034仁の事情①
斗真が半月前に、王女のティアナの転移魔法によって異世界から元の世界に帰った時、それと同時刻に斗真と共に魔族と戦った勇者の一人である御剣仁も、元の世界に帰ってきていた。
視界全体が光に包まれた後、気づけば、仁は大きな寺の前にいた。
もうすぐ日が沈む夕暮れ時。
「ここは………………俺の家の近くにある寺の前」
仁がいる場所は、京都府の京都市にある通い始めた高校から実家までの帰り道の途中にある、大きな寺の門前であった。
ここは………………そうだ。
ある日、仁が高校から帰った時…この場所で突然、体を謎の光が包み込み、異世界に飛ばされたのだ。
そこからは、共に戦友となる斗真、雫、優香と出会い、魔族たちを戦って、ティアナの転移魔法で元の世界に飛ばされたのだ。
仁は少しの間、放心した後、自身の体を確かめる。
体のどこも異常は無い。
「異世界から帰ってこれたのか」
仁はホッとする。
どうやら、本当に元の世界に帰ってこれたようだ。
「身体は………少し縮んでる?」
異世界では三年間過ごした。
なので、帰る直前は、異世界に飛ばされた時よりも三年経過しており、体も少し成長していた。
しかし、今の体は三年前の……異世界に飛ばされる前の体だった。
ティアナからは異世界から戻っても、元の世界では時間は全く経過しておらず、体も元の姿であると言われたが、少し不安だったのだ。
もし、ここでも三年経過していた元の世界の家族や友達に心配をかけてしまうと。
「そうだ!!みんなは?!ちゃんと帰ってこれたかな?!」
みんなと言うのは、斗真と雫と優香のことである。
自分と同じように、他の三人も帰ってこれたのかどうか。
「手紙だ!手紙をまず出そう!!」
異世界から無事に帰ったら、まず手紙を互いの住所に送る。
これは異世界にいた時に、四人が決めたことだ。
お互いの安否を確かめるためだ。
三人の住所は頭に、すっかり覚えている。
早速、手紙を出そう。
そう思い、仁は家に向かって駆け出す。
その時だった。
「…………ん?これは」
仁は何かを感じ取る。
見えない何かが漂ってくる感覚。
この感覚は知っている。
異世界で何度も感じた感覚。
「まさか、魔力?!馬鹿な!ここは元の世界だぞ!」
そう、異世界にしかないはずの魔力が感じられたのだ。
それも大きな魔力。
魔力は仁たちがいた異世界で、主に身体能力の向上や魔法の動力源として使われていた。
仁たち勇者は、その魔力を使って、「勇者の力」である『スキル』を屈指して魔族と戦った。
その魔力をどうして、元の世界で感じるのか。
仁は確かめるべく、魔力が感じられた場所へ向かう。
シュン!
凄まじい速度で仁が走る。
その速度は、仁が走ったところに、ちょっとした突風が吹くほど。
「あれ?俺も魔力が使える」
つい、異世界の感覚で体中の魔力を使って、肉体強化して走り出したが、よくよく考えてみれば、これも可笑しいことだ。
だって、異世界に飛ばされる前の仁は、魔力など持っていなかったのだから。
仁は思い出す。
そう言えば、元の世界に変える際に、ティアナが言っていた。
元の世界に帰っても、魔力やスキルは使えると。
仁は魔力が使えることに疑問を抱きつつも、あっという間に魔力が感じられた場所に着く。
そこには人気のない川辺の場所。
周囲に誰もいない。
だけど、川の真ん中から感じる。
巨大な半円上の魔力。
「これは…………〈フィールド〉?」
またしても懐かしい。
仁の前方には、異世界で良く見た魔法である〈フィールド〉が展開されていた。
自身や特定の物を中心に、半球状の不可視の壁を展開する魔法である。
主に、敵の攻撃を防御するための魔法として使われる。
異世界で最も見てきた魔法。
何故なら、魔族たちが得意としていた魔法だから。
「まさか、元の世界にも魔族が?!」
仁は居ても立ってもいられなく、〈フィールド〉の中に飛び込む。
その中では、
「ふん!」
「グガ?!」
一人の『鳥』と一匹の『鬼』が戦っていた。
鳥が振るった剣が鬼を襲う。
鬼は後退しつつも、お返しとばかりに棍棒を振る。
「何だ?!」
仁は目を見開き、その光景を見る。
鳥……と言うか、翼の生えた人間。
その翼の生えた人間は、和風の着物を着ており、底の高い下駄を履いていた。
そして、大きな刀を持っている。
歴戦の猛者を感じさせる風格があった。
何より特徴的なのは、顔全体が赤く、それはそれは”長い鼻”があった。
その姿は日本人であるなら、誰もが知る「妖怪」だった。
「天狗?!」
仁が叫んだ通り、それはテレビなどで見る天狗の姿そのものだった。
幻でも見ているのかと、仁は何度も目を擦ったが、天狗は目の前にいた。
しかし、妙な既視感があった。
「………………鳥の獣人?」
仁たちがいた異世界には、元の世界にいない種族がたくさんいた。
魔族然り、それ以外にも動物の特徴を持った人である獣人と言う種族も。
獣人には、虎の獣人や犬の獣人、鼠の獣人など様々だった。
天狗は何となくだが、異世界にいた鳥の獣人に似ていたのだ。
仁は、一方で鬼の方を見る。
鬼は頭から二本の角を生やし、三メートル越えの身長に、身の丈にあう棍棒を持っていた。
しかし、ここでも既視感を覚えた。
「オーガ!」
青い鬼は、異世界にいる魔物であるオーガと似ていた。
オーガは鬼のように角を生やし、その凄い膂力を有した魔物。
姿から最弱の魔物であるゴブリンの親玉みたいに見えるが、その強さはゴブリンとは比較にもならない。
勇者として、力を付けるために、魔族と本格的に戦く前は、良く斗真たちと魔物を討伐していたが、オーガとも勿論戦った。
その時は苦戦した。
何せ、オーガの膂力で振るわれた棍棒は、剣で防御した仁を軽々と遠くへ吹き飛ばすほどだからだ。
「ウガ!!」
「ぬう?!」
オーガに似た青い鬼が棍棒で天狗を攻撃する。
天狗は刀で防御したが、青い鬼の力が強いのか体勢が崩れかける。
戦況は天狗が優勢と思えない。
仁は一も無く二も無く天狗の方へ駆け出す。
「俺も加勢する!!」
仁の叫びに天狗がびっくりしたように彼の方を見る。
「誰じゃ!お主!〈結界〉の外から来たのか?!」
「俺は御剣仁!貴方を助けます!」
それは異世界で散々やった勇者としての癖であった。
仁は異世界で多くの魔物や魔族たちと戦った。
その戦いの中には、人が魔物に襲われていた最中や魔族と騎士が応戦の最中に、勇者として加勢した時もあった。
そこで、誰かが何者かに襲われていたり、戦っていたりしたら、即座に加勢する癖がついたのだ。
こういう所は斗真と似ている。
けれど、仁が加勢しようして気づく。
武器が無い。
異世界では、騎士が使うロングソードを持っていたが、当然だが、今は持っていない。
「問題ない」
自身のスキルであれば問題ない。
仁は集中をして、スキルを使用する。
魔力が使えるという事は、スキルも使える。
仁は異世界で何度もやったスキル発動のための力溜め。
「ふっ………」
ゴオオオオ……。
数秒も満たない中、仁の体からオーラが漂う。
オーラは炎のように揺らいでいる。
天狗は青い鬼と戦っていることを忘れ、仁を見る。
「これほどの妖気………………一体何者」
驚愕している天狗を他所に、オーラを纏った仁は、
「ふん!」
一気に踏み込み、青い鬼に迫る。
元々、高校一年生にしては身長や体格も大きく、素の身体能力が高いことに加え、魔力による肉体強化。
そこに、スキルの力によって、さらに身体能力が向上される。
踏み込んだ際の凄まじい速度に、青い鬼は反応することも容易では無く、
「はあ!!」
瞬きする間に、仁の体から発せられた”鍵爪”で切り裂かれる。
手応えからして、この青い鬼もオーガ同様、硬い皮膚を持っている。
でも、問題は無い。
「はあ!はあ!」
一撃ならず、二撃目、三撃目も連続して鍵爪を振るう。
青い鬼は抵抗することもままならず、
「グルアアア……………」
オーガに似た青い鬼は、体に何個も切り傷を付けられ、崩れる。
消えような悲鳴を出した後、煙のように消えて行った。
後に残ったのは、仁と呆然と立ち尽くす天狗だけだった。
青い鬼を倒した仁は、スキルを解く。
すると、纏っていたオーラは消えた。
天狗は暫く放心していたが、
「は!」
目が覚めたかのように、放心が解け、勢いよく仁に迫る。
「お、お主!何者じゃ!青鬼を葬るとは!」
「え?え?」
天狗に服を掴まれ、何度も揺さぶられるので、仁も返答が困難だった。
「お主見たところ、妖怪では無いな。まさか、妖人か!」
「妖怪?妖人?」
仁には当然ながら、天狗が何を言っているのか分からず戸惑う。
けれど、分かったことがある。
元の世界には、どういう訳か、妖怪がいる。
目の前の天狗が証明だ。
「お主、何処で…あのような戦闘技術を身に着けたのじゃ?」
天狗が先程の仁の強さの秘訣を聞く。
これと似たような事を、斗真は楓に聞かれたが、そこは言葉を濁した。
だって、異世界で修業して身に着けたと言っても頭の可笑しい人間って言われるのがオチだし。
「ああ、異世界ですね」
この通り、仁は正直に答える。




