幕間 誰かの夢
ある日、楓は夢を見た。
夢は見た事は、別の大した話では無い。
妖怪でも睡眠を取り、夢も見る。
それは鬼族の楓も変わらない。
ただ、その夢の内容に問題がある。
明らかに、自身では無い誰かの夢なのだが、その夢に妙に親近感を感じるのだ。
そう…例えるなら、前世の自分の記憶を見ているような。
夢の内容は、別の世界の人間の視点を見ている様だった。
夢の中の自分は、綺麗なドレスを着て、視界の端に映る金髪の長い髪から女性だと分かる。
楓は、ある場所を歩いていた。
とても豪華な場所。
汚れ一つない大きなカーペットや煌びやかなシャンデリア、壁にある幾つもの装飾品は一目で一級品と判別出来るほど見事な出来栄え。
ここは、もしや城?
それも御伽話やテレビで見る様な、王様が住む王城では無いか。
もしかして、私…王女様?
王女様視点で、夢を見ている事なのか。
どうやら、夢の中の楓は、どこかの国の王城に住む王女様らしい。
王城か……………懐かしいな。
ん?
懐かしい?
あれ?
何で私は王城に懐かしさを感じているんだろう?
生まれてから、一度も王城になんて住んだ事は無いのに。
楓は夢の中で、首を傾げている間も、夢の光景が変わる。
そこは、大きな庭だった。
多分、王城の庭。
私は、庭で槍を持って訓練をしていた。
息を切らしつつも、重たい槍を持って何度も素振りをしていた。
この王女様、私と同じ槍使いなんだ。
楓は自身も髪の毛で〈緋槍〉を生成して使うので、親近感を感じる。
それにしても………。
何か、槍の使い方や太刀筋が私と似ているんだよな。
偶然かな。
そして、楓が意図しない内に、更に夢の光景が変わる。
そこは大きな広場だった。
多くの鎧を付けた騎士やメイド服を着た使用人がいる。
さらには、玉座に座った立派な冠を付けた王様まで。
ここは、恐らく玉座の間。
そんな中で、自分は広場の中央に立って、何かの儀式を始める。
その儀式は、さながら妖気を使って複雑な術を行使する妖術に似ている。
見たところ、かなり大掛かりな儀式みたいだ。
一体何のための儀式なのか。
暫く、儀式を見ていると、広場の中央に大きな光り輝く円のような物が現れる。
これは何?
まるで絵本で見る様な"魔法"による円陣みたい。
そうしている内に、円陣から四つの物………いや、四人の人間が召喚される。
四人の人間は、それぞれ赤髪に高い身長を持った好青年風の少年、長い青髪に冷静沈着さを兼ね備えた綺麗な少女、緑髪に猫背と大きな目を持つ可愛らしい少女………そして、最後に焦げ茶色に、これと言った特徴が無い平凡な見た目の少年。
楓は夢の中で、息を呑む。
最後の少年には、見覚えがある。
何故なら、その少年は自身と同じ高校に通い、一緒に退魔士をやっている人だからだ。
斗真!!
楓は夢の中で、内心叫ぶ。
その叫びは、斗真本人には聞こえない。
夢の中の斗真は、訳が分からないと言った風に辺りを見渡し、オドオドとしていた。
高校だと、もっと堂々としていたと思うが。
目の前の斗真は……なんと言うか、言っては何だが、覇気とか自信が全く感じられない。
でも、どうして。
斗真は知っているのは当然として、他の三人に懐かしさを感じる。
私は、この三人に以前会ったことがある。
知らず知らずに、夢の自分は喋り出す。
『勇者様!よくぞ、おいでくださいました!』
鈴が転がった様な声。
王女様視点なので分からないが、多分王女様は大輪の花が咲いたかの様に笑っている。
それにしても、勇者?
夢の中の斗真が驚いた様子で、こっちを見て、顔を赤くする。
もしかして、王女様に見惚れた?
斗真も男の子だね。
よく分かんないけど、モヤモヤする。
『ここは「オーロラ王国」の玉座の間。皆さんは、オーロラ王国第一王女である私………』
王女様が自身の名前を言おうとした刹那だった。
「はっ!」
楓は瞼を開け、夢から落ちた。
目が覚めた楓は、ベッドから体を起こす。
そして、先ほど見た夢を思い出す。
夢の中で、自身は第一王女と言っていた。
やっぱり、夢での自分は王女様だったか。
だが…オーロラ王国。
はて…全く聞いたことがない。
そんな国は存在しないはず。
では、架空の国か。
架空の国の王女になって、そこに斗真が出てくる。
本当に不思議な夢だった。
王女様の名前は何だろう。
名前を言おうとしたタイミングで起きてしまった。
斗真が夢に出てきたのは、何でだろう?
夢のことに考えれば、考えるほど、段々と内容を忘れていく。
「う〜ん…どうでも良いか」
ただの夢だ。
楓は背伸びをして、学校に行く支度をして、朝食を取ったのち、家を出た。
そして、高校に着いた時には、既に楓は夢の内容、夢を見たこと自体、完全に忘れていた。
新作です。
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【追放された俺は、不遇職『ドラゴンテイマー』のジョブを駆使して、王女様と一緒に最強を目指す】
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