015妖具店
試験が終了した斗真は楓、琴葉、墨岡と共に、鏡の空間から出て、元の隠し部屋に戻る。
「この誓約書に名前を書いて頂戴」
琴葉が斗真に差し出したのは、一般的な紙ではなく、昔ながらの和紙による誓約書だった
そこには、墨で長々の文章が書かれており、下の方には、大きな朱印が押されていた。
斗真は貰ったペンで名前を書く。
「それじゃあ…名前の最後に、血判を押して」
血判…自身の血による押判。
琴葉が小刀を渡す。
これで血判を押せと言うことだろう。
斗真は小刀を受け取り、それで指を少し切る。
流れた血を指に滲ませて、誓約書に判を押す。
すると、誓約書に魔力が走る。
その魔力は線のように斗真にも伝わる。
まるで誓約書と斗真に糸で結ばれた感じだ。
「これで契約成立。貴方は正真正銘、退魔士になったわ。おめでとう」
「斗真、おめでとう」
琴葉と墨岡が斗真をお祝いする。
楓も拍手をしてくれた。
「この誓約書は血判者と繋がっていて、貴方が危機に陥った時に、これで居場所が分かるようになっているわ」
琴葉が言うには、この誓約書には、血判した者を探知する機能があるらしい。
その後は、琴葉と電話番号を連絡先を交換した。
こうして、斗真は退魔士協会・隗隗街支部の支部長である琴葉から、正式に退魔士として、認めて貰った。
斗真が退魔士となった一方、隗隗街の駅前では、
「ニャア~!パフェ美味しかったニャア」
猫宮五月が、駅前にある喫茶店の新作パフェを食べ終わり、口にクリームを付けた状態で店から出る。
表情は幸せそのものである。
「それじゃあ、みんな!またね~ニャア」
「うん、またね!」
「また明日、五月!」
猫宮は、友達と別れる。
「ふんふふ~ん」
猫宮は自身が借りているアパートに帰る途中である。
イヤホンで音楽を聴きながら、スマホでユーチューブの動画を見ながらの歩き。
ドン!
「きゃ?!」
当然、前方不注意となり、人にぶつかる。
猫宮は軽い悲鳴を出し、尻もちをつく。
「ご、ごめんなさいニャア」
イヤホンを外し、ぶつかった人を見る。
その人はパッと見、赤いコートに赤いブーツを履いた、成人女性であった。
女性にしては、かなりの高身長。
特徴的なのは、顔の半分以上を隠す大きなマスク。
「…………」
女性は冷たい視線で、無言のまま猫宮を凝視する。
「えっと…その……ごめなさいです…………ニャア」
猫宮は戸惑いながらも、立ち上がり、しっかりと謝罪する。
何秒も待っても返事が無かった。
恐る恐る猫宮が顔を上げると、
「っ?!」
女性が猫宮の顔を鋭く覗き込んでいた。
顔は色白で、不気味さを醸し出していた。
そして、女性は低い声で問いかける。
「ねぇ……私、綺麗?」
「え?」
「私、綺麗?」
女性の問いに面食らった猫宮は、戸惑いがちに返答する。
「は、はい。き、綺麗だと………思い……ます」
本当は不気味に思ったけど。
それは口に出さずに、綺麗とだけ言った。
「へぇ……それじゃあ」
猫宮の返答を聞いた女性はマスクに手を掛け、
「これでも、そう言える?」
マスクを取り、口元を見せる。
「ひっ?!」
猫宮は女性の口元を見た瞬間、顔を真っ青にする。
何故なら、女性の口元は…………耳元まで大きく裂けていたのだから。
「化け物ニャアアアアア?!」
猫宮の悲鳴が響き渡る。
「斗真、まだ時間ある?」
役所から出た楓は、斗真に聞く。
「時間?まぁ…あるけど。家に帰っても、特にやることなんて無いから」
それを聞いた楓は頷いて、両手を合わせる。
「だったら、これから妖具店に行こうよ」
「妖具店?妖具を扱う店ってこと?」
「そうよ。斗真も退魔士になったことだし、斗真が武器として使うための妖具を探そうかと思って」
「ああ、武器か」
楓が言う妖具とは、妖気が込められた武具のこと。
異世界での、魔力の込められ、魔法が発動される武具である魔具と同じ性質の物。
楓の場合、空中を飛び回る黒い草履だ。
斗真はこれまで妖獣である緑鬼と泥田坊に加え、琴葉との試合では魔力で肉体強化した素手による戦いをしていた。
そもそも斗真は異世界に行く前は、妖怪や妖獣なんて知らなかったし、元の世界に帰ってきても、妖獣と戦うための武器である妖具なんて、持っているはずがない。
「斗真って、武器は使わないの?」
「いや、武器は使うぞ」
異世界において、勇者である仁は剣、雫は杖を武器として使っていた。
優香の場合は、回復役であったので、武器らしいものを使っていなかったが。
勿論、同じ勇者の斗真も武器を使っていた。
それこそ、専用の武器を。
最初は仁と同じ剣を使っていたが、自身の戦闘スタイルに合わせて、武器を変えた。
斗真のスキルである〈万能眼〉に最も適した武器に。
「じゃあ、これから妖具店に行こう。斗真にピッタリな妖具があるかもしれない」
そうして、斗真は楓の案内の下、役所から妖具店へ行くことになった。
斗真たちが来たのは、隗隗街にある商店街だった。
片田舎の商店街など、小規模と思いがちだが、意外と多くの店があり、商売で賑わっていた。
「ここに妖具店が?」
当然だが、妖具を扱った店が商店街にあるなど聞いたことがない。
楓は斗真を連れて、商店街がある大通りから小さな横道に行く。
「表通りから離れた裏路地にあるんだ」
横道を進んでいくと、店の数が少なくなっていき、楓はある店の前に立ち止まる。
それは如何にも明治時代に建てられた雰囲気の老舗の店だった。
「ながつか」……店の扉の上にある大きな板目の看板には、そう書いてあった。
一見して、繁盛しているように見えない、こぢんまりした店。
木造建築みたいだが、板が黒ずんでいて、大地震が来たら倒れそうである。
ここが妖具店?
斗真がそう思ったのも束の間、楓はその老舗の店の扉を開ける。
ガラガラガラ…と、扉が音を立て、楓が中に入る。
斗真も続いて入る。
店の中には、お客は誰もいなかった。
そして、店の中には、いろんなお菓子が並べてあった。
コンビニに無いような小さい飴玉や煎餅みたいなスナック菓子、斗真が小学生の時に買っていたような懐かしのビスケット。
そうか………ここは駄菓子屋か。
「ナガさん!いますか?」
楓が声を張り上げて、店の奥へ呼びかける。
すると、数秒経って、奥から女性がやってくる。
「はーい。誰かしら」
黒髪を綺麗にまとめ、葉っぱの意匠が施された緑の着物を着た女性であった。
見た目の年齢は三十台だが、落ち着きのある印象で、若い女将さんって感じ。
「あら、楓ちゃん。いらっしゃい」
女性は楓を見て、微笑む。
「今日も妖具のお手入れかしら?」
「いえ、今日は斗真が使うための妖具を探しに来ました」
楓は斗真に手を向ける。
「とう……ま?」
女性は斗真を見る。
斗真を上から下まで見た後、ニッコリ笑う。
「あらあら…これまた、かっこいい男の子ね。彼氏さんかしら」
「か、彼氏じゃないです!」
女性の言葉に、即座に楓は否定する。
しかし、顔は真っ赤である。
「ま、前に…ここへ来た時に言ったじゃないですか!退魔士として、私と一緒に戦ってくれる人を見つけたって」
「ああ、言っていたわね」
女性は合点がいったと、右手の平に左拳を乗せる。
「その人が、彼と言う訳ね」
「はい。斗真は妖怪ではないですが、妖人です。試験を受けて今日、退魔士になったんです。だから、斗真にも妖具を持たせようと思いまして」
長子の確認に、楓は頷く。
「楓と一緒に、退魔士をやることになりました。星原斗真です」
斗真は自己紹介をする。
「ご丁寧にどうも。長塚長子よ。いろんな人から、ナガさんと呼ばれているわ。見ての通り、私が駄菓子店「ながつか」の店長をしているの」
女性……長子も、丁寧に名乗る。
そして、徐に左手首に巻いてあるミサンガを取る。
途端に、長子から魔力を感じる。
なるほど、この人も妖怪か。
あのミサンガが「姿化かし」だろう。
長子は微笑みを浮かべて、
「お菓子が食べたくなった、いつでも…おいで。首をながーーーーーくして待っているから」
そうして、長子は首を”物理的に”長くして見せた。
見る見るうちに、長子の首の長さは数メートルにも達する。
それは日本人なら誰でも知ってる妖怪である「ろくろ首」であった。




