028他の鬼族
「まずは邪魔な男をやって、鬼族の女を捕まえるとするか」
お面の男が体を多く魔力を解放させた後に、
「我を支える大地の元」
魔法…この世界では妖術の詠唱をし始める。
斗真は急いで矢を番え、弓を持って構える。
詠唱が終了する前に、倒す。
魔法は発動前に叩き潰す。
これは異世界で魔法に習熟している魔族たちと戦う際のセオリーだ。
どんな魔法も発動させなければ、無意味。
と思って、矢を放とうとすると、
「〈土矢〉」
お面の男は土で出来た矢を何本も斗真に放ってきた。
「っ?!」
斗真は瞬時に横へ転がり、回避行動を取る。
「…………詠唱が短い」
斗真は回避した後、首を傾げる。
発動前に攻撃しようとしたが、先にお面の男に魔法を放たれてしまった事にだ。
詠唱する際の時間が短い。
異世界の初級魔法でも、もう少し詠唱は長いぞ。
異世界での魔法と同じ原理で起こる妖術は、魔法と同じく詠唱して発動する。
この世界の妖術の詠唱の時の言葉は、異世界の魔法とは随分違うが、詠唱の言葉の長さ事態は異世界の魔法と概ねの同じだと思っていた。
現に、斗真が退魔士になる試験で妖狐の琴葉と試合をした時に、彼女は詠唱をして妖術を発動していたが、異世界での〈ファイアボール〉と同じものと思われる〈篝火〉は、〈ファイアボール〉の発動詠唱と同じぐらいの文字量であった。
「避けたか………次だ。土よ、集まり塊となれ。〈石塊〉」
お面の男は次の攻撃を繰り出す。
またしても短い詠唱によって作られた大量の石礫が斗真に飛ぶ。
飛んできた石礫を斗真は屈んだり、半身になったり、最小限の足さばきを用いて回避する。
斗真は巧みな回避を持って、危なげなく石礫で避け続ける。
異世界での斗真の武器は弓。
弓には矢を放つ機能しかない。
攻撃を防御する術がないので、攻撃が来たら基本的に回避一択。
異世界で斗真が身に着けた回避技術は、”この程度”の魔法攻撃で当てられるものではない。
「すばしっこいな…………おっと!」
攻撃が当たらないことに苛立っていたお面の男だったが、すぐそばまで楓が迫っていることに気づく。
楓はお面の男が石礫を斗真に放っているのに気を取られている間、お面の男へ接近していたのだ。
楓は〈緋槍〉でお面の男を何度も突く。
けれど、楓の〈緋槍〉に連続突きは、お面の男に当たることは無かった。
お面の男の身体能力は中々のもので、楓の攻撃を涼し気に躱していた。
「我を守る壁を築け。〈結界〉」
お面の男の周りに、半透明の円状の壁が形成される。
それはお面の男がさっき言ったように、〈結界〉であった。
キン!
楓の槍が〈結界〉で弾かれる。
泥田坊と戦う際に、楓が見せたとても長い詠唱を持っての泥田坊がいた田んぼ全体を覆った大規模な〈結界〉とは随分違い、この〈結界〉は範囲が狭く、即席の〈結界〉と言った感じだ。
今度の〈結界〉の発動も、詠唱が短い。
「やっぱり”詠唱省略”。貴方、かなりの妖術使いね」
楓は驚いた表情で、お面の男を見る。
斗真の方は、さっき楓が言った言葉に引っかかるものがあった
詠唱省略、それは異世界でもあった魔法を早く打つための技術。
その名の通り、詠唱を省略することだ。
本来完全に詠唱して発動する魔法を、詠唱を省略することで、早く魔法を放つ技術だ。
単純そうに見えるが、これが中々高等技術であり、相当な技量を持った魔法使いでないと出来ないのだ。
異世界でも詠唱省略が出来たのは、魔法が得意な魔族でも一部の者と、同じく魔法が得意な同じ勇者の雫ぐらいか。
いや、雫はそれより”上”の技術を習得していたな。
「簡易的な〈結界〉にしては強度が高い」
「当然だ。俺の〈結界〉の精度は、仲間の中でも随一。お前のような女に破られる訳がないだろ」
楓は〈緋槍〉で何度も突くが、お面の男の〈結界〉が破られることは無かった。
見たところ、お面の男の〈結界〉は、楓が展開する外から中の景色を隠したりする複雑な機能は無いみたいだが、楓の攻撃を防御するには十分な強度があった。
「土の壁よ、降りたて。〈落石〉」
お面の男の詠唱で、楓の上に大きな石の塊が生成される。
「楓!上だ!」
斗真は、楓に警告する。
ドスン!
大きな音を立て、落ちてきた石の塊が地面に激突する。
あれを直撃していたら、楓も一溜りも無い。
「大丈夫!」
楓は冷や汗を掻きながらも、何とか避けたみたいだ。
けれど、このままでは、お面の男は〈結界〉内の安全圏から、魔法を撃てる。
あの〈結界〉を壊さなくては。
そう思い、斗真は一本の矢を放つ構えを取る。
そして、右手に持った矢と左手に持った弓に、魔力を送り込み、矢と弓を強化させる。
それだけで無く、両腕に魔力を行き渡らせ、腕力も強化させる。
魔力を溜めに溜めた矢の一撃を解き放つ。
「魔剛射」
弓から発射された魔力の矢。
ビュン!!
矢が放たれたとは、到底思えない突風が吹いた音が洞窟内に響く。
斗真の魔力を纏った矢は真っ直ぐお面の男が形成した〈結界〉に向かう。
パリン!
〈結界〉はガラス細工が壊れる時のような音を立てて、射抜かれた。
完全に〈結界〉を破壊したのだ。
目的はあくまで〈結界〉の破壊であったので、〈結界〉の中にいるお面の男には当たっていない。
「馬鹿な?!」
自慢の〈結界〉を破壊されたのが、余程ショックだったのか。
お面の男は酷く狼狽する。
これが斗真が異世界で身に着けた戦闘技術である「魔剛射」だ。
弓と矢に魔力を纏わせ、武器自体の強度を上げ、腕力を大幅に上げることで、並みの魔族は一撃で葬れる威力を引き出す。
これも久々に使ったが、技は鈍っていなかった。
手に持った投石物に魔力を纏わせ、強化した腕力を用いて、魔力の弾丸のごとく敵を砕く「魔弾」と似ているところがあるが、そもそもが「魔弾」自体が「魔剛射」を習得する過程で習得した技である。
つまり、実質的に「魔剛射」は、「魔弾」の上位互換と言う訳だ。
「はあ!」
「ちっ!」
〈結界〉を破壊されたことで、丸腰になったお面の男に、楓が〈緋槍〉で猛攻を仕掛ける。
楓の攻撃に避けるのに、集中している今が隙だと思い、斗真は矢を素早く番え、もう一発放つ。
放たれた矢は狙い違わず、お面の男が被っている面の端に直撃する。
「うっ?!」
お面は外れ、地面に落ちる。
お面の男の素顔が明らかになる。
しかし、その顔には、
「なっ?!」
斗真は面が外れた男の顔を見て、驚愕する。
もっと具体的に言うと、男の頭の上を見て、驚愕したのだ。
「その角は?!」
楓も男の頭の上を見て、驚きの顔をする。
なんと男の頭の上には、二本の角が生えていたのだ。
これと同じものを持っている人……いや、妖怪を斗真は知っている。
言わずもがな、楓だ。
お面の男は、楓と同じ鬼族だったのだ。




