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『退魔鬼譚』 ~妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 保志真佐
第三章 河童と土蜘蛛

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026土蜘蛛②




 楓が斗真の到着を待たずに、横穴の中へ入った。


 横穴の中は、かなり大きな空間となっていた。

 学校の体育館ほどではないが、それでも教室一つ分よりは明らかに大きい。


 なにより、天井が高いのだ。


 その空間内は、太陽光が直接差している訳ではないので、薄暗かったが、それでも目をよく凝らせば、いろいろな物が見えていた。


 空間の壁の至る所に、白い線がたくさん張り巡らされていた。

 それは上に行くほど、密度が高いくなっていく。


 「あれは?!」


 楓が天井を見上げると、そこには白い繭で出来た物が複数個、天井から垂れた糸にぶら下がっており、その繭は微かに動いていた。


 恐らく、繭の中には生きている者たちがいるのだろう。


 河童のお頭は言っていた。

 現れた土蜘蛛のせいで、河童たち以外の何人かの妖怪が犠牲になったと。


 繭に捉えられているのは、その彼らだ。


 そして、捉えたのは、今も天井で糸を張り巡らせている黄色と白の縞々模様の十メートル以上もある巨大な蜘蛛………土蜘蛛だ。


 やはり、ここに居た。


 土蜘蛛は、その巨体から出る大きな糸を用いて、獲物を捕らえ、口にある牙の毒で獲物を弱らせる。

 そして、弱らせた獲物を繭状にして、時間を掛けて妖気を吸っていき、成長する妖獣なのだ。


 放っておけば、この土蜘蛛はさらに大きく成長するだろう。


 「ジュッ!ジュッ!ジュッ!」


 土蜘蛛は横穴から入ってきた楓に赤い眼を向け、鬼のような顔の口から奇怪な音を発する。


 まるで笑うようにして、土蜘蛛は糸を使い、天井から降りてきた。

 侵入してきた楓を獲物と思っているみたいだ。


 「〈緋槍〉」


 楓は自身の緋色の髪の毛から一本を抜き取り、そこに妖気を込め、一つの緋色の槍にする。

 それを楓は構える。


 「ジュ!」


 次の瞬間、土蜘蛛は口から太い糸を楓へ吐く。


 「は!」


 獲物を捕らえるための糸を、楓は〈緋槍〉で薙ぎ払う。


 けれど、


 「くっ付く!」


 土蜘蛛の糸は楓が持つ〈緋槍〉の穂先に引っ付いていた。


 「ジュ!ジュ!ジュ!」


 畳みかけるように、土蜘蛛は糸を吐き続ける。

 糸に絡まれた〈緋槍〉では、武器として扱えないと判断した楓は、持っている〈緋槍〉を投げ捨て、右横へ回避する。


 回避した楓はすかさず、髪に手を持って行き、髪の毛を数本抜き取る。


 「〈緋槍〉〈緋針〉」


 抜き取った髪の毛に再び妖気を流し、一本の槍と、数本の緋色の針を生成する。


 楓が作る〈緋槍〉や〈緋針〉は、使えなくなったとしても、髪の毛一本あれば作ることが出来る。

 つまり、楓には己の武器が使えなくなって失うデメリットが無いのだ。


 楓は右手で〈緋槍〉を持ち、左手に持った数本の〈緋針〉を土蜘蛛へ投げる。


 放たれた〈緋針〉は土蜘蛛の頭部に向かう。


 「ジュジュ!」


 それを土蜘蛛は長い前足を活かし、弾くが二本の〈緋針〉が刺さる。


 〈緋針〉が刺さったことで怒ったのか、土蜘蛛は天井や壁に張り巡らせてある糸を伝いながら、口から大量の糸を楓へ吐く。


 楓はそれを〈緋槍〉で薙ぎ払うのではなく、全て回避する。

 また糸が張り付いたら、面倒である。


 そして、回避しつつも、髪の毛から新しい〈緋針〉を取り出しては、土蜘蛛に投げつけていた。


 土蜘蛛の糸による攻撃を回避してからの〈緋針〉の投石の繰り返し。

 次第に、土蜘蛛の体や前足に緋色の針が何本も刺さっていく。


 いくら細い〈緋針〉とはいえ、何本も体に刺さり続けていたら、かなりの苦痛を伴う。

 土蜘蛛も痛みからか、天井や壁を這う際の動きが鈍くなってきていた。


 壁を移動している最中、楓が放つ〈緋針〉が土蜘蛛の頭部に刺さる。

 それにより、痛みで一瞬動きを止める。


 「はっ!」


 それを見逃さず、楓は履いている妖具『飛翔草履』を蹴り飛ばす。

 黒い草履は二つとも、風切り音を出しながら、勢いよく土蜘蛛へ飛ぶ。


 「ジュジュ?!」


 草履は見事に、土蜘蛛の腹部に命中。

 そのまま土蜘蛛は体制を崩し、地面を落ちる。


 今が好機を捉えた楓は即座に、土蜘蛛へ駆け寄る。


 けれど…………グチャ。


 「え?」


 急に走れなくなる。

 床に縫い付けられたように、素足が地面にくっ付いたのだ。


 離そうと思っても中々、足が地面から離れない。

 楓は足に力を入れ、無理やり地面にくっ付いた足を離す。


 すると、楓の綺麗な素足の足裏に、粘着性のある白い線が何本もこびり付いていたのだ。

 それが地面と足をくっ付けさせていたらしい。


 この粘着性のある白い線の正体は、土蜘蛛の糸。


 この時、楓は全く気付かなかった。


 楓が土蜘蛛からの糸を回避しつつ、〈緋針〉を投げることで土蜘蛛に少しづつダメージを与えて戦っていたが、楓の知らず内に、地面には土蜘蛛が放った糸が大量に付着していた。


 楓が戦っている場所は薄暗く、土蜘蛛は常に天井や天井に近い壁を伝って、楓へ糸を放っていたため、楓の視線や意識は上の方に向いており、地面の糸に気が付かなかったのだ。


 楓は足に付いた土蜘蛛の糸を剥がす。

 粘着性は高いが、剥がせない程ではない。


 楓は混乱で周囲を見ていなかったが、土蜘蛛に放っていた『飛翔草履』も天井に張り巡らせた糸に絡まって、楓の元に飛んで来ることは出来なかった。


 楓は何とか糸を剥がすのだが、


 「あっ!」


 土蜘蛛も動きの止まった楓を見逃すことは無く、口から糸を放つ。

 その糸は楓に命中する。


 「こ、この!」


 命中したことで、体中に糸が纏わりつき、身動きが取りづらくなる。


 楓はどうにか、糸を取り除こうと思うが、右腕に付いた糸を取っても、それが左腕にくっ付き、左足に付いた糸を取っても、それによって別の場所に糸がくっ付く。


 さながら、蜘蛛の巣に引っかかった獲物である。


 「ジュ!ジュ!ジュ!」


 土蜘蛛は巣に掛かった獲物を、笑い声のような音を出しながら、楓に近づく。


 シュ!

 ある程度近づいた土蜘蛛は長い前足の先にある鍵爪で、楓を攻撃する。


 「うぐ?!」


 盾に振るわれた土蜘蛛の鍵爪は楓の来ている上着を切り裂き、そのまま下着も切り裂く。


 幸い、膨大な妖気を持っている楓はその妖気によって高い身体能力を持っているので、体も頑丈である。

 服が切り裂かれる程度で済んだ。


 しかし、土蜘蛛の攻撃はそれで終わりではなく、次々に前足での鍵爪で楓を切り裂こうとする。


 糸に捕らわれた楓は満足に動くことも出来ず、諸に土蜘蛛を貰うことになる。

 それによって、楓が来ている上半身部分の服がボロボロになっていき、白身のある肌が露になる。


 楓は反撃とばかりに、〈緋槍〉を振るおうとするが、糸が絡みついた体では十分に振るえない。


 これは不味い。

 そう、楓が思った時だった。


 シュン!シュン!シュン!


 高速で飛来した三本の攻撃が土蜘蛛へ向かい、胴体、右前足、左前脚のそれぞれに命中する。


 「ジュジュ?!」


 土蜘蛛は混乱し、楓から下がる。


 よく見ると、胴体、右前足、左前脚に命中しているのは、矢であった。


 つまり、三本の矢で土蜘蛛を射抜いたのである。

 驚くべきは、その精密な射撃。


 胴体ならまだしも、楓を攻撃している最中の二つの前足に矢を当てるなど、並みの技量では出来ない事だ。


 これをやったのは、


 「ふぅ…こっちの世界に帰ってきて、初めて弓矢を扱ったけど、腕は鈍ってないみたいだ」


 楓は振り返る。

 そこには、横穴の入り口で左手に弓を持ち、右手で矢を持った斗真がいた。


 こっちの世界に帰ってきて…という言葉は意味は分からないが。


 「斗真!」

 「ごめん、遅くなった」


 そう言って、斗真は矢を弓の弦に当て、狙いを定め、放つ。


 シュン!

 目に留まらぬ速さで放たれた矢は空を切り、新たに現れた侵入者である斗真へ糸を吐こうとして、開けた口に命中した。


 「なんて弓の腕なの」


 楓はただ感嘆するしかなかった。

 彼女にとって、弓に関しては素人だが、今見せた斗真の弓に技術は見事なまでに洗練されていると分かる。


 土蜘蛛は一瞬痙攣したような反応を見せる。


 それに続いた斗真の連射によって、二本の矢が頭部を射抜く。


 頭部を射抜かれた土蜘蛛は、そのまま体を力なく倒し、煙のように消える。

 退治されたと言うことだ。




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