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『退魔鬼譚』 ~妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 保志真佐
第四章 御剣仁と妖怪遠足

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037仁のスキル①




 鵺という妖怪は、平家物語など、あらゆる日本の文献で言及されている。


 「ぬえ」の漢字自体、夜と鳥を合わせたもの。

 その漢字の通り、夜に泣く鳥…と言った意味があるのだ。

 鵺は「ヒョーヒョー」と鳴くことから、トラツグミという鳥が由来であるとされている。


 古い文献に伝わるその姿は、猿の顔に、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾と言った奇妙で奇天烈なものである。


 性格は獰猛であり、以前倒した土蜘蛛のように人を襲う妖怪として知られている。

 妖怪を題材にした物語でも、敵として登場する。


 そんな鵺が、今…楓と戦っていた。


 「グルアァ!!」


 鵺が鋭い飛びつきを行う。

 楓は冷静に〈緋槍〉で、防御する。


 「ガルルル」


 鵺が楓の持つ〈緋槍〉に噛み付く。


 ギギギ…と音を立てながら、鵺は〈緋槍〉を噛み千切ろうとする。

 けれど、鬼族である楓の髪の毛より作られた〈緋槍〉は頑丈なのか、折れる気配は無い。


 「『飛翔草履』!」


 楓は両手で〈緋槍〉をしっかり持ち、踏ん張りつつ、素足の上に履いている黒い草履を片方だけ蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされた草履は、楓と鵺の横を飛び、そのまま地面に落ちると思いきや、急に軌道を変える。

 高速で飛翔する草履は、鵺の背後に回り、その勢いのまま鵺の背中を直撃する。


 「グル?!」


 突然の背中らの攻撃に、鵺は怯み、噛み付いていた〈緋槍〉から離れる。


 楓が吐いている草履は、ただの草履ではない。

 『飛翔草履』と言い、妖気を纏った妖具と呼ばれるものだ。


 この草履は、履いている者の念波によって、自由自在に操れる性能を持っている。


 「はっ!」


 距離を取った鵺に対し、楓は〈緋槍〉と同じように、彼女の髪の毛によって作り出された〈緋針〉を複数本投げる。


 鵺は、それを鬱陶しそうに俊敏な動きで躱す。




 そう言った楓と鵺の攻防を、少し離れた場所で見ていた斗真と仁は、二人同時に既視感を覚えた。


 「なあ、仁。あれって、鵺だよな?」

 「ああ、そうだな。俺も初めて見る…………って、それは当然か。だけど…昔に俺が嵌ってた妖怪アニメで見たことがある」


 妖怪アニメで鵺を見たことがあると、仁が言う。

 それに関して、斗真は思い当たるものがある。


 「ん?妖怪アニメ?それって………『呪呪呪(じゅじゅじゅ)鬼次郎(きじろう)』のこと?」


 それは、斗真が小学生の頃に嵌っていた妖怪が出てくるアニメ。


 主人公である水樹茂雄(みずきしげお)が太平洋戦争が帰還して早々、鬼次郎という鬼と共に、様々な妖怪と出会っていき、妖怪が引き起こす事件を解決していく物語だ。

 その話の中に、鵺も出てきたはず。


 つい、この前だと…サブスクで視聴していた。


 「おお!そうだ!鬼次郎(きじろう)だ!懐かしいな、子供の時によく見てた。斗真も見てたんだな」


 仁も同じ妖怪アニメを見ていたらしい。


 斗真は親近感を持ったのも束の間、やはり険しい顔で鵺を見る。

 鵺の姿は、妖怪アニメに出てきた姿のままだが、別の既視感を感じるのだ。


 「あれ………"キメラ"に似てないか?」

 「やっぱり斗真も、そう思うか」


 斗真と仁が、鵺を見た際に感じた既視感の正体は、どうやら同じ物であったようだ。


 キメラ…それは斗真たちが召喚された異世界に存在する魔物の事である。


 元の世界では、キメラと言う言葉自体、一個体の体に複数の遺伝子を持った生命体と言う意味を持っている通り、ライオンの頭に、ヤギの胴体、そして蛇の尻尾と…何ともアンバランスな姿だった。


 しかも、ただ見た目が奇妙なだけでなく、気勢も荒く、獰猛な魔物だった。

 キメラは大きい体格をしているが、素早い身のこなしができ、蛇の尻尾による毒の噛み付きは危険だった。


 そのキメラが今、楓に襲っている鵺に、とても似ているのだ。


 「………妖獣って、一体何だろうな」


 斗真は小さく呟く。


 それは単純な疑問だった。

 斗真は元の世界に帰ってから、それなりに妖獣と戦って来た。


 緑鬼や泥田坊、土蜘蛛、大入道など。


 そのどれもが、既視感を感じるのだ。

 異世界で戦った事のある魔物に似ているために。


 緑鬼はゴブリン、泥田坊はマッドゴーレム、土蜘蛛はマーダースパイダー、大入道はサイクロプスである。

 仁の話によれば、仁が異世界から帰った直後に戦った青鬼という妖獣は、オーガに似ていたそうだ。


 妖獣は、余りにも魔物と相似している点が多い。

 偶然とは、思えないのだ。


 だけど、もし偶然ではないとしても、その理由は分からない。


 まぁ…似ていると言ったら、楓の『鬼族』もある。

 鬼族は、強い魔力を持ち、頭からは角を生やして、強力な魔物や特殊技能を使う。


 特徴的に、異世界で斗真が戦って来た『魔族』と似ているんだよな。


 鬼族……かつて、日本を征服しようとした妖怪と聞いたけど、謎が多い。


 「いや、今はそんな事考えてる暇は無いか」


 斗真は頭を振って、思考を切り替える。


 今は妖獣や鬼族について、考えている場合では無かった。


 鵺と戦っている楓を援護しないと。

 そう思い、斗真は手に持っている妖具『花咲の弓』を左手で構える。


 肩に担いでいる矢筒から矢を一本引き抜き、右手に添え、矢の先を鵺に向ける。


 「ふぅ………」


 一度深く深呼吸をした後、目を一瞬閉じ、そして開ける。

 集中するためだ。


 こうすると、意識が少し研ぎ澄まされるのだ。

 異世界でも、弓を使う時はいつも、こうしていた。


 仁も、それを知っているため、弓を構える斗真に、何も言わない。


 数瞬の静寂の後、次の瞬間。

 シュ!!


 風切り音を立てて、一本の矢が目に留まらぬ速さで、空中を駆け抜ける。

 高速で飛来する矢は、楓と鵺との間の場所を通過する。


 勿論、外した訳では無い。


 楓と鵺…両者が激しく動き合う中で、矢を鵺に当てることも出来なくはないが、楓に当たってしまう可能性を考えて、注意を引くために、両者の間を狙ったのだ。


 急に矢が目の前を通り過ぎたことに、鵺は警戒し、楓から距離を取ったのち、周囲を確認する。

 楓は矢が飛んできた方向を見て、叫ぶ。


 「斗真!!」


 仲間の到着に、楓は喜んだ表情になる。


 しかし、


 「………隣は誰?」


 直ぐに斗真の隣にいる仁を見て、怪訝な顔をする。

 仁の事は、楓に言ったことが無いので、仁が誰か分からないのは、当然だ。


 斗真は楓に向かって、思いっきり声を張り出す。


 「楓!今、援護する!それと、俺の隣にいる人は味方だ!」


 それを伝え、素早い動作で矢筒から三本の矢を取り出し、弓の弦に添えた。

 一息で、三本の矢を同時に、鵺へ放つ。


 狙いは、それぞれ頭部、右前足、左前足である。


 「グガア!!」


 それを即座に躱す鵺。

 遠くから見て分かっていたが、大きな体格に似合わず、素早い。


 自分でも、弓の放つ速さには自信がある。

 もし、先日倒した土蜘蛛だったら、三本とも当たっていた。


 シュ!シュ!シュ!

 間髪入れずに、続けて矢を放つ斗真。


 鵺は反射神経が良いのか、斗真の高速で飛来する矢を見てから避けていた。


 とは言っても、矢が当たらなくても別に構わない。

 今回の戦いでは、俺は遠距離からの牽制のみに集中していればいい。


 何故なら、


 「行くぜ!!」


 仁がいるからだ。

 気合を入れた仁が、魔力を使って身体能力を強化させ、鵺目掛けて駆け出す。


 異世界では、斗真は後衛による遠距離でのサポート、仁は前衛による近接戦を熟していた。

 異世界では、そう言った役割が決まっていたので、斗真と仁の二人の動きは、息を吸うようにスムーズだ。


 ところで、仁には武器が無い。


 斗真には、『花咲の弓』があるのに対し、仁は完全に丸腰だ。


 でも、問題ない。

 仁のスキルなら。


 「〈獣宿し(ビースト)〉〈獅子の鍵爪〉」


 ゴオオオオ……。

 数秒も満たない中、仁の体からオーラが漂う。


 炎のようなオーラ。

 仁がスキルを行使した際に、現れる現象だ。


 これが仁のスキル〈獣宿し(ビースト)〉。


 その身に獣の如き力を宿すことで、身体能力をさらに向上させ、その獣に見合った特殊技能を得るのだ。


 まさに、前衛向きのスキル。

 これがあるからこそ、異世界において仁は前衛を任されていたのだ。




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