027お面の男
「無事か?」
「何とか」
斗真は洞窟の入り口から土蜘蛛の糸が大量に張り付いている地面の場所を器用に避けながら、楓の元に行く。
斗真は楓の体に纏わりついている糸を取る。
「土蜘蛛は倒したみたいだね」
楓は草履を履き直して、土蜘蛛がいた場所を見る。
土蜘蛛の方は煙のように消えたため、退治された訳だが、消えた土蜘蛛の場所から魔力の反応を感じる。
斗真はスキルである〈魔力眼〉で見ると、土蜘蛛が消えた場所に幾つもの魔力の玉があり、次の瞬間には、その玉が上へ向かう。
上へ向かった玉は、天井から垂れた糸にぶら下げられている複数の繭にそれぞれ入っていく。
すると、繭が途端に勢いよく動き出す。
「土蜘蛛が退治されたことで、今まで繭から吸っていた妖気が持ち主に戻ったみたいだね」
楓は土蜘蛛が退治された場所から魔力が飛び出て、繭に向かった理由を説明する。
「ということは繭に捉えられているのは、妖怪か」
「そうね。河童の人たちは何人かの妖怪が土蜘蛛の犠牲になったと言ってたから、多分その妖怪たちだと思う」
楓が言うには、土蜘蛛は自然界にいる蜘蛛と似たように、糸を巧みに使って、獲物を捕らえる。
その捉えた獲物を口内にある毒の牙で弱らせてから、繭状にして、長い時間に繭から妖気を吸い、成長する妖獣とのこと。
「なら、助けないと」
シュ!シュ!シュ!
斗真は弓の弦に矢を添え、放つ。
複数本放った矢は天井にぶら下げられている繭の糸を射抜く。
天井にぶら下げられた繭は全て地面に落ちる。
斗真と楓は繭に駆け寄り、協力して繭を包んでいる糸を解く。
複数の繭を解くと、その中には妖気を長いこと吸われたのか、ぐったりとした様子の妖怪たちがいた。
「う~ん…」
「ああ…気分が悪い」
「あんたたちが助けてくれたのか…………あんがとよ」
捕らわれていた妖怪は、唐傘お化けや一つ目小僧、のっぺらぼう等、本やアニメでよく出てくる一般的な妖怪であった。
まぁ…こういった妖怪を普通、現実で見るものではないが、斗真もこの世界に帰ってきてから、妖怪を見慣れたものである。
妖怪を繭から解放した後、斗真は土蜘蛛の体が消えたことによって、地面に落ちた矢を回収する。
「それにしても………危ないところだったかな。ここに付いた時には、楓が土蜘蛛から攻撃を受けてたからな」
「ごめんなさい。ちょっと気になることがあって、斗真を待たずに、土蜘蛛と戦ったわ」
先走って戦ったことを申し訳なさそう言う楓に、斗真はキョトンとする。
「気になること?」
「うん。そう言えば、まだ斗真には伝えてなかったね。最近、日本の至る場所で土蜘蛛が頻繁に出没、目撃されているの」
「そうなのか。こんな奴が全国中に」
斗真が今回倒した土蜘蛛。
第三者が見れば、遠くから矢を数本放っただけで、楽に倒されたように見えるだろうが、実の土蜘蛛は無断ならない相手であると斗真自身は思っている。
土蜘蛛を見た瞬間、斗真は無意識に異世界で何度も戦ってきたマーダースパイダーを思い出したのだ。
マーダースパイダーは、人殺し蜘蛛と言う異名の通り、人を好んで襲い、殺す魔物である。
何より、マーダースパイダーは魔族たちがよく使役していた魔物であった。
「土蜘蛛が大量に現れているのも問題だけど、本当の問題は別にある。まだ未確定だけど…………その土蜘蛛の大量出没の裏には、ある妖怪が関わっているらしくて」
「ある妖怪?」
「うん。……………………私と同じ鬼ぞ」
「これはどういうことだ?」
唐突に、斗真でも楓でもない男性と思われる声がする。
二人は一斉に声の方を見る。
声の主は洞窟の入り口に立っていた。
背丈は斗真と同じぐらいで、体を布で覆っていた。
姿形は人間のようで、さっきの声から男性だろうか。
だが、何より特徴的なのは、黒と赤の混ざった奇妙なお面を付けている事と少し離れていても分かるほど魔力を纏っている事か。
何となく、少し不気味な感じだ。
纏っている魔力も楓に匹敵、つまり魔族と同等の魔力量である。
「俺の出した土蜘蛛がいない。まさか、やられた?……………………お前たちがやったのか?」
土蜘蛛を倒したのは、斗真たちなのかと、お面の男は問いかける。
俺の出した土蜘蛛……どういうことだ?
もしかして、こいつが土蜘蛛を放ったと言うのか。
斗真と楓は顔を見合わせて、楓が一歩前に出る。
「はい。私達が土蜘蛛を退治しました」
斗真の方はいつでも矢を放てるように、準備していた。
「対峙した?ってことは、お前たちは退魔士か?」
「はい。私たちは退魔士です」
それを聞くと、お面の男は舌打ちをする。
「余計なことしやがって。折角、土蜘蛛を解放したのに。また『統領』に咎められる」
お面の男は傍から見てもイラついたように見える。
しかし、お面の男は楓の方を見て、
「…………ん?赤っぽい髪の…女のお前。その角……もしや」
お面の男はお面越しからでも、楓……もっと言うと、楓の頭の上にある鬼族特有の角をジッと見ているのが分かる。
「お前、鬼族か?!」
お面の男の驚き声で、鬼族かと聞かれ、意表を突かれながらも楓は肯定する。
「え……ええ。私は見ての通り、鬼族です」
楓が鬼族であると知ったお面の男は一瞬黙り込み、次第に男の口から小さな笑い声が聞こえてくる。
「くっくっく………まさか、こんなところで鬼族に出会うとは」
お面で分からないが、お面の下で男は獰猛な笑みを浮かべていると、斗真と楓は想像した。
嫌な予感を、斗真は感じ取った。
「こりゃあ良い。俺も運が回ってきたのか。コイツを捕まえて、帰れば…………」
お面の男は体から強力な魔力を放出させる。
その強力な魔力の放出から、斗真の脳裏に魔族と言う存在を想起させた。
お面の男が次に何をやるのかは、分からないが、少なくとも良い事ではないのは確かだ。
「斗真!」
「ああ!」
楓の掛け掛けに、斗真は弓を構える。
楓も頭の髪から〈緋槍〉を取り出し、臨戦態勢を取る。
第二ラウンドの開始だ。




