038仁のスキル②
「ガアアアアア!!」
仁が、まるで獅子になったように口から雄たけびを上げつつ、鵺に接近する。
その速度は、少し離れていた楓も目を見開くほど。
まさに、獅子の如く地を掛ける脚力。
接近した仁は、鵺に鍵爪を振るう。
獅子の如き鍵爪は、踏み込みざま、鵺の左前足を斬り裂く。
その鍵爪による切れ味は、一流の鍛冶獅子によって鍛えられた剣のよう。
続けて、振るわれる鍵爪。
さらに切り傷を付けられる鵺。
繰り出される連続切り。
鵺は受けに回るしかなかった。
仁が元の世界でも、異世界でも磨いていた剣術の動きは、こうしてスキルの使用時にも活躍する。
仁のスキル〈獣宿し〉には、種類がある。
斗真のスキルである〈万能眼〉には、数百メートル先を見られる〈千里眼〉や魔力を可視化できる〈魔力眼〉、物を透視できる〈透視眼〉、この前大入道を倒した時に習得した〈未来眼〉など…と種類があるように。
因みに、斗真の場合、〈千里眼〉と〈魔力眼〉の二つが始めから使用可能なスキルであり、残りのスキルは魔物の討伐など、戦いの経験値を得ることで習得可能となる。
先程、仁が使用したのは、〈獣宿し〉の中でも、異世界に召喚された際に、初めから使用可能なスキルの一つ〈獅子の鍵爪〉。
身体能力…特に、腕力を大幅に向上させ、〈獅子の鍵爪〉という名の通り、手の先の爪から、まるで獅子の様な鍵爪を顕現させるスキルである。
これならば、例え武器を持っていなくとも戦える。
異世界では、仁はこのスキルを上手く活用して、得意な剣術と並行して戦っていた。
右手に剣を持ちつつ、左手で〈獅子の鍵爪〉を顕現させるなど。
兎も角、仁のスキルは、近接戦闘と非常相性が良い。
「ギギャア?!」
鵺が悲鳴を上げる。
仁の鉤爪が、前右足を大きく切り裂いたのだ。
あれでは、まともに前足の爪による攻撃は使えまい。
頭部の猿顔が苦痛で歪むのが見える。
鵺も負けじとばかりに、反撃する。
前足の攻撃が出来なくとも、鵺には蛇の尾がある。
尻尾となっている蛇が口を開け、仁に噛みつこうとする。
「〈獣宿し〉〈水亀の甲羅〉」
仁は新たなスキルを発動する。
先ほどの〈獅子の鍵爪〉は消え、代わりに仁の背中に、大きな亀の甲羅が顕現する。
見るからに固そうだ。
仁は鵺に対し、背中を向ける。
ガキン!
鵺の尻尾による蛇の噛みつきが、甲羅によって弾かれる。
弾かれつつも、蛇は何度も噛みつき攻撃を繰り出す。
だが、その尽くを甲羅は弾き返す。
パキ!
何かが折れる音がする。
「シャア?!」
甲羅は想像以上硬いのか、噛みついた蛇は、鈍い声を出し、逆に牙を折られていた。
仁が今使った〈水亀の甲羅〉は、自身の身体の耐久力を上げ、背中に人間台の亀の甲羅を顕現させるスキルである。
〈獅子の鉤爪〉が攻撃用のスキルなら、〈水亀の甲羅〉は防御用のスキルである。
この〈獅子の鉤爪〉と〈水亀の甲羅〉は、仁が異世界に召喚された時から使える〈獣宿し〉のスキルである。
「〈獣宿し〉〈鷹の羽翼〉」
仁が、さらに別のスキルを発動する。
さっきまで顕現していた亀の甲羅は消え、今度は仁の背中から大きな翼が一対顕現する。
黒みが掛かる巨大な翼は、まさに鷹の羽翼。
タン!
仁が大きく飛び上がる。
魔力によって強化された脚力で飛んだので、その垂直による飛距離は、数メートル。
しかし、飛び上がった仁を見て、鵺は得たりと言わんばかりに、猿顔をニヤケさせる。
空中ならば、身動きが取れない。
着地の瞬間を狙えば、攻撃が当たる。
そう考えたのだろう。
バサ…。
だが、鵺の狙いは外れた。
何と、仁は数メートル飛んだところで、空中に静止したのだ。
厳密にいうと、背中から顕現した翼によって、空に浮かんでいるのだ。
これが〈鷹の羽翼〉によるもの。
言ってみれば単純だが、〈鷹の羽翼〉のスキルを発動すると、仁は空中に飛ぶことが可能となる。
〈鷹の羽翼〉は、斗真の〈透視眼〉や〈未来眼〉と同じく、戦いによる経験値で習得できるスキルだ。
仁が、このスキルを使えると言う事は、元の世界でも俺のように、いろいろと妖獣と戦ったのかもしれない。
戦いは上を取った方が有利と言うが、それ妖獣相手でも変わらない。
鵺は仁に目掛けて飛び上がるが、翼の生えた仁は軽い身のこなしで、躱す。
急上昇、かと思いきや、旋回。
そして、穏やかに飛び回る。
空を軽快に飛ぶ姿は、鳥人間。
上を取るというのは、こうまで戦いを有利に進められるとは。
「はあ!」
仁が空を飛んだ状態から、急降下する。
一回転をして、鵺の狸の胴体に、踵落としを叩きこむ。
空中からの勢いもあって、その踵落としは強烈だった。
叩き込まれた鵺は、モグラ叩きのように地面に埋もれそうになるほどの衝撃だった。
…………と、まぁ…ここまで、仁と鵺の戦いを解説したが、斗真も悪戯に呆然と眺めていたわけではない。
魔力は十分に籠った。
斗真は、弓の柄を左手でしっかりと握り、右手で持った矢に、魔力が集まっているのを確認する。
斗真が今、持っているのは妖具である『花咲の弓』。
効果自体は、弓を握って、イメージした花を咲かせると言う、何とも感想に困る妖具である。
だが、弓自体の性能は使ってみて、悪くなかった。
それは、この前の土蜘蛛と大入道を相手にした時に、分かった。
この弓なら、異世界で斗真が使っていた『魔弓術』が十全に生かせる。
『魔弓術』とは、斗真が異世界にいる時に、弓の指導をしてくれたエルフから教えられた、魔力を使用した弓術である。
「ふ!」
「ウガ!」
仁と鵺が一旦、お互いに距離を取る。
この瞬間を待っていた。
悪い、仁。
最後の締めは、貰うぞ。
斗真は決めの一手を出す。
「魔剛射」
斗真は右手に持った矢に手を離し、一本の矢を放つ。
ビュン!
高い音が辺りに響く。
屋と弓だけでなく、両腕にも魔力を行き渡らせて放った魔力の剛矢による一撃。
それが、仁と戦っている鵺に迫る。
「ウグ?!」
しかし、反応速度が良いのか、鵺は魔剛射が当たる直前に気づき、回避行動を取る。
迫る魔力に矢に対して、鵺は右に避けた。
中々の俊敏さである。
だけど、無駄だ。
その”未来”は見えている。
「歪曲」
斗真の予想通り、右に避けた鵺に向かって、魔剛射は何と軌道修正してきたのだ。
まるで、始めから、そっちに避けるのが分かり切っているみたいに。
これは『魔弓術』の中でも、「歪曲」と呼ばれる技である。
シンプルな名前だが、矢に込めた魔力を用いて、放った矢を途中から軌道修正させる弓技であり、単純故に、汎用性の高い技だ。
俺は矢の命中率に対して、大きな自信を持っているが、異世界では例え狙い通りに矢を放っても当たらない敵もいた。
特に、動きが素早く、反射神経に優れている魔物に矢を放っても、避けられることが、しばしば。
だからこそ、「歪曲」を使って、避けられることを見越して、矢を放つのだ。
だが、まだ「歪曲」を使えば、良いのではない。
考えてみれば当然だが、「歪曲」を使おうにも、敵が避けるだろう方向を分かっていなければ、出来ない。
それこそ、斗真に未来を見る力が無ければ。
「〈万能眼〉〈未来眼〉」
そう…斗真には、スキルがある。
少し前に、大入道を倒した際に、習得した〈未来眼〉は、文字通り未来を見られる。
と言っても数秒先の未来だが。
斗真は先程、この〈未来眼〉を使って、鵺の数秒先の未来を見て、避ける方向を知っていたのだ。
異世界では、相性の良い〈未来眼〉と「歪曲」のコンボを良く多用していた。
避けたのに、こっちに来る魔剛射に驚く鵺。
「ギャアアア?!」
魔剛射は見事に、鵺に命中。
胴体を貫通する。
鵺が一際大きな断末魔を上げた後、鵺は煙のように消えて行った。
こうして、鵺は無事、斗真と仁によって討伐された。




