020友達になって
「そ、そっちは柊さん?で、でも…角があるニャア」
猫宮は楓の頭に生えた角を見て、驚く。
流石に、学校一の美少女と言われている楓は分かるみたいだ。
「私の事を知っているということは、貴方は猫宮さんで間違いないね。菊池さんが追いかけてた子は、猫宮さんで間違いないですか?」
楓は後ろを振り返って、そう言った。
「ええ、そうね。間違いないわ」
そこには、大きなマスクを付けた口裂け女がいた。
彼女には、菊池と言う名前があったみたいだ。
「ギャアア?!普通にいるニャア!!」
菊池を見た猫宮は悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと!落ち着いて、猫宮さん!」
楓は悲鳴を上げる猫宮を落ち着かせようと努める。
猫宮が何とか落ち着いたのは、三十分経った後だった。
「ま、まさか…柊さんが”あの”『鬼族』で、退魔士だったなんて、知らなかったニャア」
落ち着いた猫宮は「姿化かし」である装着式のピアスを嵌めて、人の姿になる。
人の姿は、マニキュアの爪にアクセサリーをたくさんつけており、猫背に丸みのある髪と、やっぱり猫っぽい。
口裂け女の大きなマスクや猫宮のピアスと言い、「姿化かし」には色んなものがあるんだな。
「それで、そっちは…………」
「星原斗真だ」
「そうそう、星原くん!ごめんごめん。君って、影が薄いから名前が思い出せなかったニャア」
「影が薄いのは、否定しない」
悪びれることなく言う猫宮に、斗真は何故か怒る気も無く、ため息をつく。
「星原くんは妖人なんだね。意外ニャア」
「そっちこそ、妖怪だと思って…………だとは思ってた。少しだけ」
「ニャ?どういう意味ニャア」
首を傾げる猫宮に、斗真は目線を逸らす。
その独特な語尾で、斗真はもしかして猫宮は妖怪なのでは思っていたが、本当にそうだったとは。
「口癖で猫っぽいと思っていたら、まさか本当に猫だったとは」
「この口癖は生まれた時からニャア」
猫宮は自慢げに言った。
そこへ、
「えっと…猫宮さん」
口裂け女が猫宮に話しかける。
「な、なんニャア?!」
大きく戸惑う猫宮。
菊池は猫宮に向かって、頭を下げた。
「怖がらせて、ごめんなさい」
「ニャ?」
いきなり頭を下げたことに、猫宮はさらに戸惑う。
「身勝手な理由で、貴方を怖がらせてしまったわ」
「ああ、それですかニャア」
猫宮は一応、菊池の事情は聞いた。
会社をリストラされた時のストレスで行ったことと。
「ま、まぁ…私、もう気にしてませんからニャア」
猫宮は菊池を攻めるような気持ちは無いと言う。
猫宮の返答に、菊池はマスク越しだか、笑っていた。
「ありがとう。………………でも、女性に化け物なんて言っちゃ駄目だよ」
「ひぃ!き、気を付けますニャア!」
一瞬睨んだ菊池に、猫宮は体をビクつかせたのだった。
こうして、退魔士になってから斗真の初任務は呆気なく終わった。
斗真たちは廃ビルを出る。
「これから、どうするんだ?」
「後は任務が無事解決したと、役所に電話するだけ」
「あれ?役所に行ったりしないんだ?」
緑鬼と泥田坊の時は倒した後、楓は役所に行っていた。
「あれは妖獣を退治した時よ。今日みたいな妖怪関係のトラブルは電話で連絡するだけでいいの」
「そういうもんなのか」
取り敢えず、斗真と楓と猫宮は駅の方へ向かった。
「私はここで」
駅の近くに来てから、口裂け女の菊池が斗真たちと別れる。
これからどうするのかと聞いたら、また別の職を探すとのこと。
妖怪の働き手がどこにあるのか分からないが。
菊池と別れてから、斗真たちはそれぞれの家へ帰ろうとするが、途中までの帰路で、
「柊さんって、妖獣を退治したり、妖怪の面倒ごとを解決する退魔士だったことには驚いたけど、何か納得ニャ」
猫宮が楓に話し始める。
楓は顔を傾ける。
「納得?」
「そうニャア。柊さん、「孤高の美少女」と呼ばれてたから、退魔士みたいな雰囲気あるニャ」
「孤高の美少女」と言われ、楓は頬を引きつかせる。
「こ、孤高の美少女?!」
「も、勿論!陰でだよニャア!」
猫宮も慌てて訂正する。
「ほら…柊さんって、教室だと口数が少ないじゃない?ちょっと不愛想と言うか……いろんな人が遊びに誘っても、断り続けてたからニャア」
クラスでの楓は基本、人と群れることは無かったな。
朝のホームルーム前や休み時間は、一人で黙々と参考書を読んでいたり、スマホを見ていたりしていた。
文武両道ではあるが、誰とも仲よくしようともしなかったから、きっと「孤高の美少女」と呼ばれたのだろう。
「あ、あれは…高校の入学したては退魔士としての試験とか、訓練があったから。それにもし、誰かと遊んでいる時に退魔士の任務が入ったら、その人に悪いと思って。口数が少ないのは、そもそも元からだよ」
いろいろ言う楓を見て、猫宮は小さく笑う。
「でも、安心したニャア。柊さんは不愛想とか、そんなんじゃ無かったニャ」
猫宮は隣を歩く、楓の手を取る。
「ねぇ、柊さん………いや、楓。私と友達にならない?」
「へ?友達?」
楓が目を大きく開く。
「そ。これも何かの縁ニャ。私、楓が退魔士でも全然気にしない。友達になろうニャア」
「………友達」
猫宮の純粋な瞳を受け、楓は押し負ける。
「分かったわ。これから友達ね」
了承を受けた猫宮は拳を上げて、喜ぶ。
「やったニャア!友達、また一つゲットだニャア!」
「どこのアニメのセリフだ」
つい、横で聞いていた斗真が突っ込む。
「じゃあ、ついでに星原……………え~と」
「斗真な!」
「そうそう、斗真。斗真もついでに友達ニャア」
「ついでかよ?!」
またしても、突っ込みを入れる斗真。
肩を落としつつも、やっぱり友達が増えるのは、良い気持ちになる。
「それじゃあ、私の事は猫宮じゃなくて、五月と呼んで!」
陽キャ力全開の猫宮…………五月によって、斗真と楓に新しい友達が出来たのだった。
「…………友達。確かに、良いものだね。友達って」
斗真と五月に聞こえないギリギリの声量で、楓は呟いた。
次の日、高校の教室にて。
「”かえちん”!放課後になったら、遊ぼうよ!」
「か、かえちん…………」
楓は突然、五月がニックネームで呼びだしたことに驚く。
距離の詰め方が凄い。
それでも、楓は良く見ないと分からないぐらいで口角を少し上げる。
親しく自身が呼ばれたのが嬉しかったみたいだ。
「あ、ついでに斗真も誘ってあげる」
「俺は次いで何かよ!」
やはり、突っ込みを入れる斗真であった。




