022河童②
楓と五月の買い物に付き合わされた翌日。
つまり、ゴールデンウィーク三日目。
「「…………」」
斗真と楓は午前から、目の前の八百屋を無言で見張っていた。
どうして見張っているかと言うと、キュウリを盗んだ犯人が現れるのを待っているのだ。
一昨日と昨日にかけて、商店街の全ての八百屋からキュウリが無くなるという奇妙な出来事が起こった。
この事件の犯人は恐らく、妖怪である河童。
しかも、キュウリが無くなった八百屋の数と範囲から考えて、集団での可能性が高い。
だが、楓に聞いた見たところ、どうやらここ隗隗街には河童はいないらしいのだ。
正確には、ここではなく、別の町の川辺に河童の集団がいるみたいなのだが。
何故、河童の集団がこの街でキュウリを盗むのか、それを探るために、二時間も八百屋を見張っているのだが、
「………現れないな」
つい、ぼやく斗真。
時刻は正午近くになったが、未だ今日のキュウリは盗まれていない。
その時、
「あら、楓ちゃんと斗真くん」
斗真と楓に声を掛ける者がいた。
それは黒い髪を纏め、葉っぱの意匠が施された緑色の着物をきた三十台の女性。
「あ!ナガさん」
斗真が言った通り、声を掛けたのは、ろくろ首の長塚長子…通称、ナガさんであった。
彼女は、表では老舗の駄菓子屋「ながつか」の営んでおり、退魔士が使う妖具を管理する役目を持った人でもある。
「こんな所でじっとして、二人共どうしたのかしら?」
長塚は首を傾ける。
長塚の方は、買い物かごを持っており、恐らく買い物に商店街へ来たのだろう。
「実は、今…張り込みをしていまして」
「張り込み?」
「一昨日と昨日、八百屋からキュウリを盗んだ犯人を捕まえようとしてまして」
長塚の疑問に、楓が答える。
「ああ!キュウリね。噂になっているわよ。八百屋さんの人たち、キュウリが無いって騒いでたわね」
長塚はポンっと手を叩く。
そして、考えるように頬に手を添える。
「やっぱり、妖怪…………河童さんの仕業よね。でも…………」
「確か、河童はこの街ではなく、別の街にいたはずです」
「そうよね…楓ちゃんの言う通り。河童さんたちは隣の、隣の…………またその隣の街にいるはずなのよね」
楓と長塚は、河童がこの街にいることが不可解のようだ。
もし、今回の騒動の原因である河童が、その別の街に住んでいる河童なら、何故この街に来て、キュウリを盗むのかと言う話になる。
何かの理由はあるはず。
だが、考えたところで理由は分からない。
盗んだ者達に直接聞かない限りは。
「そう言えば、”子冬”は元気ですか?」
いきなり、楓は話題転換する。
子冬……というのは、「ながつか」にいた、あの小学生程の白い髪とアイスブルーの瞳を持った女の子の事だ。
楓曰く、過去にいろいろあって人と会話が難しいとこと。
「ああ、子冬ちゃんね!元気よ。まだ、ちょっと人見知りなところはあるけど」
「そうですか」
元気と言われ、楓は安堵の表情を浮かべる。
斗真が子冬と言う子に始めた会った時もそうだが、楓と子冬には何か深い関係がありそうである。
「少しずつだけど、私にも口をきいてくれるようになったのよ。…………あ、そうそう。最近は新しい人が「ながつか」に来てくれたんだけど、その人も子冬ちゃんと会話しようと頑張ってるのよ」
長塚が小さく笑いながら話す。
「新しい人?「ながつか」に新しい人が働きに来たんですか?」
楓は首を傾げていた。
「あら、楓ちゃんには、まだ詳しく言ってなかったわね。その人は…………」
「あ!まただ!」
長塚が話していた途中で、斗真たちの耳に怒号が聞こえる。
慌てて、斗真が顔をそちらに向ける。
怒号の元はさっきまで斗真と楓が見張っていた八百屋の店主の声だ。
斗真はもしやと思い、八百屋にあるキュウリの棚を見ると、そこには何も無かった。
とうとうキュウリが盗まれたのだ。
斗真は犯人を見つけるべく視線を彷徨わせる。
八百屋周辺は人がかなりいたので、中々見つからなかった斗真はスキルを発動する。
「〈万能眼〉〈魔力眼〉」
〈魔力眼〉によって、視界全体の魔力が可視化される。
そして、見つけた。
魔力を帯びていたので、すぐに分かった。
ソイツは小学生と同等の体格であり、顔に布を巻いていた。
手にたくさんのキュウリを抱えている。
ソイツが犯人で間違いない。
見える魔力からして、ソイツは妖怪。
妖怪は斗真のような妖人や同じ妖怪でなければ、見えない。
だから、キュウリが盗まれても、誰も犯人を見つけられなかった。
「あっちに行ったな」
斗真は〈魔力眼〉を発動したまま、犯人を追う。
「待って、斗真!ナガさん、私行きます!」
「あら…そう。また今度ね」
楓は斗真を追った。
斗真は犯人に気づかれないように、慎重に追跡した。
斗真が犯人を追っている内に、段々と商店街から川がある方向へ向かっていた。
さらに向かう先は、隗隗街の近くにある山から流れ出ている川の上流。
斗真は気づけば、山の入り口に入り、日光が余りは要らない森の深くにまで足を踏み入れていた。
「はぁ!はぁ!斗真、足速い!」
遅れて、楓が斗真に追いつく。
「それでキュウリを盗んだ奴は?」
「あそこにいる。たくさん」
斗真は顔を向けた方向には、山の中を流れる川のそばで、ソイツが盗んだキュウリを地面の置いていた。
それだけでなく、同じようにキュウリを盗んできたのであろう者達が川の付近にいたのだ。
みんな、背丈は似ている。
斗真と楓は顔を見合わせ、ゆっくりと彼らの元へ行く。
十分近づいた後、
「貴方たちがキュウリを盗んだ犯人たちね」
「「「っ?!」」」
楓に声を掛けられ、彼らは一斉に驚く。
その際に、顔に巻いていた布が取れる。
近づいて見て、分かった。
彼らの手足は異様に細長く、緑色の肌をしていた。
後方には亀が持つ甲羅。
そして、顔にはアヒルのような嘴に、頭の上に丸い皿。
間違いない。
斗真と楓が予想した通り、キュウリを盗んだ犯人たちは河童であった。




