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『退魔鬼譚』 ~妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 保志真佐
第二章 口裂け女と猫又

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015妖具店




 試験が終了した斗真は楓、琴葉、墨岡と共に、鏡の空間から出て、元の隠し部屋に戻る。


 「この誓約書に名前を書いて頂戴」


 琴葉が斗真に差し出したのは、一般的な紙ではなく、昔ながらの和紙による誓約書だった


 そこには、墨で長々の文章が書かれており、下の方には、大きな朱印が押されていた。


 斗真は貰ったペンで名前を書く。


 「それじゃあ…名前の最後に、血判を押して」


 血判…自身の血による押判。


 琴葉が小刀を渡す。

 これで血判を押せと言うことだろう。


 斗真は小刀を受け取り、それで指を少し切る。


 流れた血を指に滲ませて、誓約書に判を押す。


 すると、誓約書に魔力が走る。

 その魔力は線のように斗真にも伝わる。


 まるで誓約書と斗真に糸で結ばれた感じだ。


 「これで契約成立。貴方は正真正銘、退魔士になったわ。おめでとう」

 「斗真、おめでとう」


 琴葉と墨岡が斗真をお祝いする。


 楓も拍手をしてくれた。


 「この誓約書は血判者と繋がっていて、貴方が危機に陥った時に、これで居場所が分かるようになっているわ」


 琴葉が言うには、この誓約書には、血判した者を探知する機能があるらしい。


 その後は、琴葉と電話番号を連絡先を交換した。


 こうして、斗真は退魔士協会・隗隗街支部の支部長である琴葉から、正式に退魔士として、認めて貰った。









 斗真が退魔士となった一方、隗隗街の駅前では、


 「ニャア~!パフェ美味しかったニャア」


 猫宮五月(ねこみやさつき)が、駅前にある喫茶店の新作パフェを食べ終わり、口にクリームを付けた状態で店から出る。


 表情は幸せそのものである。


 「それじゃあ、みんな!またね~ニャア」

 「うん、またね!」

 「また明日、五月!」


 猫宮は、友達と別れる。




 「ふんふふ~ん」


 猫宮は自身が借りているアパートに帰る途中である。


 イヤホンで音楽を聴きながら、スマホでユーチューブの動画を見ながらの歩き。


 ドン!


 「きゃ?!」


 当然、前方不注意となり、人にぶつかる。

 猫宮は軽い悲鳴を出し、尻もちをつく。


 「ご、ごめんなさいニャア」


 イヤホンを外し、ぶつかった人を見る。


 その人はパッと見、赤いコートに赤いブーツを履いた、成人女性であった。


 女性にしては、かなりの高身長。

 特徴的なのは、顔の半分以上を隠す大きなマスク。


 「…………」


 女性は冷たい視線で、無言のまま猫宮を凝視する。


 「えっと…その……ごめなさいです…………ニャア」


 猫宮は戸惑いながらも、立ち上がり、しっかりと謝罪する。


 何秒も待っても返事が無かった。


 恐る恐る猫宮が顔を上げると、


 「っ?!」


 女性が猫宮の顔を鋭く覗き込んでいた。

 顔は色白で、不気味さを醸し出していた。


 そして、女性は低い声で問いかける。


 「ねぇ……私、綺麗?」

 「え?」

 「私、綺麗?」


 女性の問いに面食らった猫宮は、戸惑いがちに返答する。


 「は、はい。き、綺麗だと………思い……ます」


 本当は不気味に思ったけど。

 それは口に出さずに、綺麗とだけ言った。


 「へぇ……それじゃあ」


 猫宮の返答を聞いた女性はマスクに手を掛け、


 「これでも、そう言える?」


 マスクを取り、口元を見せる。


 「ひっ?!」


 猫宮は女性の口元を見た瞬間、顔を真っ青にする。


 何故なら、女性の口元は…………耳元まで大きく裂けていたのだから。


 「化け物ニャアアアアア?!」


 猫宮の悲鳴が響き渡る。









 「斗真、まだ時間ある?」


 役所から出た楓は、斗真に聞く。


 「時間?まぁ…あるけど。家に帰っても、特にやることなんて無いから」


 それを聞いた楓は頷いて、両手を合わせる。


 「だったら、これから妖具店に行こうよ」

 「妖具店?妖具を扱う店ってこと?」

 「そうよ。斗真も退魔士になったことだし、斗真が武器として使うための妖具を探そうかと思って」

 「ああ、武器か」


 楓が言う妖具とは、妖気が込められた武具のこと。

 異世界での、魔力の込められ、魔法が発動される武具である魔具と同じ性質の物。


 楓の場合、空中を飛び回る黒い草履だ。


 斗真はこれまで妖獣である緑鬼と泥田坊に加え、琴葉との試合では魔力で肉体強化した素手による戦いをしていた。


 そもそも斗真は異世界に行く前は、妖怪や妖獣なんて知らなかったし、元の世界に帰ってきても、妖獣と戦うための武器である妖具なんて、持っているはずがない。


 「斗真って、武器は使わないの?」

 「いや、武器は使うぞ」


 異世界において、勇者である仁は剣、雫は杖を武器として使っていた。


 優香の場合は、回復役であったので、武器らしいものを使っていなかったが。


 勿論、同じ勇者の斗真も武器を使っていた。

 それこそ、専用の武器を。


 最初は仁と同じ剣を使っていたが、自身の戦闘スタイルに合わせて、武器を変えた。


 斗真のスキルである〈万能眼(オール・アイ)〉に最も適した武器に。


 「じゃあ、これから妖具店に行こう。斗真にピッタリな妖具があるかもしれない」


 そうして、斗真は楓の案内の下、役所から妖具店へ行くことになった。




 斗真たちが来たのは、隗隗街にある商店街だった。


 片田舎の商店街など、小規模と思いがちだが、意外と多くの店があり、商売で賑わっていた。


 「ここに妖具店が?」


 当然だが、妖具を扱った店が商店街にあるなど聞いたことがない。


 楓は斗真を連れて、商店街がある大通りから小さな横道に行く。


 「表通りから離れた裏路地にあるんだ」


 横道を進んでいくと、店の数が少なくなっていき、楓はある店の前に立ち止まる。


 それは如何にも明治時代に建てられた雰囲気の老舗の店だった。


 「ながつか」……店の扉の上にある大きな板目の看板には、そう書いてあった。


 一見して、繁盛しているように見えない、こぢんまりした店。

 木造建築みたいだが、板が黒ずんでいて、大地震が来たら倒れそうである。


 ここが妖具店?


 斗真がそう思ったのも束の間、楓はその老舗の店の扉を開ける。


 ガラガラガラ…と、扉が音を立て、楓が中に入る。

 斗真も続いて入る。


 店の中には、お客は誰もいなかった。


 そして、店の中には、いろんなお菓子が並べてあった。


 コンビニに無いような小さい飴玉や煎餅みたいなスナック菓子、斗真が小学生の時に買っていたような懐かしのビスケット。


 そうか………ここは駄菓子屋か。


 「ナガさん!いますか?」


 楓が声を張り上げて、店の奥へ呼びかける。


 すると、数秒経って、奥から女性がやってくる。


 「はーい。誰かしら」


 黒髪を綺麗にまとめ、葉っぱの意匠が施された緑の着物を着た女性であった。


 見た目の年齢は三十台だが、落ち着きのある印象で、若い女将さんって感じ。


 「あら、楓ちゃん。いらっしゃい」


 女性は楓を見て、微笑む。


 「今日も妖具のお手入れかしら?」

 「いえ、今日は斗真が使うための妖具を探しに来ました」


 楓は斗真に手を向ける。


 「とう……ま?」


 女性は斗真を見る。

 斗真を上から下まで見た後、ニッコリ笑う。


 「あらあら…これまた、かっこいい男の子ね。彼氏さんかしら」

 「か、彼氏じゃないです!」


 女性の言葉に、即座に楓は否定する。

 しかし、顔は真っ赤である。


 「ま、前に…ここへ来た時に言ったじゃないですか!退魔士として、私と一緒に戦ってくれる人を見つけたって」

 「ああ、言っていたわね」


 女性は合点がいったと、右手の平に左拳を乗せる。


 「その人が、彼と言う訳ね」

 「はい。斗真は妖怪ではないですが、妖人(あやかしびと)です。試験を受けて今日、退魔士になったんです。だから、斗真にも妖具を持たせようと思いまして」


 長子の確認に、楓は頷く。


 「楓と一緒に、退魔士をやることになりました。星原斗真です」


 斗真は自己紹介をする。


 「ご丁寧にどうも。長塚長子(ながつかながこ)よ。いろんな人から、ナガさんと呼ばれているわ。見ての通り、私が駄菓子店「ながつか」の店長をしているの」


 女性……長子も、丁寧に名乗る。


 そして、徐に左手首に巻いてあるミサンガを取る。

 途端に、長子から魔力を感じる。


 なるほど、この人も妖怪か。

 あのミサンガが「姿化かし」だろう。


 長子は微笑みを浮かべて、


 「お菓子が食べたくなった、いつでも…おいで。首をながーーーーーくして待っているから」


 そうして、長子は首を”物理的に”長くして見せた。


 見る見るうちに、長子の首の長さは数メートルにも達する。


 それは日本人なら誰でも知ってる妖怪である「ろくろ首」であった。




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