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『退魔鬼譚』 ~妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 保志真佐
第四章 御剣仁と妖怪遠足

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035仁の事情②




 「………………は?イセカイ?」


 当たり前だが、天狗はキョトンと首を傾げる。


 「ええ、そうです。俺は三年前………じゃなくて、今さっき異世界に飛ばされて………………」


 性根が真っすぐな仁は、良くも悪くも、自分が異世界に飛ばされ、そこで勇者として活躍したことを話す。


 勇者となった自身は、異世界でスキルと言う不思議な力を獲得し、魔族たちと戦うことになったこと。

 そして、何とか魔族たちを倒した自分たちは元の世界に変えることになり、先程…その異世界から帰ってきたこと。

 だが、何故か元の世界に帰ってきても魔力が扱え、スキルも使えること。


 これらを懇切丁寧に説明する。


 常人なら、相手の頭の心配をするレベルの突拍子も無い話。


 天狗は仁の話を遮ることなく、聞いていた。

 けれど、


 「………………何だ、こやつは」


 仁自身は気づいていないが、終始顔が引いていた。

 仁の事を、痛い奴ならまだしも危ない者を見るかのような視線を送っていた。


 暫くして、仁の説明が終わる。

 仁個人は、本当の事をただ話しただけであったので、後ろめたさを感じさせぬ雰囲気を持っていた。


 でも、当然ながら話を聞き終えた天狗は、


 「貴様!!やはり、怪しいものだな!」

 「へ?」


 天狗は仁を拘束するように体を捕まえる。


 両肩を強く掴まれ、鈍く痛みが走る。

 天狗は、底の高い下駄を履いているとはいえ、180センチの高身長を持つ仁よりも、ずっと大きく膂力や握力が強かった。


 突然の事で、戸惑う仁。

 そんな仁に天狗は言い放つ。


 「貴様を、これから『妖怪審判』に掛けてくれる!!」

 「ええええ??!!」


 仁の困惑した絶叫が木霊する。


 仁にとって、『妖怪審判』と言うのは知らないが、これから良く無いことが起こるぐらいは分かった。









 「………………って、事があった」

 「へぇー」


 今し方、聞いた仁の話に斗真は頷く。


 ほんの少し前に手紙で読んだばかりだが、仁は異世界から元の世界に帰って早々、天狗に出会い、青鬼という妖獣を倒したようだ。


 天狗か、テレビや本でしか見たことが無い。

 当たり前か。


 ここ隗隗街には、いるのか。

 それとも京都だけにしかいないのか。


 次に楓に会った時は聞いてみよう。


 それにしても、仁は正直に異世界の事について、話したのか。

 斗真でさえ、楓などには異世界の事など話したりはしない。


 ある場所で、魔力と使った戦闘技術を五年学んだと、言葉を濁して説明していた。


 どう考えても、怪しまれるだけだからだ。


 斗真は仁にバレないように、小さくため息をつく。

 仁らしいと言えば、それまでだが、異世界でも仁は正義感がやたら強く、嘘を付かない性根の真っすぐな男だった。


 それは普通に考えれば、長所だ。


 しかし、見方によっては短所とも言える。

 ぶっちゃけ、この仁の曲がったことが嫌いな性格に、異世界では何度も斗真を含め、雫も優香も困られられた。


 余計なことには首を突っ込まない方が良い事だってあるのに、仁は小さなことでも目を背けたりはしない。


 まぁ…だからこそ、斗真は仁を親友として見ている訳だが。


 「それで、どうなったんだ?」


 斗真は仁の話の続きを促す。


 「えっと…俺はこの後、天狗に”本部”へ連れられるんだ?」

 「本部?」

 「退魔士の本部だよ」


 そうして、仁は続きを話す。









 馬鹿正直に異世界のことを話した仁は、天狗に大きく疑念を持たれながら、連行されていた。


 バサバサバサ。

 空を飛びながら。


 「すげぇ、俺…空飛んでる」


 仁は小さく呟き、感動の表情を浮かべていた。


 目の下で目まぐるしく景色が変わる。

 京都の町を空から見ると、こんなにも新鮮な気持ちになるのか。


 「ええい、動くな。落としそうになる」

 「す、すみません」


 現在、仁は空を飛んでいた。


 仁自身が飛べるわけではない。

 天狗に運ばれているのだ。


 大きな翼で羽ばたく天狗が、仁の体を掴んだ状態で。


 「あ、あの~お、俺…これから何処に連れて行かれるんですか?」

 「貴様は怪しい。よって、これから『妖怪審判』に掛けるとする。今向かっている場所は、退魔士の本拠点『退魔士協会・京都市本部』じゃ』


 運ばれている仁は、この時まだ知らなかった。


 退魔士協会とは、全国にいる退魔士をまとめる組織。

 そして、斗真がいる隗隗街にある役場が、実は『退魔士協会・隗隗街支部』という全国にある退魔士支部の一つ。


 なので、『退魔士協会・京都市本部』こそが、全国の支部を纏める総本山である。


 全ての退魔士を管理する本部が京都にあると言うが、その具体的な場所は………………、


 「あれ?ここは…………」


 天狗に運ばれている仁は目を見開く。


 見えてきた『退魔士協会・京都市本部』。

 その場所には、今日生まれの仁には、とても見覚えがあった。


 そこは、


 「清水寺」


 そう、清水寺だった。

 日本人でなら、誰でも知っている超有名な寺。


 千年以上も前に建設された寺であり、テレビや写真では、本殿の周囲に紅葉と言った紅葉が咲き誇るイメージが大きいだろう。

 京都に来た観光客が、真っ先に足を運ぶ場所。


 まさに、京都を代表する寺であろう。


 仁だって、今まで何度も訪れたことがある。

 そんな場所に空を飛びながら、連れてこられた仁。


 清水寺に何のようなのか、疑問に思う仁であったが、また別の事に気づく。


 「清水寺の周囲に〈フィールド〉?」


 異世界から帰ってきた仁なら分かる。

 清水寺を取り囲むように、半球状の不可視の壁を展開されていた。


 先程も天狗と青鬼が戦っている場所でも、同じような〈フィールド〉が張られていたが、清水寺の周囲に張られた〈フィールド〉は規模が違う。


 巨大な寺を丸々と覆うほどの〈フィールド〉。


 〈フィールド〉は、異世界において魔族が得意としていた魔法。


 もし、清水寺を囲っている〈フィールド〉が、異世界の〈フィールド〉と同質の物ならば、この〈フィールド〉を構築できる者と言ったら、魔族の中でも極一握りの者達、もしくは雫だけである。


 けれど、天狗は仁の言葉に首を傾げる。


 「ふぃーるど?何の事じゃ?これは〈結界〉。ワシらの様な妖怪やお主みたいな妖人と、妖気を持たぬ一般人とを選別するための〈結界〉じゃ」


 〈結界〉の説明をした天狗は、そのまま仁を抱えた状態で、清水寺の周囲に張られた〈フィールド〉…改め、〈結界〉の中に連れ込む。


 仁は魔力の壁を通り抜け、別の世界に入ったような感覚を覚える。


 「さて、到着じゃ」


 そうして、そのまま天狗は仁を清水寺の中に降ろす。

 降ろされた仁は周囲を見渡す。


 〈結界〉が張られた清水寺には、


 「ん?人がいない」


 清水寺には、人がいなかった。

 空を飛んでいる天狗に抱えられたまま、遠目で清水寺を見た時には、何人もの観光客がいたのに、今は誰もいない。


 シーンと静まり返った清水寺は、妙に味気ないものである。


 「だから言うたじゃろ?この〈結界〉は、妖怪や妖人と、一般人とを選別するための〈結界〉。ここに、普通の人間は入ってこれん」


 どうやら清水寺の周囲に張られた〈結界〉は、妖怪や妖人と、一般人とで空間を分ける仕組みになっているみたいだ。


 清水寺に降ろされた仁は、それから天狗に腕を掴まれたまま、奥へと向かわせられる。

 仁は自分で歩けますと言って、奥に進む天狗に付いていく。


 寺の奥は、本来であれば寺に従事する人しか入れないが、天狗と一緒に仁は奥に入ることになった。

 奥に続く扉を天狗が空ける。


 奥の部屋には、大きな仏壇や仏の像があった。


 そして、そこには一人の少女がいた。


 「あれ?あの人は…………」


 仁は、その少女に既視感を覚えた。


 少女は黒髪を三つ編みにして、綺麗な黄色の着物を着ていた。

 右手には、刀を持っている。


 少女は入ってくる天狗を見る。


 「あれ?叢雲さん?青鬼の退治は済んだんですか?」


 少女は気さくな感じで、天狗に声を掛ける。


 「ああ、今日は一葉が本部の護衛の担当か」


 少女は天狗を叢雲と呼び、天狗は少女を一葉と呼んだ。


 天狗も少女と知り合うなのか、こちらも気さくな感じで話しかける。

 しかし、


 「………………あれ?と言うか、この人は………………」

 

 少女は天狗のそばにいる仁の存在に気づく。


 一方の仁は一葉に対して、ハッとした表情をする。

 何故なら、


 「一葉”先輩”」


 そう、仁と少女は知っている中である。

 対する少女…一葉も仁を見て、ハッとする。


 「え?仁くん」


 仁と一葉はお互いの顔を見て、暫し固まる。


 「なんじゃ、お主ら知り合いか?」

 「は、はい。叢雲さん、この人は仁くん。私が普段通っている剣道道場の子です」


 仁は幼いことから剣道の道場に通っている。

 それ故に、異世界では剣の腕前も一流だった。


 この一葉と言う少女は、仁が通っている道場の一個上の先輩だったのだ。


 仁にとっては、異世界での間…三年ぶりの再会である。


 「何で、仁くんがここに?と言うか、ここは〈結界〉が張ってあるから、仁くんみたいな普通の人は入れないはず!」


 一葉は慌てふためく。


 「一葉。この赤髪の小僧は、ただの人間では無い。妖人だ」

 「妖人?!嘘!妖人って、妖気を持った人間の事ですよね?仁くんが?!」


 叢雲が、仁を妖人と言うと、一葉はさらに驚く。


 恐らく、ずっと道場で一緒に稽古をしていた仁が妖人であると思わなかったのだろう。


 それもそのはず、仁が妖気…もとい、魔力を持ったのは、元の世界の時系列で、ついさっきなのだから。


 「今から、こやつを『妖怪審判』に掛けようと思う」

 「よ、よ、妖怪審判??!!」


 一葉は、発狂気味に驚いたのだった。









 「………………ってことになった」

 「まさか、清水寺が退魔士の本部だったなんて」


 退魔士隗隗街支部の支部長である妖狐の琴子は、本部は京都にあると言っていたが、それが…かの有名な清水寺だったなんて。


 「てか、そもそも『妖怪審判』って何?」


 『妖怪審判』という言葉自体も聞いたことが無い。

 名前的に、妖怪による審判という事か。


 仁の話の中には、まだ『妖怪審判』の詳細な説明がされていない。


 「ああ、『妖怪審判』ってのは………………」


 仁がまた話の続きを言おうとした、その時、


 ブルルル。

 斗真のスマホが鳴る。


 斗真はポケットからスマホを取り出し、電話の相手の名前を見る。

 相手は、


 「楓からか」


 妖怪学校一の美少女であり、斗真の退魔士としてのバディである楓だった。


 「ごめん、仁。電話出ていいか?」

 「ん?ああ、良いぞ」


 俺は仁に一言断って、楓の電話に出る。


 『もしもし…楓。どうした?』

 『斗真!』


 スマホの向こうでは、楓が少し慌てたような声を出していた。

 その理由は、


 『すぐこっちに来て!街に近くの山に強力な妖獣が出たの!』


 どうやら、妖獣退治の応援であった。




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