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002緋色の髪の少女

ヒロイン登場!




 魔力を感じた方向に走っていくこと、数分。


 そこは、今は使われていないであろう多くの田んぼがある場所だった。


 静かさだけが残る農作の跡地が、逆に不気味である。

 一見すると、何も無いように見える。


 だが、斗真は前方から大きな魔力が発されているのを感じている。


 「〈魔力眼〉」


 斗真は〈魔力眼〉を使い、魔力の発生源を可視化させる。


 田んぼがある場所を見ると、そこには〈魔力眼〉を通して、巨大な青い半球状の何かが確認できる。


 「これは………〈フィールド〉?」


 それは二階建ての一軒家や小さいアパート程度なら、丸々収まるほどの大きな魔力の半球状の壁であった。


 斗真には、これに関して心当たりがあった。


 異世界で、良く目にする〈フィールド〉と呼ばれる魔法だ。


 自身や特定の物を中心に、半球状の不可視の壁を展開する魔法である。

 主に、敵の攻撃を防御するための魔法として使われる。


 〈フィールド〉自体なら、比較的簡単に習得できる。


 斗真は顔をしかめる。

 〈フィールド〉に関しては、苦い記憶があるのだ。


 何を隠そう、魔族たちの得意魔法の一つが、この〈フィールド〉だった。


 異世界では、勇者を除いて魔力を持った人間は多くいる訳ではないが、魔族たちは全員魔力を持っており、強力な魔法が使えた。


 しかも、魔族の魔力量は個体によっては、勇者顔負けの魔力量を持っている。


 つまり、魔族の中には勇者と同等のスペックを持った奴もいるのだ。


 魔族が出す〈フィールド〉に、異世界で斗真たちは苦しめられた。


 通常、〈フィールド〉はアニメやゲームのように、見えないバイアを作るもの。


 だが、魔族によっては、攻撃を防ぐだけのバイアとして使うのではなく、音や光などの特定の物の遮断、〈フィールド〉内の光景を隠蔽する際にも、使うことが出来る。


 斗真は〈フィールド〉に近づき、右手で触れる。


 右手で触れる。

 右手は問題なく、〈フィールド〉内に入れることが出来た。


 斗真はさらに顔をしかめる。


 この〈フィールド〉は、おそらく〈フィールド〉内の状況を隠蔽する機能がある。


 そして、右手が入れられるという事は、この〈フィールド〉は阻む対象物を選別できるという訳だ。


 高度な〈フィールド〉である証拠だ。


 ここまでの〈フィールド〉を展開できるのは、斗真が知る限り、勇者である雫か、魔族しかいない。


 雫では無いとするなら、魔法の精通した魔族の仕業である。

 つまり、強い魔族がいる。


 まさか、元の世界でも魔族が?!


 斗真は深呼吸をした後、〈フィールド〉を潜る。


 魔力の壁を通り抜け、別の世界に入ったような感覚を覚える。


 〈フィールド〉内の光景を斗真が目にする。


 そこには、


 「「「「「ギギャギャ!!」」」」」

 「はっ!」


 前方に、五十体を超える小さい角を生やした緑色の小柄な怪物がいた。


 だが、それだけではない。

 緑の怪物たちと戦っている緋色の髪の少女がいたのだ。 


 斗真は緑色の怪物に、見覚えがあった。


 「魔物…ゴブリンか?!」


 異世界で定番の雑魚魔物ゴブリンだった。


 魔物とは、異世界にいる魔力を持ったモンスターの事である。


 魔族に続いて、魔物までいるのか?


 異世界に言った時は、魔族だけでなく、魔物とも戦った。

 と言うか寧ろ、魔族よりも魔物と戦った機会がずっと多い。


 魔物は種類によって、強さが全く異なる。

 魔力を持たない一般兵士でも勝てる魔物もいれば、魔族並みに強い魔物もいる。


 ゴブリンは異世界で最も多い魔物であり、最弱の魔物である。


 一体の強さ自体は魔力を持った人でなくとも、武器を持っていれば、普通に勝てるぐらいに弱い。


 だが、ゴブリンの強みは数だ。

 奴らは徒党を組んで家畜や農作物を荒らす厄介な魔物だ。


 五十体ともなれば、中々の脅威である。


 ゴブリンがここにいる理由が分からず、斗真はゴブリンをよく見ると、違和感を持つ。


 角を持った緑色の怪物は確かに、ゴブリンにそっくりなのだが、若干違う。


 異世界のゴブリンは、もっと小説に出てきそうな醜悪な見た目だが、こっちのは顔が厳つい。

 それに手には、小さい金棒らしき物を持っている。


 さながらイラストで見るような”鬼”に近いイメージだ。


 斗真はゴブリンもどきから目を離し、少女の方を見る。


 夕暮れ時なので、はっきりと見えないが、斗真と同い年ほどの少女である。


 黒を基調にしたブレザーやスカーフ、赤い蝶ネクタイ。

 女子の学生服だ。


 しかも、斗真が通う高校の女子生徒の学生服だった。

 という事は、彼女は斗真の高校の女子生徒になる。


 そして、足の方は素足に、京都の舞妓さんが履くような黒い草履を履いている。


 学生服と草履と言う、余り無い格好。


 さらに特徴的なのは、紅葉と同じ赤を落とし込んだ緋色の髪。

 短い緋色の髪が、夕日で赤く煌めいている様だ。


 頭の上にある細く短い二本の棒のような物。

 白い突起物が彼女の頭に生えていた。


 極めつけは、少女から滾る強力な魔力。


 波の魔力では無い。

 下手をすれば、魔族レベル。


 少女を見ていたら、斗真は当然にハッとして、目を見開く。


 思い出したのだ。

 高校に入学したばかりからの、五年間の異世界生活で、高校の記憶はかなり薄れているが、彼女は知っている。


 あの緋色の髪。

 彼女は斗真の高校のクラスメートである。


 どうして、彼女がここに?


 目の前の状況に対して、次々に疑問が湧き上がってくる。


 「せあ!」


 少女は細長い赤い槍のような物を手に、ゴブリンもどきと奮闘していた。


 軽やかな動きで、ゴブリンもどきを金棒による攻撃を躱しつつ、赤い槍から鋭い突きや薙ぎ払いで攻撃をしていた。


 彼女はその魔力量から高い身体能力を有しているだけでなく、武道の心得もあるみたいだ。


 赤い槍が一体のゴブリンもどきの首に刺さる。


 「ギャア?!」


 ゴブリンもどきは悲鳴を上げる。


 ゴブリンだったら、この一撃で死ぬだろう。

 斗真の予想通り、ゴブリンもどきが倒れる。


 それだけでなく、ゴブリンもどきは煙のように消えてしまった。


 異世界のゴブリンは死ぬと消えたりしないが、どうやらゴブリンもどきは消えるみたいだ。


 「うっ?!」


 ここで、ゴブリンもどきの金棒の一撃が少女の腕に当たる。


 少女が僅かに苦悶の顔を浮かべる。


 悠長に戦いを見ている余裕は、斗真に無かった。

 見たところ、少女は多数いるゴブリンもどきに苦戦しているようだ。


 目の前で必死に戦う少女がいる。

 五年間、異世界で勇者をしていた斗真の体は勝手に動いた。


 斗真は少女に駆け寄り、


 「おりゃ!」

 「ギギャ?!」


 少女の目の前にいるゴブリンもどきを蹴り飛ばす。


 ふんだんに魔力を込めた足の蹴りだ。


 ゴブリンもどきは白目で吹っ飛ばされ、そのまま煙のように消える。


 「加勢する!」

 「え?」


 突如、斗真に声を掛けられた少女は驚きながら、こちらを慌てて見る。


 「な、な、何でここに人が?!」


 彼女は一旦、ゴブリンもどきと距離を取りながら、かなり戸惑った様子で斗真を見る。


 髪と同じく緋色の目が大きく見開かれる。

 その端正な少女の顔立ちに、斗真は一瞬息を飲む。


 やはり、彼女は俺の知っている人物だ。


 彼女がここでゴブリンもどきと戦っているの理由が非常に気になるが、質問する時間は無い。


 「俺も戦う!」


 斗真はバックステップを取ってから、重心を落として、両手を前に持っていく。


 ここには、斗真が異世界で愛用していた武器は無い。

 だから、素手で戦う。


 こう見えても、素手の方にも自信はある。


 少女は斗真とゴブリンもどきを交互に見た後、


 「み、右の緑鬼たちをお願い。私は左をやる!」

 「分かった!」


 斗真を味方と判断したようで、共闘することになった。


 こうして、異世界から帰って早々、斗真はまた戦う羽目になったのだ。




この世界に戻ってからの初の戦闘。

ヒロインの正体とは?

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