を嘘を断定する根拠も無い」
琴葉は顔を真面目なものにして、両手を合わせる。
「ここは、一つ。異世界の話は保留にしましょう。私は、今度も休みに、実家に戻って母に直接聞いてみるわ。母なら、もっと異世界に付いて詳しいことを知っていると思うから」
琴葉の母である妖狐は、斗真と同じ勇者として異世界に召喚されたであろう水樹と直接の交流を持っている妖怪。
水樹の異世界に行ったと言う話を最も身近で聞いていたであろう妖怪だ。
琴葉の母ならば、もっと詳細な話を聞けそうだと、琴葉は言う。
それから、斗真と楓、仁は、鵺との戦いの詳細な報告をしたのち、解散となった。
因みに、仁は今日だけ斗真の家に泊まり、明日…しっかりと京都に戻ることになった。
これは、本部に言っておくから、一晩だけでも友人と過ごしたら良いという琴葉の気遣いによるものだ。
斗真と仁は、琴葉にお礼を言い、有難くその気遣いを受けさせてもらった。
その晩、斗真と仁は夜更かし気分で、色々語り合った。
話の内容は、やっぱり異世界のこと。
4人……いや、王女を含めた5人でも、異世界の冒険と魔族との戦いは、斗真たちにとって、人生で最も語りがいのある話だろう。
その日の翌日、
「またな、斗真」
「ああ…寂しくなるな、仁」
「へへ、そう言うな。俺も監視が解かれれば、また会いに来るからよ」
「今度は4人で集まれると良いな」
「そうだな」
斗真と仁は互いに拳を合わせる。
そして、仁は京都に帰った。




